86.金王林檎の在処

「ちょっと待っていてくださいね。バーンズを呼んで参りますので」

「バーンズさんが知っているのか?」

「冒険者だった頃に金王林檎を取りに行ったことがあるそうです。では、少々お待ちを」


 店の奥に向かったセレナを見送り、俺は配信機を使えないか試してみる。

 ……うん、やっぱり使えないな。

 ただ、録音機能だけは使えたので録音機として使わせてもらおう。

 バーンズさんたちの許可が下りればだけど。


「お待たせしました、フィート様。おや、その機械は……」

「ああ、俺たちの間で配信に使っている機械なんだけど」

「知っていますよ。おそらく録画機能は使えないでしょう。さしずめこの会話を録音したいといったところでしょうか?」

「ええ、そんなところです。大丈夫ですか?」

「構いませんよ。まあ、面白くない昔話ですが」


 そう言ってから、バーンズさんは冒険者時代の冒険譚を語ってくれた。

 ファストグロウの街で駆け出し冒険者としてさまざまな依頼を受けていたこと。

 セカンディルに移り、沈黙の森やガラナ平原で狩りに明け暮れていた時代のこと。

 そして、サーディスクへと渡り、幽玄の森や百獣の平原でボスクラスのモンスターと日夜戦いを繰り広げていたことなどだ。

 そこまで話し終えるとここからが本題といわんばかりに語り口調を変え始める。


「さて、フィート様が知りたいのは金王林檎に関することでしたな。金王林檎ですが、私が現役時代は沈黙の森最奥部にあった黄金の木から採取できたのです。もっとも、滅多に手に入りませんでしたが」

「そうなんですね。では、いまでも沈黙の森に行けば手に入ると?」

「それが、20年ほど前に沈黙の森付近で地殻変動が起こってしまい黄金の木が行方不明になってしまったのです。当時をしる冒険者は嘆いたものですよ」

「なるほど。それで、昔はこの商会でも取り扱っていた、と」

「はい。いまでは入手ルートがわからず手に入りません。フィート様はなぜお探しで?」


 バーンズさんに理由を尋ねられたため、金王林檎の腐葉土がほしいことを告げてみる。

 すると、バーンズさんにも心当たりがあるのか続きを話してくれた。


「金王林檎の腐葉土ですか。たしか黄金の木の葉が堆積してできた土だと聞いたことがありますが……」

「ということは、黄金の木がないと採取できないと」

「申し訳ありません。私が知る限りの知識ではそうなってしまいます」

「いえ、それがわかっただけでも十分です。ありがとうございました」

「お役に立てたのでしたら光栄です。なにかありましたらまたお立ち寄りください」


 さて、これで金王林檎の腐葉土の入手方法まではわかったぞ。

 ただし、入手元の黄金の木が行方不明か……。

 一歩進んだことは間違いないけど、次の壁にぶち当たった結果になったな。


「うーん、悩んでいても仕方がない。『20年前』ってキーワードはもらったんだ。それを知っていそうな人に話を聞いてこよう」


 こういうときに頼りになるのはやっぱりオババなんだよな。

 手土産に精霊の森にある薬草を摘んでからオババの家に向かって……と。


「ふむ……黄金の木か。懐かしい言葉が出てきたのぅ」

「オババも知っているのか?」

「まあの。あまり詳しくはないがのぅ」


 ちょっと意外だ。

 葉っぱが薬に使えるとかなんだろうか。


「黄金の木になる金王林檎、あれは不思議な力がこもっており食べれば傷や魔力が回復するそうなんじゃ」

「そうなんじゃ、ってことはオババは知らないのか?」

「人づてにしか聞いたことがないのぅ。なにせ、そういう特別な力があるせいで、サーディスクの大店などにしか流通せんかった。手に入れるのは少々面倒だったのでな、諦めたんじゃ」


 なるほど、オババらしくない気はするが元から薬として働くから研究する必要がなかったとみたのかな?

 そうなってくると、いま黄金の木がどこにあるのかも知らないよな……。


「黄金の木か……地殻変動でその姿を消したと聞くがどこに行ったのか」

「オババでも知らないとなると……姫様かな」

「姫様も知らぬと思うぞ。地殻変動のことは知っていても黄金の木の行方まで気にとめていたかどうか」

「あー、確かに」


 再度、黄金の木探しは振り出しに戻ったわけだ。

 と思ったら、オババが意外な助け船を出してくれる。


「なんだったらオジジのヤツに聞いてみるといい。研究に関してはヤツの得意分野じゃからの」

「あーなるほど。でも、会いに行っても大丈夫かな?」

「心配せんでもいいわ。ヤツも金王林檎はほしいじゃろうからな」


 というわけで、今度はオジジの家までやってきた。

 オジジに事情を説明すると拍子抜けするくらい簡単に家へと上げてくれる。

 そして、ここでも録音機能が使えたのでオジジに許可をもらい録音をしておく。


「さて、金王林檎……というか金王林檎の腐葉土がほしいんじゃったのう。黄金の木がどこにあってどうなったかは調べてきたか?」


 あー、ここでそうくるか。

 必要な情報を先に集めていないと教えてくれないってことかな。


「ええと、元は沈黙の森最奥部にあって、20年前にあった地殻変動でどこかに消えた。そこまでは調べがついてます」

「結構。まあ、そこまで調べがついていれば合格じゃろう。まずはこれを見るのじゃ」


 オジジが広げたのは一枚の地図。

 かなり古ぼけているあたり、年代物のようである。


「これが20数年前の地図。黄金の木はこのあたりにあった」


 オジジが指し示したのは……本当に森の最奥部だ。

 これ以上先はないと言えるほどの場所に黄金の木があったらしい。


「さて、次はこちらの地図じゃ」


 次に広げられたのは真新しい地図。

 これは最近のものだろう。


「見てわかるとおり、これは最近の地図じゃ。ほれ、沈黙の森が半分近く削り取られているであろう?」

「本当ですね。こんなに浸食されているなんて」

「まあ、本題は違うのでおいておくとしよう。本題は黄金の木の行方じゃ。二枚の地図を重ね合わせると……」


 二枚の地図、縮尺はほぼ同じようなので大体の形は合う。

 そして、黄金の木があった場所はというと……。


「これは……」

「黄金の木があった場所。そこはいまでいう『シロッコ氷河』じゃ。黄金の木の生命力は並大抵のものではない。おそらくは氷河のどこかにまだそびえ立っているだろう」

「なるほど……それなら探す範囲が大分絞れますね」

「お主の地図にもかつて黄金の木があった場所に印をつけてやろう。探すのであればそこを中心に探すといい」

「ありがとうございます、オジジ」

「なに、久しぶりに黄金の木の話を聞けたのでな。サービスじゃわい」


 さて、これで探す場所は決まりだな。

 でも、シロッコ氷河は行ったことがないし、氷河というからには敵は氷属性だろう。

 ……サイに協力をお願いしようか。

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