80.鉱山攻略 その3

「どっせーい!」


 またサイの気合いが入った声が木魂する。

 現在地点は地下十二階、未開拓エリアまであと少しと言ったところだ。

 文房具トリオいわく、この辺りから敵の構成が変わってきて敵の前衛後衛のバランスがよくなるらしいのだが……。


「次! どっかーん!」

「あー、ほどほどにな……」


 さっきからサイが全力で敵を倒しまくっているのだ。

 後方から襲ってくる敵はいないので、俺としては楽をさせてもらっているのだが……武器スキルが育たないな。


「なあ、坊主。あの姉ちゃんなにかあったのか?」

「いや、心当たりはないんだが……」

「それなのにあの暴れっぷりかよ。味方としては頼もしいが……敵のデータが取れないな」

「データ取りなんてしてたんだな」


 少し意外だった。

 この3人なら、結構勘でモンスターを倒している気がしていたんだけど。


「バカヤロー。こちとら本気の戦闘職じゃないんだぜ? 敵の弱点とか出現パターンとかを記録しておかないとあとが続かなくなっちまう」

「なるほど、確かに。サイを呼び戻すか?」

「……いや、なんだか楽しそうに暴れてるしなぁ。とりあえず、この群れを倒し終わるまでは好きにさせておこうぜ」

「了解した。……しかし、援護射撃をする隙もないな」

「敵のポップ位置がわかっているみたいな動きをしてやがるもんな。気がついたらもう倒してやがる」

「本当に楽ではあるんだが……」

「なんか申し訳ねぇな」


 そうしてたっぷり5分ほど破壊の嵐を巻き起こし、サイは上機嫌で帰ってきた。


「いやー、久々に暴れられて満足満足! 通路湧きタイプのモンハウなんて滅多にないからね」

「は? お嬢ちゃん、いま何つった?」

「通路湧きのモンスターハウスって言ったんだよ。実際、マッピングされてるのもここまでだよね?」

「ああ、その通りだ。前に来たときも、モンスターに邪魔されて進めなかったんだが……」

「じゃあ、確定だね。ここは通路タイプのモンスターハウス。結構、陰険なトラップかな」

「……サイ、通路タイプのモンスターハウスってなんだ?」

「フィートはわからないよね。モンスターハウスって、基本的に小部屋の中とかに配置されているものなんだけど、たまにこうやって通路にも配置されているの。もっとも、順路に配置されていることなんてまずないんだけどね」

「普通のモンスターハウスとは違うのか?」

「えーっと、普通のモンスターハウスは一度に大量のモンスターが湧いて終わり。通路タイプのモンスターハウスは敵を倒すたびに次の敵が呼び出されて、一定数倒すまでそれが繰り返されるの。だから最速の攻略法は、私がやって見せたようにモンスターのスポーンポイントで攻撃し続けることだよ」


 ……危険で無茶なことを軽々しく言ってくれるな。

 いや、サイの腕前なら問題ないのか。


「なるほどなぁ。……つーことは、ここを通りたかったら毎回モンスターどもを全滅させなくちゃいけねーのか」

「うーん、どうだろうね? 私は倒した方が手っ取り早いから倒したけど、普通に鉱山掘りに来た人じゃ無理でしょう? どこかに解除のための仕掛けがあると思うの」

「ふむ……それを見落としてた訳か」

「そうか。ペン、探しに行くか?」

「いや、坊主、それは俺たちだけで来たときに探すぜ。時間をロスしたくねーし、あのモンスターハウスさえなければ十二階まで来るのは苦じゃないからよ」

「了解した。じゃあ、先に進もうか」

「おうよ。ノート、マッピングは大丈夫か?」

「オーケーだ。……しかし、このモンスターがトラップだったとはなぁ」

「倒しても倒しても次々出てくる時点で気付くべきだったよなぁ」

「反省はあとあと。先に進もう!」

「だな。こっから先はマップがないから慎重に行くぞ」


 ペンの『慎重に行く』という言葉通り、罠を警戒しながら先に進むことになった。

 まあ、ダメージ系の罠はサイが踏み抜いて無効化していたんだがな。

 サイの防御力の前じゃ、このダンジョンのダメージトラップではノーダメージらしい。

 拘束系や落とし穴系はなんか長い棒を持ち出して、それを使って作動させていた。

 洞窟系ダンジョンはいろいろな罠があるために、こういった装備も必要になるそうだ。

 洞窟系のダンジョンに来たことがない、俺には勉強になるね。


「……あれが地下十三階への階段か」

「分岐路がなかったな」

「採掘ポイントは何回かあったのにな」

「モンスターの湧きも少なかったぜ?」

「この階はあのモンスターハウスをなんとかして見せろってことなんじゃない?」

「……そういうことかよ。帰ったらガオンたちにも報告して、ギミック探しだな」

「ああ、後半部分からの鉱石掘りはおいしかったからな」

「魔銀鉱石なんかが結構な割合で混じり始めたのは嬉しいぜ」

「魔銀鉱石?」


 聞いたことのない鉱石だな。

 銀鉱石とはどう違うのだろうか?


「ああ、鍛冶か錬金系の生産者でもなきゃ知らないわな。魔銀鉱石はミスリルの原料なんだ」

「これだけじゃミスリルになんねーのがこのゲームの痛いところ何だがな……」

「魔銀だけでインゴットを作ると魔鉄のインゴットになるのは納得いかん……」


 よくわからないけど、ミスリルの原材料のひとつだということはわかった。

 他の素材は聞いても仕方がないし、そのままにしておこう。


「ちなみに、他の素材はモンスタードロップと薬草類らしいぞ」

「ガオンがぼやいてたな、ミスリルを作るのに何で薬草がいるのかって」

「決して簡単に手に入る薬草じゃないそうだ」


 ……これ、俺だったら簡単に手に入るかもな。

 教える理由もないし、ガオンに迫られても困るから黙っておこう。

 必要そうなら、オババ経由でみすふぃに話が行くだろうし。


「……さて、そろそろ次の階に進むか」

「十三階も同じような仕掛けがあるといやなんだけど」

「そいつは無いと思うぜ、坊主。……今度はモンスターとエンカウントしやすいとかならあるかもだが」

「だいじょーぶ! 前方のモンスターは私が全部ぶん殴るから!」

「……頼もしいお言葉で」


 それじゃ、俺は後衛の援護を中心に立ち回るとしよう。

 次の階はどんな仕掛けになっているのやら……。

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