81.鉱山攻略 その4

「……なにもないな」

「ああ、なにもないな、坊主」

「というか、天井までないってどういう理屈よ」


 気合いを入れてやってきた十三階、そこはいままでのような洞窟内ではなく、青々とした平原が広がる穏やかな丘陵地帯だった。


「……どうするよ、坊主、サイ。フィールドが切り替わるなんて想定外にもほどがある。いままで掘った中にもお目当ての銀鉱石はいくつかあったわけだし、今日のところは引き返さねぇか?」

「なによ、ペン。ずいぶんと弱腰じゃない。ダンジョンなんて進んでなんぼでしょうが!」


 勢いのまま突き進もうと主張するサイに対し待ったがかかる。


「いえ、そういうわけでもないんです。このダンジョン内で全滅すると、ダンジョンで入手したアイテムを全部ロストしてスタート地点まで戻されるんです」

「うげ、て言うことはうかつにこのまま進んで、強い敵に出くわしでもしたら大変な事になるのね」

「だな。サイの嬢ちゃんは強いからどうとでもなるだろうが、儂ら4人は危ないかもしれん。悪いことは言わん、一度出直すぞ」

「むー。なんとなく消化不足だー」

「はいはい。護衛対象たちが帰るって言ってるんだし、俺たちも帰り支度だ」

「はーい。機会があれば必ずこの先も攻略してみせる!」


 機会……機会ねぇそんなものが都合よく降って湧いてくることなんてあるとは思えないんだが。

 と、このときの俺は考えていた。

 だが、現実は甘くなかったようだ。


「……マジか、ガオン」

「マジですよ、フィートさん。サイさんという特級戦力がいるうちに攻略を進めたいですからね」


 この日の結果をガオンの元に戻って報告した訳だが……ガオン的にも十三階に興味があるようだ。


「丘陵地帯ということは鉱石の採掘だけでなく、薬草類の採取などもできますからね! 夢は広がりますよ!」

「本気だねー、ガオン」

「ええ、まあ。薬草園のイベントは発見して開始できたのですが、今度は依頼された肥料の入手先がわからず……」


 肥料の入手先か、俺やサイなら一発で答えにたどりつけるよな、これ。

 チラリとサイの方に視線を向けると、サイは首を横に小さく振った。

 ……まあ、あっちのクエストはあちらでがんばって、というところか。


「……おっと、愚痴を聞かせてしまいましたね。僕たちがクエストを進めていることはどうか内密に」

「わかっている。それで、俺たちが依頼したアイテムってどれくらいで入手できそうなんだ?」

「そうですね……。あと一週間から二週間程度でしょうか。何分、レアアイテムも含まれていましたので」

「……その割には、銀鉱石採掘の護衛なんて楽な仕事だけで終わり、って言うのは話ができすぎじゃない?」


 サイの指摘を受け、ガオンは少し困ったような表情を浮かべてから言葉を続ける。


「……実は、最近あの鉱山内で未確認のモンスター情報があるのですよ。どんなモンスターかも、いつの間に接近されたのかも不明という恐ろしいモンスターがね」

「なるほど。私ならそれに対処できると」

「サイさんでダメでしたら、しばらく鉱山での採掘は諦めざるを得なかったでしょうね。今回の一件で地下十階まで一気に降りれば襲われる可能性が少ないこともわかりましたし」

「だといいんだけど。それで、再探索はいつを予定しているの? 私たちもスケジュールを合わせなくちゃいけないんだけど」

「……そうですね。来週の土曜日夜としましょうか。それまでの間に地下十二階のトラップについて調査してみます」

「構わないけど、無茶はしないでね。いざとなったら私がドーンすればいいんだから」


 ……つまり、サイがモンスターを吹き飛ばしたいんだな。

 今回は問題なかったけど、次も問題ないとは限らないわけだし、そういうのはやめてほしい。


「当日は、うちのギルドからも戦闘系のメンバーを出しますのでご心配なく。それでは、細かい資料作りを始めましょうか」


 来週の予定が決まった俺たちは、文房具トリオが調べてきたマップや鉱石の分布などを詳細に図面へと起こしていった。

 その間、俺たちは意見を求められることがあったが……正直、モンスターハウスのトラップ以降、敵が出てきていないので語るべきことはなにもない。

 俺もサイもそのことを伝えて、地図作りは完成まで続けられた。


「……ふむ、これが十二階のマップですか。例のモンスターハウスできっちりと半分に分けられていますね」

「だろう。絶対何か仕掛けがあるぞ」

「ですね。今日はお疲れ様でした。フィートさんとサイさんも今日はゆっくりお休みください。銀鉱石は来週お渡しいたします」

「えー、いまじゃないの?」

「……サイさんたちが必要としていたのは純度99%以上に精錬された銀鉱石なのですよ。なので、大きさはさほど大きくなくて問題ないそうですが、何分純度を上げるのに数日時間がかかるもので……」

「そういうことは早めに言ってよ!」

「申し訳ありません。ともかく、来週までには仕上げておきますのでどうかよろしくお願いいたします」


 その日はこれで解散となり、翌週の土曜日にまた集まることとなった。

 あの丘陵地帯、いやな予感がしたんだが……な。

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