72.そのころの生産職連合協同組合

「みすふぃさん! 日光草と月光草三十個ずつ追加です」

「はーい、そっちに置いておいてください」

「わかりました!」


 生産職連合協同組合のギルドホームに設けられた調合用特設スペース。

 そこでは、みすふぃを始めとした【調合】持ちプレイヤーがせわしなく動き回っている。


「セイラさん、ミドルポーション、これだけっすか?」

「これだけよ。変換効率が段違いに悪いんですもの仕方がないでしょ」

「了解です。その辺もあわせて価格設定するように、交渉班に伝えておきます」

「頼んだわよー」


 一階は本来【裁縫】と【錬金術】用のスペースだったのだが、急遽【調合】スペースも設置した。

 その結果として手狭になってしまったので、どこかできちんとしたスペースを用意しなければならないな。


「あ、ガオンさん。どうしたんですか」

「ああ。調子はどのような感じかと思って見に来たんだ」

「調子はすこぶる好調ですよ。買っていただいた初級調薬機のおかげでペースが二倍になってますから」

「それは重畳だ。五十万リルの出費は伊達じゃなかったな」

「はい。これのおかげでリジェネポーションやメディテポーションもガンガン量産できますよ」


 リジェネポーションメディテポーションか……。

 さて、どうしたものかな。


「みすふぃ、そのポーションについてなんだが。うちのギルドでも受注生産はできないか?」

「受注生産ですか? どうしてまた?」

「いや、掲示板の方を見てきたんだが、フィートさんはなかなか派手にやっているようなんだ。明日以降は合計百個までに生産数を絞るらしいが……」

「ああ、なるほど。大人数が集まったギルドが個人に負けていては立つ瀬がないと」

「……身も蓋もないことを言えばそうなる。できそうか?」

「うーん、可能不可能で言えば可能でしょうか。私以外にも低級リジェネポーションと低級メディテポーションが作れるプレイヤーはいますし、熟練度的にとってもおいしいので断る理由もないでしょう」


 おお、みすふぃも乗り気か。

 これは助かる!


「そうか。それなら一日の受注数だな」

「はい、そうなりますね。それは今後話し合って詰めていきましょう。それで、受注したときの儲けってどうなるんですか?」

「あちらは一個あたり一万リルでやっているようだ。こちらもそれくらいで請け負おうと思うがどうだ?」

「一万ですか。できれば二万取りたいところですが……あちらさんが一万でやっている以上、仕方がないですね」

「そうだな。代わりに、日光草と月光草の買い取りはひとつあたり二万で行おうと思うがどうだ?」

「二万で仕入れて五万で売る。いいんじゃないですかね。需要が落ち着いてきて取引価格が下がったら、買い取り価格も下げればいいんですし」

「そうだな。ではその方針で動こう」

「よろしくお願いしますね。……それにしても、SPが足りません……」


 またこの愚痴か。

 まあ、メンバーの愚痴に付き合うのも仕事のうちだな。


「熟練度はたまったのか?」

「はい。【初級調薬術】のレベルマックスまで行ってます。熟練度もたまってます。SPがないです……」

「みすふぃは錬金も上げていたからなぁ」

「まったくです。私は薬専門だったんです。そこに【調合】なんて素敵スキルが追加されたら取りに行くしかないじゃないですか!」

「……まあ、木工で家具専門の俺にはわからないでもないが……そういえば、作れる薬の種類はどうなっているんだ?」

「えーっとですね。【初級調薬術】に上がったときに、ミドルポーションとミドルMPポーションが増えました。そのあと、調合ギルドで講義を受けて耐毒薬と耐麻痺薬が増えましたね。あとは、秘伝書で下級リジェネポーションと下級メディテポーションが増えましたが……」

「素材がわからないんだったな」

「治癒草と心癒草ってなんですか……どこに行ったら手に入るんですか……」


 みすふぃからアイテム名を聞いたときはなんだそれってみんなが思ったからな。

 結局、プレイヤーズマーケットで実在を確認してようやく信じられたのだが。


「俺たちも全力で探してるし、マーケットの履歴も洗っているが……取引履歴がないんだよな」

「そんな薬草で薬を作れとか鬼じゃないですかね、運営」

「気持ちはわかる。あと、頼みの綱はサーディスクにあると噂の薬草園か」

「実在するんですかね、薬草園」

「NPC情報だから実在はするんだろうさ。ただ、行き方と稼働しているかどうかがわからないだけで」

「うーん、仮に行けたとしてもそれだけじゃなにも起こらない可能性もありますよね。あのオババさんのお店のように」

「そうだな。俺たちは裏口から連れて行ってもらったようなものだ。せめて正面から入って行ければ別なんだろうが」

「私もオババさんに弟子入りしたいなぁ。フィートさんたちに掛け合ってもらえませんかね、マスター」

「……都合のいいときだけマスター呼びを。聞いてみるだけならかまわないぞ。のぞみ薄だが」

「それでもかまいませんよ。調合ギルドの体質に辟易してきただけですので」


 調合ギルドの体質か……。

 木工ギルドも『学びたいヤツだけ来ればいい』的なノリだったが、調合ギルドはもっとひどいからな。

 みすふぃを始め調合系のメンバーはやってられないだろう。


「あー、私も恵まれた環境でのびのびとスキルを学びたいですぅ。フィートさんたちが本当にうらやましいです」

「気持ちはわかる。だから、いまは押さえてくれ」

「はーい。それでは、交渉の方、頼みましたね」

「ああ、任せてくれ」


 しかし、厄介なことを頼まれてしまったな。

 サイさんはともかく、フィートさんはなんとなくなにを考えているかつかめないというか……。

 一緒に生産をしていたときはこちら側に通じるところがあったのだが。


 ともかく、折を見て連絡してみよう。

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