71.元凶の正体は……
サイに指示されたとおり地上へと降り立つ。
そして、しばらく歩くとそこには昨日いた舎弟口調の男が待っていた。
「ああ、姉御。来てくださったんですね」
「呼ばれたからにはね。それで、私たちを監視していたプレイヤーってのは?」
「あっちにいます。ついてきてください」
男の案内で移動すると、そこにはひとりの少年プレイヤーが座り込んでいた。
「ひょっとしてこの子が私たちを監視していたの?」
「はい、間違いありません。ついでにいえば、フィートさんのことを攻略掲示板に広めたのも認めてますね」
「ふーん、そうか」
「……昨日も思いましたが、フィートさん、ずいぶんと反応が薄いですね?」
「まあ、実害はほとんど出てなかったからなぁ。こちらとしても低級リジェネポーションと低級メディテポーションの大量受注ができるようになって熟練度的においしいし」
「はぁ……」
「諦めて。フィートってこういうずれたところがあるのよ。それよりも、あんた、誰?」
「あ、姉御も知らないんですね」
「知らないわよ。フィートは知ってる?」
「知らないな」
どこかですれ違ったとかならあるかもだが、顔見知りではない。
さて、どこの誰だろう?
「ふん、僕のことを知らないなんてとんだモグリだな! 【調合】をやってるくせに!」
「別にどうでもいいことでしょ。そもそも私たちはオババから習っているんだし」
「だな。少なくとも、オババ関係で会ったことはないはずだが」
「当然だろ! 僕はオジジの弟子なんだからな!」
オジジの弟子?
そんなプレイヤー……ああ、心当たりがいた。
それは俺だけでなく、残りのふたりも一緒のようだ。
「オジジの弟子っていうことは、あんたが空色マーチ?」
「ようやくわかったか!」
「ええ、ようやくね。そもそも、あれだけの騒ぎを起こしておいて顔を知られていないって言うのもおかしな話だったんだけど」
「そんなの僕が知るかよ!」
「だろうな。それで、俺に嫌がらせをしてきた理由はなんだ?」
どうにも、俺に嫌がらせをする理由が見えてこない。
俺なんかを個人攻撃したところで得られるものなんてないはずなんだが。
「ふん、わからないなら教えてやるよ。僕がオジジのところを追い出されたのに、お前はまだNPCの弟子を続けているからな。お前も僕と同じようになればいいと思ったんだよ!」
「……つまりくだらない八つ当たりってわけね」
「くだらないとはなんだ!」
「いや、十分くだらないだろ」
「そうですねぇ……」
なんだか、こんな人間に振り回された攻略掲示板の連中がかわいそうに思えてきた。
まあ、あいつらもバカだからあまり同情はしないけど。
「それで、オババのところは追い出されたんだろうな?」
「いや、追い出される訳がないでしょ? どうして追い出されると思ったのよ……」
「なんだと!? 僕はオジジのいうとおり、弟子候補を連れていっただけで破門されたのに!」
「いやいや、それはあんたが無責任にプレイヤーを集めたせいでしょ? 私も詳しい経緯はよく知らないんだけど」
「大体あってますよ姉御。破門されたっていうのもそれが原因だと思います」
そういえば、オジジもそんなことを言っていたようなそうじゃないような。
どちらにしても、空色マーチという少年の独り相撲なんだから知ったことじゃない。
「この……なら、もう一度攻略掲示板でお前のことをけしかけて……」
「あ、それもう無理っす。リジェネもメディテも供給されるようになりましたし、フィートさんからも物々交換で提供されてます。この状況でフィートさんにケンカを売るバカはもういないですよ」
「なんだと!?」
「っていうか、前回だって踊らされたのは一部のバカだけですしねぇ。騒動のときはかなりのプレイヤーが動きましたけど、今回はせいぜい二十から三十程度しか動いてないですよ?」
「あんたも踊らされたバカのひとりでしょ?」
「いや、面目ない」
それを聞いた空色マーチは怒りなのか絶望なのか知らないけどわなわなと震えている。
さて、次はどうするのかな?
「ふざけるな! どうして僕はダメでお前は許されるんだよ!!」
「いや、許されるとかそういう問題じゃないっしょ。単なる利害関係の一致と一部のバカが扇動されただけのことで」
「そうっすねぇ……。そもそも君の場合、NPCの意向を聞かずに勝手に行動した結果だからなぁ。許されるはずないでしょ」
「フィートみたいにどこかズレてるならともかく、普通の神経をしていれば当然の結果だと思うけど」
さらりとバカにされた気がするが黙っておこう。
対する空色マーチは……顔が真っ赤になってきたな。
「そんなの認められない! 僕だってみんなに認められたいんだ!!」
「チヤホヤされたい、の間違いでしょ? どちらにしてもいまのあんたじゃ無理よ。普通のプレイヤーとして一から出直しなさい」
「なっ、一からやり直したってうまくいくわけないだろ!!」
「そんなのわからないわよ? いまは第四陣向けのアップデートがあった直後だし、まだ未発見のイベントやスキルがあってもおかしくないもの」
「……その根拠は?」
「あんたが【調合】を見つけられたことが根拠でしょうが。誰かに教わったわけじゃないんでしょ?」
「まあ、それはそうだけど」
「なら、チヤホヤされたいんなら自力でなんとかすることね。まだやるっていうんだったら相手になるけど?」
「……わかったよ。キャラクターを再作成して一から出直すよ」
「まあ、それがいいでしょうね。『空色マーチ』は悪い意味で有名になりすぎてるから」
「ふん。……それじゃあな」
それだけ言い残すと、空色マーチはログアウトしていった。
俺としては、黒幕というか元凶というかがおとなしくしてくれるならどうでもいいんだけど。
「姉御、あれでよかったんですかい?」
「ええ、十分でしょ? 力尽くで解決、ってならなくてよかったわ」
「……姉御たちがいいっていうならこれ以上なにも言いませんが」
「あと、運営にはきっちり報告しているからね。メールで『これ以上なにかしてきた場合、厳正な対処を行う』って回答がきてるわ」
「抜け目ないですね」
「当然」
相手の言質だけでなく運営への報告もしていたのか。
よくやるよ、本当に。
「それじゃ、自分はこれで失礼しますね」
「ええ。私たちも行くところがあるから」
「それじゃ、助かったよ」
「いえいえ。ポーション助かってますんで」
「いっておくけど、数は増やせないわよ」
「了解です。それじゃ、またよろしく」
走り去っていく舎弟風の男を見送り、俺とサイは再び空へと飛び上がる。
目指すは姫様の居住地、白の塔だ。
「さあ、胸につっかえていた問題も解決したしサクサク行くわよ、サクサク!」
「はいはい。落ちないようにしっかり捕まってろよ」
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