69.受託生産は計画的に

 さて、昨日もボス周回を経てのログアウト。

 経験値はそこそこたまってきたので、もう少しで適正レベル圏内に入る頃だ。

 ちなみに、いま俺がいるのはいつもの公園……ではなく、ファストグロウ東の広場である。

 公園は元凶に見張られている可能性があるので、こっちでログアウトすることにしたんだよな。

 念のためという話だったが……騒ぎの元が見つかっていないというのは本当に気持ちが悪い。


「あ、おはよう、フィート」

「おはよう、サイ。なにか考え事か?」

「いや、考え事、というかねぇ……」


 サイはメニュー画面を開いてブツブツ独り言を言いながら、なにか考え込んでいる様子だ。

 さて、なにをそんなに悩んでいるんだろう?


「問題があったなら相談に乗るぞ?」

「あー、そうね。フィート、低級リジェネポーションと低級メディテポーション、一日に何個くらい製造できそう?」


 ポーション生産か。

 ……あー大体読めてきた。


「持ち込み依頼の件か」

「そうなのよ。早速依頼が来ていて、どっちもどうなってるのか日光草と月光草それぞれ百ずつ近い薬草を集めてきてるのよね」

「百ずつとなると二百か……できないこともないが、しんどいよな……」

「でしょうね。百ぐらいで断っておく?」

「……いや、今日は二百で請け負おう。明日からは上限合計百で」

「上限百でも熟練度的にはめちゃくちゃおいしいものね」

「そういうことだ。……ああ、そうそう。今日の持ち込み分で薬草が余るようだったら買い取ってきてもらってかまわないぞ」

「ふむ、その心は?」

「明日、薬草と交換でポーションを渡せるようにしたい」

「なるほど。それじゃ、足りなかったら生産職連合協同組合にも薬草が余ってないか聞いてみましょう」

「任せた。俺は今のうちに採取に行っておくよ」

「了解。私も薬草の受け渡しが済んだら採取に向かうね」

「ああ、頼んだ」

「うん、頼まれた。またあとでね」


 取引場所へと向かっていくサイを見送り、俺も精霊の森へと向かっていく。

 そこでいつもどおり、二時間ばかり採取してさまざまな薬草を集める。

 そして、これまたいつもどおりオババの店に薬草を持ってきたのだが……なんだか視線を感じるな。

 特殊フィールドに入ったせいで周囲の様子がわからなくなったが……誰かいたんだろうか?


「よく来たね、フィート。サイの嬢ちゃんはもう奥で待ってるさね」

「あれ、サイの方が早く来てたんだ」

「今日は嬢ちゃんの持ち込みが少なかったからね。なんでも急いで持ってきたからだとか」

「そうですか。……あ、今日の持ち込みです」

「いつも悪いねぇ。……よし、品質も問題なし。そら、今日の代金だよ」

「毎度です。それじゃあ、調合室を使わせてもらいますね」

「ああ、好きに使いな」


 オババに一言断って店の奥に入っていく。

 そこでは、オババが言っていたとおりサイが待っていた。

 暇つぶしなのか、MPポーションを作っていたが。


「あ、フィート。お帰りなさい」

「ただいま。なんでMPポーションを作ってたんだ?」

「だって、低級リジェネポーションと低級メディテポーションを作る時ってMPをそれなりに使うでしょ?」

「そういえばそうだな」

「深緑の腕輪で常時回復が発動しているからってまかなえないわよ。MPポーションも飲まないと」

「そう言うことか。サンキューな」

「いえいえ。で、日光草と月光草だけど、約三百個ずつ受け取ってきたわ」

「……一晩でよくかき集めたものだ」

「フィート、あなた掲示板で素材の場所を公開してもいいって許可出したでしょ? で、そのあとは全員で精霊の森をくまなく捜索と」

「大丈夫だったのか、それ」

「大丈夫だったんじゃない? 採取ポイントが個人別なのは常識だし、お互いにカラスを警戒する人間が多いのは得しかないわけだし」

「そんなもんか」

「そんなもんよ。それじゃ、フィート。ちゃきちゃきポーションを作っていきましょう」

「だな。まさかこの数作るとは思ってなかったけど」


 三百ずつ、つまりは六百か……。

 熟練度はこれに三百をかけた値なんだよなぁ。


「……余裕で初級の熟練度を完全突破よね」

「そうなのか?」

「ええ、そうよ。初級の熟練度は、八千、一万、一万二千、一万五千の四段階らしいから」

「合計四万五千か。余裕で突破だな」

「問題は、それぞれの段階にあわせたスキルレベルまで上げないといけないことかしらね」

「そうなのか」

「ええ、そうよ。で、問題は【初級調薬術】からスキルレベルを1レベル上げるのに必要なSPは2ポイントになることよ」

「……二倍必要と」

「そういうことね。フィート、いまのSPは?」

「えーと。113だな」

「……そういえばスキルを鍛えてなかったわね」

「そういうことだ」

「とりあえず、メイン武器スキルを30ずつまであげてちょうだい。そうすれば基本攻撃倍率が上がるから」


 サイの勧めに従い、【アサルト】と【スナイパー】のスキルレベルを30まで上昇。

 覚えたスキルのレベルはまだ0のままでいいそうなので覚えていない。


「よし、それじゃあ、残りのSPは全部【初級調薬術】に割り振る覚悟でスキル上げを行うわよ」

「了解だ。それじゃ、始めるとするか」


 そのあとはひたすらゴリゴリと低級リジェネポーションと低級メディテポーションを作成だ。

 熟練度がたまるたびにスキルレベルを上げて、次の段階へと進む。

 そんな修行もSPが尽きたことで途中終了となり、あとは残りの薬草類をポーションに作り替える作業となった。

 午前中だけでは終わらなかったので、午後も一時間ばかり時間を使い作業をして作業終了となった。


 その間、サイには完成したポーションを渡しにいってもらっており……依頼主には大変喜んでもらえたそうな。

 もっとも、明日以降は限定百個だと伝えると、調整が大変だと嘆いていたらしいが。


「お待たせー。フィート、生産は終わった?」

「お帰り、サイ。終わったぞ。とりあえず、完成した分は渡しておこうと思うが、インベントリは大丈夫か?」

「余裕があるから平気。あと、作成の代金ももらってきたから受け取って」


 代金についてはサイと五分五分にするつもりだったがサイは受け取ってくれず、八対二にしかならなかった。

 それでも、受け取った代金はかなりの額になるから、使い道にまた困りそうだ。


「さあ、フィート。張りきってボス周回に行くわよ!」

「はいはい。でも、ザコで少しレベルを上げてからボスに行ったほうが、効率がよくないか?」

「今更そんなことできないわよ! 目指せ、カーズファントムの魂!」

「……了解。さあ、行こうか」


 ポータル転移で移動するつもりのないサイを抱きかかえて、空へとジャンプする。

 そのとき、またまとわりつくような視線を感じた。


「フィート、どしたの?」

「いや、なにか視線を感じたんだが……俺の気のせいだろ」

「ふうん。とりあえず、移動しましょ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る