67.元凶は誰か

「それじゃ、あんたらを扇動してたプレイヤーはわからないっていうの?」

「……ああ。俺たちも匿名掲示板でしか知らねえよ。さっき近づいてきたヤツも掲示板を見てきたって言ってたしな」


 サイがプレイヤーキラーたちをボコボコにしたあと。

 奴らは事情聴取に対して割と素直に知っていることを話していた。

 逆をいえば、ほとんどなにも知らないとも言えたのだが。


「……呆れた。そんなことをして、本当にどうにかなると思ったのかしら」

「それを言うならこっちのセリフだ! あんな有用なアイテムを独占しやがって!」


 独占……独占ねぇ。

 確かに独占してはいたが、それって俺たちのせいじゃないしな。


「ほざきなさい、ザコ。別に独占しようとして独占していたわけじゃないわ。現に、もう他のプレイヤーも作れるようになったしね」

「……マジかよ」

「マジよ。もっとも、市場に流れる量はごく少数なのは変わらないけど」


 このの話にプレイヤーキラーが気色ばむが……サイににらまれておとなしくなったな。


「最後まで話は聞きなさい。低級リジェネポーションと低級メディテポーションは、一日で入手できる素材の量が極端に少ないのよ。しかも、入手できる場所も限られているしね」

「つまりは素材不足ってことか?」

「そういうことよ。ミドルポーションなんかよりもはるかに素材不足ね」


 その話を聞いたプレイヤーキラーたちはお互い顔を見合わせた後、こう切り出してきた。


「それって、俺たちが素材を入手することはできねぇのか?」

「ふむ? 素材の入手ねぇ……」


 サイがこちらをチラリと見てくる。

 素材について話すかどうか俺が判断しろってことだろう。

 ……ただなぁ、生産職連合協同組合にも話をしてしまったからな。


「……悪いけど、素材の話はまた今度だ。ほかに作れるようになったプレイヤーたちにも確認を取らないと」

「……ちっ、まあ仕方がないか。で、素材のことが知れ渡ったとして、素材持ち込みだったら作ってくれるのか?」


 素材持ち込みでの作成か……。

 うん、悪くはないな。

 熟練度的においしい案件だし。


「手数料をもらえるなら考えるよ。あと、素材の品質が悪かったら完成品も微妙になるからそのつもりで」

「……おい、俺が聞くのもなんだが、かまわないのか?」

「ん? なにがだ?」

「いや、俺たちはお前をPKしようと襲ったんだが……」


 ああ、そのことか。

 んー、なんと返そうかな……。


「それについては許すつもりはないが……サイがボコボコにしてしまったからなぁ。それで復讐というか反撃というかはできたし、もうどうでもいいというか」

「いや、フィート。そこは気にしようよ」


 そう言われてもな。


「だがな、サイ。どうせプレイヤーズマーケットにアイテムが並ぶようになったら、こいつらだって買えるようになるんだぞ。だったら、気にしたってしょうがないだろう」

「む……まあ、そうかもしれないけども」

「というわけで、一回サイがボコったことで手打ちだ。また仕掛けてくるなら容赦しないと思うけど、サイが」

「……もう襲わねえよ。突撃姫相手にPvPかますなんて分が悪すぎる。まして、レッドネームになるんだったらなおさらだ」

「らしいぞ、サイ」

「仕方がないわねぇ。それじゃ、私も手打ちにしてあげましょう。奪ったものは返さないけど」


 そういえば、PvPルールで装備以外の全アイテムと所持金を奪い取ったんだっけ。

 よくやるよな。


「……痛くないといえば嘘になるが、仕方がねぇだろうな。でだ、素材がわかったとして持ち込み依頼をするにはどうすればいい?」

「そうねぇ……どうしたものかしら?」

「普通に俺に連絡じゃダメなのか?」


 そう言った途端、全員から「なに言ってんだコイツ」といわんばかりの視線を向けられた。

 解せぬ。


「おい、突撃姫。お前の相棒……」

「言わないで。私もちょっと悩んでるんだから」

「そうか。まあ、連絡するのは悪かねぇが……直接というのも気まずいな」

「でしょうね。普通はそういう反応よね」

「……だったら、プレイヤーズマーケットの依頼ボードに指名依頼……は素材を渡せないんでしたね」

「そうなのよ。あれって依頼は出せるけど、素材は受ける側の持ち出しなのよね」


 依頼ボードとはなんなのか聞いてみると、冒険者ギルドの依頼のようにアイテム収集の依頼をプレイヤーができる機能らしい。

 ただ、実際には提示される報酬と求められるアイテムの性能が釣り合わないため、ほとんど運用されていないらしいが。


「ままならねぇな。……やっぱり、直接取引しかねぇか」

「うぅ……それしかないわね。それなら、私が間に入ってアイテムの受け渡しをするわ。それが譲歩できる限界よ」

「俺らは別にかまわねぇが、そっちはいいのか?」

「俺はかまわないよ。サイもいいって言ってるし」

「私は本当はいやなのよ。でも、熟練度のことまで考えると無視できないのも事実だし」

「……そんなにおいしいのか、このポーション」

「ええ、とってもおいしいわよ」


 このままうだうだ悩んでいても仕方がないので、サイがあちらのリーダーと連絡先を交換することで話はまとまった。

 これであちらは解放ということになったため、元プレイヤーキラーたちはそそくさと退散していく。

 ……さて、ここからが問題だな。


「参ったわね。あいつらも元凶は知らないなんて」

「ですねぇ。一応、連中と接触したプレイヤーも追わせていましたが、こちらはログアウトしちまいましたね」

「……仕方がないでしょうね。夜だもの、学生プレイヤーだったらそろそろ落ちる時間よ」

「そうなると、元凶はわからずじまいか」

「そうなりますねぇ……」

「匿名掲示板が発端の騒ぎなんてこんなものだけど……気持ち悪いわよね、やっぱり」

「自分たちの方でもうしばらく捜索を続けてみますが……あまり期待しないでください、姉御」

「了解。……あと、姉御はやめて」

「はは……あとですね、さっきの話なんですが……」

「さっきの話?」

「ほら、素材を持ってくればポーションにしてくれるっていう」

「……あんたもしてほしいの?」

「できればお願いしたいんですが……いかがです?」


 サイがこちらを見てくるが……答えは決まっているよな。


「断る理由もないな。ただ、作るのは俺ひとりだから限界ってものがあることは忘れないでくれよ」

「承知してますよ。それじゃあ、自分も姉御を通して連絡ということで」

「……ああ、もう。姉御でいいわよ、姉御で……」


 どうやら、サイも度重なる姉御呼びで諦めたようだ。

 ほかに広がらないことだけは祈っておこう。


 さて、ファストグロウの騒動も収束したのでオババのところに顔を見せに行き、そのあとはまたボス周回だ。

 周回中にみすふぃから「薬草の情報を掲示板で公開してもいいか」と問い合わせがあったので了承しておいた。

 これで低級リジェネポーションと低級メディテポーションの騒動は完全な収束に向かうだろう。


 あと、ボス周回だけど、いい加減先にレベル上げをしてからの方が効率いいと思うんだけどなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る