66.サイの本気
「ああん? 誰だてめぇ?」
「誰だっていいでしょ? それよりもあんたらが初心者に負けたっていうプレイヤーで間違いないかしら?」
「なんだと?」
「だって、事実でしょ? 八人がかりで襲っておいて倒せませんでした、なんて負けたっていってるようなものじゃない」
サイのヤツ、ずいぶんと煽るな。
よっぽど腹に据えかねてるんだろうか。
「……ふざけた口をききやがって!」
「あら、やり合うなら表に出ましょうか。そこでならPvPを受けてあげるわ」
「はっ、どうして俺がそんなのを受けなくちゃなんねーんだよ」
「受けたくないならかまわないけど。ああ、それと、街中でPKはやめた方がいいわよ。警備兵がすぐに飛んでくるから」
「……ちっ、お前ら行くぞ!」
リーダーらしき男に続いてぞろぞろと男たちが店から出てくる。
その後に続いてサイも表に出てきた。
「あっ、てめぇ!」
「ああ、朝は世話になったな?」
「お前もグルか!」
まあ、グルかどうかといえばそうだわな。
サイの相方なわけだし。
「そっちはどうでもいいでしょ。呼び出したのは私なんだから」
「……そうだったな。で? PvPのルールは?」
「なんでもありでいいわよ。ついでにそっちは八人まとめてでかまわないわ」
「ほぅ、そっちはふたりでどうにかすると?」
「ふたりなわけないでしょ。私ひとりで相手するわよ」
サイのセリフを聞いて一拍の間が開く。
そして次に聞こえてきたのは男たちの大爆笑だった。
「おいおい、いくらなんでもひとりで俺らの相手をすんのかよ?」
「頭大丈夫か嬢ちゃん?」
「悪いけど手加減してやるつもりは一切ねーぜ?」
「かまわないわよ。こっちだって手加減するつもりはないんだから。……それじゃ、これがPvPルールね」
「……ほう、装備以外の全アイテムと所持金総取りルールかよ」
「かまわないでしょ? 私ひとり相手に負けることなんてないんだから」
「ああ、かまわねぇさ。なあ」
「おうよ」
「もちろんだ」
「かわいい嬢ちゃんの身ぐるみはげるとかたまんねえなぁ」
ひとり気持ち悪いのがいるが……果たしてサイは大丈夫なのだろうか。
俺の心配が表情に出ていたのか、ここまで案内してくれた男が説明してくれる。
「大丈夫ですよ。サイさんならあの程度の連中、余裕で勝てます」
「でも、街中だぞ? こんな狭いところで戦えるのか?」
「むしろ、狭いところだからこそ、ですかね。サイさんの戦い方は狭い場所でこそ真価を発揮しますから」
そんな戦い方をするとは初めて聞いた。
でも、この男が嘘をついている様子は全くない。
そういうことなら、俺もサイを信じて見守ることにしよう。
「それじゃ、準備はいいわね? カウントダウンスタート」
PvP用のバトルエリアが広がった。
この範囲内でなら街中でも思う存分暴れられる……らしい。
俺は使ったことがないので、サイの受け売りだ。
そんなことを考えている間にもカウントダウンは進み、やがてゼロになる。
カウントダウン終了と同時に動き出したのは男たちの方だった。
「お前ら、包囲して一気にたたきのめしてやれ! 手加減はするなよ!」
「おう!」
どうやら、サイのことを取り囲んで一気に勝負をつけようという考えのようだ。
だが、サイは特に気にした様子もなく、手にしたブーストスピアを正面に向けてアーツを放つ。
「わざわざブーストスピアを見せてあげているのに正面がら空きとかバカ?」
ブーストスピアで一気に突撃を仕掛けるサイ。
だが、その途中で男のひとりに行く手を遮られた。
巨大な盾を構えた重装戦士だ。
「ブーストスピア相手に警戒を怠っているわけがあるかよ?」
「いやいや、ブーステッドチャージを使わせる時点で負けでしょ?」
サイは武器を大槌……大槌? 金属製の巨大なハンマーに切り替えてたたき下ろす。
「そーれ! スカルクラッシュ!!」
「なっ!? ブラストハンマーだと!?」
サイが切り替えた大槌自体が勢いを増しながら縦に一回転して相手の脳天に直撃。
それだけであいてのHPは全損、戦闘不能となった。
「まだまだ行くよ! ブーステッドチャージ!」
「ちぃ! この!?」
次に狙った相手にはチャージをかわされたが、サイは反転して再びチャージを仕掛けて攻撃を命中させる。
今度はそのままスピアによるアーツのみで仕留めたようだ。
「くそっ!? なんだよ、この女!? 初心者のくせに強すぎだろ!?」
「ふっふーん、わかったらおとなしく私の餌食になりなさい。さーて次の獲物は……」
「後ろがおろそかなんだよ!」
サイの背後からいままで隠れていた男が矢を放つ。
でもなぁ、サイの装備って……。
「あ痛っ!?」
「はぁ!? なんでHPがほとんど減ってねぇんだよ!?」
俺の装備よりも物理防御が高いものなぁ。
魔法防御は俺の方が高いらしいけど、物理攻撃じゃなぁ……。
「よくもやってくれたわね……。次はあなたにしてあげる!」
「わー! 待て、待て!! 降参だ!」
「あら、ルールを読んでなかったの? 降参とPvPエリア外への逃亡は不可よ!!」
そう言いながら、弓を持った敵を簡単に倒してしまうサイ。
残りは五人なわけだが……完全に腰が引けているな。
「……なによ、この程度で終わりなわけ? 初心者相手にPKを仕掛けるくらいなんだから、もっと根性を見せなさいよ」
「ふざけんな!? なんなんだ、てめぇ!?」
「私? 私はただのプレイヤーよ? 『突撃姫』なんて呼ばれることもあるけどね」
「突撃姫……サイか!」
「あたり。さて、私の相棒に手を出してくれた報い。しっかり受けてもらいましょうか」
「……な、ちょっと待て、あいつがお前の相棒だと!?」
「そうよ?」
「そんなの知らなかったんだ!? 謝るから許してくれ!!」
「いやよ。それじゃあ、私の相棒じゃなかったら襲ってもいいみたいじゃないの」
「うっ、それは……」
「そういうわけだから、おとなしく倒されておきなさい」
そのあとは、完全に一方的な戦闘だった。
虐殺といってもいいかな?
とにかく地力が違ったね。
とりあえず、サイは怒らせないようにしておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます