65.反撃開始

 午後はひたすらカーズファントム退治で時間を潰した。

 なお、それだけの時間を使っても魂はひとつも出なかったよ……。

 まあ、予想どおりではあるんだがサイが荒れていたのはご愛敬だろう。


 そういうわけで夜のログインなのだが……サイの様子が微妙におかしい。

 メールを見てからどうしたものかと言わんばかりに考え込んでいる。

 なんというかサイらしくないな。


「サイ、メールを見ていたみたいだがなにが書いてあったんだ?」

「ああ。たいした内容……でもあるか。一通は生産職連合協同組合からね。無事、低級リジェネポーションと低級メディテポーションのA級品ができたそうよ。量産体制に入ったから私たちが売っても目立たないでしょうって」

「それはよかった。で、ほかにもメールがあったのか?」

「うーん……これはフィートにも関係があったんだけど。今朝フィートがプレイヤーキラーに狙われたって話してたでしょ? そいつらの素性が割れたって」

「……なんでそんなメールが?」

「私が調査をお願いしていたからね」


 なんでそんなことをお願いしていたかは流そう。

 それを調べてどうするつもりなのかだ。


「えーっと、フィート、今回の襲撃の件、どう思う」

「どう思うって言われてもな……初心者だからってなめられてた。か?」

「まあ、そういうことだね。というわけで、フィートに手を出したらどうなるかってことを教えてあげたいわけですよ、派手に」

「……つまり、サイが襲撃犯を逆に倒すと?」

「そのつもり。フィートは手を出さなくていいからね? あ、PKするわけじゃなくて、PvPで倒すつもりだから」

「……はぁ、止めても聞かないだろうし、わかったよ。無茶はするなよ?」

「オーケーオーケー。私、張り切っちゃうよー」


 そこはかとなく不安だ。

 負けないかという意味ではなく、やり過ぎないかという意味で。

 この場合、俺はどういう立ち位置にいるのが正解なんだろうか?


「とりあえず、襲撃犯の情報をもらいにファストグロウに行かなくちゃだけど、フィートもくる?」

「ああ、一緒に行くよ。それに、本当に襲撃してきた連中かどうか、俺が確かめなくちゃだろう?」

「……そいつらって顔も隠さずに襲ってきたの?」

「ああ、そうだが?」

「……本当に初心者だと思ってなめてたのね」


 サイいわく、PKを仕掛けるときは身バレしそうなものはすべて隠すのが基本らしい。

 まあ、そんなことをしても、レッドネームとやらになるのは防げないらしいのだが。


「ともかく、ファストグロウね。行きましょう」

「わかった」


 ポータル間転移でファストグロウへ移動。

 移動した先には、数名の男性が待っていた。


「お待ちしていました、サイの姉御」

「……姉御はやめてよね」

「姉御?」

「フィートは気にしなくていいの。それで、襲撃犯の情報は?」

「はい、これです。こいつらだと思いますがあってますか?」


 男から見せてもらったスクリーンショットには見覚えのある男たちが写っていた。


「……ああ、確かに昼間襲ってきた連中だな」

「やっぱりそうでしたか。いや、見つけるのは簡単でしたが」


 簡単だった?

 どういう意味だろう?


「簡単ってどういう意味よ?」


 サイも同じことを疑問に思ったようだ。

 目の前の男にその点を詰め寄っている。


「はい。そいつら街の酒場でフィートさんのことを襲ったって大声で話してたんですよ。ちょっとつついてやったら逃げ出したって」

「逃げ出したか……。間違ってないけど、あいつらだってなにも得ていないんだから意味がないんじゃないかな?」

「そうですね。大抵の連中はそれに気がついていて無視していましたが、そいつらに近づいていったプレイヤーもいました」

「……そいつらに近づいていったプレイヤー?」


 なんだか気になるな。

 そんなのに近づいていってどうするつもりなんだろう?


「なにかを話していたようなんですが、なにを話していたかまでは……」

「それで、そのプレイヤーの名前は?」

「それもわからなかったんですよ。多分、装備していたローブの効果ッすね」

「身隠しのローブか……まあ、高いアイテムじゃないし、簡単に手に入るか」

「ですね。それで、どうしますか? プレイヤーキラーとそれに接触したヤツ、両方に尾行をつけていますが」

「……どっちもログアウトしてないの?」

「そうなんですよね。よっぽどの廃人ッすよ」

「それなら、まずはプレイヤーキラー側に案内してもらえるかしら。とりあえずぶっ飛ばしたいから」

「了解しました。こっちです」


 ……完全に舎弟ムーブが板に付いてきた男のあとを俺とサイはついていく。

 途中、人通りの少ない道なども通るがふたりとも気にした様子はない。

 それでたどり着いたのは、一軒の酒場だった。


「そいつらが今いるのはここです」

「……このゲームってゲーム内でお酒を飲んで酔えるのか?」

「軽くですが酔えますね。なにより酒の味は普通にしますから、それを求めてプレイする連中もいますよ」


 未成年プレイヤーには知らない情報だ。

 俺が案内してくれた男と話している間に、サイは店の中に入っていった。

 そして、目的の連中を見つけると大声で宣言をした。


「あんたらが大勢で初心者にPKを仕掛けて失敗したっていう腰抜けね? ちょっと用事があるから表に出なさいな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る