63.掲示板の動揺

「それで、サイはなにをしてきたんだ?」

「んー? ちょっと暴れていた連中を捕まえてお話ししてきただけだよ?」

「お話……ねぇ」


 どうにも嘘くさいが……深く追求するのは止めておこう。

 さて、お茶を飲んで一息ついたし、今後の予定を決めなくちゃな。


「それで、俺はこのあとどうすればいいんだ?」

「ああ、そのことなんだけどね。もう普通にファストグロウを出歩いても大丈夫だよ」

「ん? サイ、お前、本当になにをしてきたんだ?」

「だから、お話ししてきたんだって」


 本気でうさんくさいな。

 これはきっちり問い詰めておくべきか……。


「フィートさん。サイさんは本当にお話をしてきただけですよ、多分」

「……そうなのか、ガオン」

「ええ。ただし、サイさん流のですが」

「サイ流の?」

「あー、ちょっと、ガオン!?」


 サイはなにやら慌てふためいているが……ガオンは落ち着いている。

 さて、どういうことだろう。


「サイさん。この状況ですし、きっちり説明すべきでは?」

「うー……わかったわよ」

「サイ、一体なにをしてきた……」

「あのね。私、ベータ時代は突撃姫って呼ばれていた程度には有名なプレイヤーだったのよ」

「補足しますとほぼ最上位勢の一角ですね。レベルこそ一回り劣っていましたがプレイヤースキルで補っているかたちでした」

「……まあ、そういうわけよ。で、最近はおとなしくしてたわけだけど、今日は久しぶりに大暴れしてきたのです」

「してきたのです、って」

「いやー、どういうわけか、フィートの情報は面白いほどばれているのに私の情報は一切ばれていなかったみたいでね」

「サイさんが出て行く前にも軽く触れましたが、古いプレイヤーでサイさんを知らないというのは滅多にないんですよ。なんだかんだで目立ちますからね、そのドレスアーマー」

「……ブリュレ渾身の作品ですからねー」

「そういう状況だったので、サイさんは街中でフィートさんを捜し回っていた一団にケンカを売って力尽くで言うことをきかせたようですよ?」

「まあ、そのとおりですけど。詳しいのね、ガオン」

「私の仲間が現場に居合わせたみたいで。最初はニヤついていた観客が徐々に青ざめていくのは見物だったそうですよ」

「そう。……まあ、そういうわけだから、フィートを追い回そうなんて気骨のあるヤツはいないんじゃないかな?」


 おお、思った以上に力技な解決方法だった。

 というか、サイってそんなに強かったんだな。


「ちなみに、サイって累積レベルいくらぐらいあるんだ?」

「この前のレベルリセットで350を超えたよ」

「……なるほど、理解した」


 そりゃ強いわけだ。

 さて、それじゃあどうしようか。


「……ふむ、掲示板の方も大騒ぎですね」

「そうなの、ガオン?」

「ええ。なんでフィートさんと一緒にサイさんがいるっていう情報が出回ってないのかを巡って大論争になってますよ」

「そんなくだらないことで揉めるなんてね。本当にくだらない連中だわ」

「ですね。前スレを読めばわかるのですが、バカげたことは止めろと言っている人もいましたが……今回はそういう人は出てきていませんね」

「基本関わりたくないんでしょ? 追い回していた連中の身から出たさびなんだし」

「ええ、まったくです。それで、いまでも追いかけ回したい派、それを力尽くでも止める派、フィートさんを襲った連中を探す派の三つに分かれて大揉めですよ」

「……本当にくだらない。で、それってどうなりそう?」

「いまでも追いかけたい派は止める派に負けそうですね。ファストグロウ内で暴れようとして住人に捕まりペナルティを受けたプレイヤーもいますし」


 そういえば、プレイヤー同士のもめ事には基本的にノータッチだが、住人に被害が及べば動くって冒険者ギルドのマスターも言ってたな。

 今回はそっち方面で処罰されたのか。


「現時点で最大の関心事はフィートさんを襲ったプレイヤーの絞り出しと攻略掲示板を煽っていたプレイヤーを見つけることでしょうか。……正直、僕らにはどちらも関係ありませんね」

「あ、私には関係あるかな。とりあえずボコっておきたい」

「止めとけ、サイ。勝ったって得にならないから」

「むぅ。考えておく」


 止めるとは言わないんだな。

 やれやれだ。


 そのあとも攻略掲示板……と言うなの別のなにかについていろいろ話をしていたところ、生産職連合協同組合の建物に飛び込んできたプレイヤーがいた。

 昨日も会ったみすふぃだ。


「やりましたよ、ガオンさん! 低級リジェネポーションと低級メディテポーションのレシピ、ゲットです!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る