62.ポーションベースの実験

2日間お待たせしました。

私は帰ってきたぞー!


*********


 さて、ポーション作りもかなりやった。

 あまり使ってしまうとほかのプレイヤーの分がなくなってしまうのでこの辺でストップだ。


「うーん、やることがなくなったな」

「ですねぇ。……そういえば、昨日見せていただいたポーションベース。あれはなにに使うのでしょうか?」

「なにに使うんだろうな? まだ『抽出』アーツを覚えきれてないし、そっちの研究には未着手だ」

「でしたら、ここで研究していきませんか? 幸い、研究のためのポーションなどは揃っていますし。もちろん、他言はいたしません」


 確かに、研究するならいい場所だろう。

 ただ、なぁ……。


「そっちだって商売だろう? 売り物が減るけどいいのか?」

「迷惑をおかけしている自覚はありますので。それに低級リジェネポーションと低級メディテポーションが販売できるようになれば、その利益で十分に元が取れますよ」


 しっかりしてるなぁ。

 研究していいならするけど。


「それじゃあ、研究させてもらうかな」

「はいどうぞ。僕も興味がありますのでご一緒させてもらっても?」

「かまわないよ。……で、ポーションベースってポーションの薬効成分を凝縮したアイテムなわけだ」

「そうらしいですね。僕たちはまだ作っていないので、アイテムの説明文でしかわかりませんが」

「それなら、既存のポーションにポーションベースを混ぜたらどうなるだろう?」

「……なるほど、うまくいけばポーションの回復量が上がるかも」

「そういうわけで。ポーションにポーションベースを混ぜよう」

「わかりました。ポーションはこちらで用意しますか?」

「いや、俺の手持ちにあるからそっちを使うよ」


 俺はインベントリからポーションを五個取り出す。

 ポーションベースを作るときの数と一緒だ。

 そして、これらにポーションベースを混ぜていくのだが……。


「……失敗ですね」

「失敗だな」


 できあがったのは、過剰回復薬。

 アイテム説明をみると『過剰に回復能力を与えられた薬品。使用するとダメージを受ける』と書かれている。


「敵に使えばダメージアイテムとして使えそうですが……」

「こんな微妙なもの使えるか?」

「ですよねぇ。これはどうします?」

「処分ってできるのかな?」

「できますよ。研究中に失敗作のアイテムができるなんて珍しくもないので」

「じゃあ、処分しよう」

「わかりました。ではこちらに」


 ガオンの指示に従って失敗作を処分する。

 あれ、でも、そういえばこのゲームって……。


「前に誰かから聞いたけど、アイテム作成の自由度は低いって話だったぞ?」

「ああ。その認識は間違っていません。レイメントのルールから外れたアイテムを作ると、アイテム作成失敗になり消滅します。でもルールに従ってアイテムを作ると、ああいう風に失敗作ができあがるんですよ」

「なるほどね。……やっぱり変なところでゲームをしているんだよな」

「まったくです。さて、次はなにをしますか?」


 次かー。

 ポーションに混ぜるのがダメならなにに混ぜようか?


「……ただの水に混ぜてみるとか?」

「それはまた大胆な」

「ポーションに混ぜたら過剰回復だろう? だったら水に混ぜるとちょうどいいかなって」

「……なるほど。実験としては間違っていませんね。それでは錬金術で作れる蒸留水を持ってきます」

「ああ、よろしく」


 ガオンに水……蒸留水を用意してもらい、早速ポーションベースを混ぜてみる。

 すると、ただの水に色がついていき、完成したのは……。


「……ポーションができましたね」

「しかも品質Aなのに回復量が低いな」

「確かポーションベースは調薬ポーション五個からできるんですよね?」

「ああ、そうだが」

「五個から十個になった分、効果が下がったと思えば……」

「あまり意味ないだろ、それじゃ」

「ですよねぇ……」


 とりあえず、今回の実験は半分成功と言ったところ。

 完成した蒸留水ポーションは瓶詰めしておいて、俺のインベントリにしまわれることに。

 蒸留水はすぐに作れるアイテムで価値そのものがないからお気になさらず、という話だ。


「さて、次はどうしましょう」


 ガオンが気を利かせてジュースを持ってきてくれた。

 それを飲んで一息ついてから再開となった訳だが……うん、手詰まりだな。

 なにに使えばいいんだ、ポーションベース。


「……いっそ、ジュースにでも混ぜてみる?」

「ジュースにですか。水に混ざるのですから悪くはないかもしれませんね」

「それじゃ、その方向で行ってみよう」

「そうですね。僕はジュースを用意してきます」


 混ぜる先のジュースは用意できないので生産職連合協同組合の倉庫から持ち出しだ。

 ジュース系のアイテムは【料理】スキルで最序盤から作れるアイテムらしく、在庫は豊富らしい。

 持ってきてもらったジュースは十回分を取り分けて慎重にポーションベースを混ぜていく。

 すると、混ぜていたジュースが光り輝き始め、魔力の光を帯びていく。

 そして完成したアイテムだが……。


「できちゃいましたねぇ。新アイテム」

「『ジュースポーション』か。HP回復量はポーションより低いけどMPも微量回復するのな」

「確かに微量ですが……HP80にMP20はある種革命ですよ? ジュースですから微量の満腹度回復効果もあるみたいですし」


 そう言われても完成してしまったものは仕方がない。

 問題は、できたこのポーションをどうするかだが。


「……このポーション、生産職連合協同組合そっちで開発したことにしてくれない?」

「……いやいや、さすがにそれはマズいでしょう」

「でも、今回の騒ぎみたいなのはいやだぜ?」

「そう言うことでしたら、開発はフィートさんが、そして僕らは開発方法を買い取ったと言うことで」

「じゃあ、そうしよう。最終的な判断はサイが帰ってきたらということで」

「サイさん、怒らせると恐いですからねぇ」

「なんだよなぁ」

「ちなみに、今回使ったのはリンゴジュースですが、ほかのジュースでも同じ効果なんでしょうか?」

「試すのはいいけど、ポーションベースがひとつしか残ってないぞ?」

「それでは『抽出』の訓練も兼ねて作っていただいて結構ですよ?」

「まじかー」


 ポーションベースを補充しつついろいろなジュースで試してみたが、味が変わるだけで回復効果は一緒だった。

 ガオンは回復薬がおいしくてHPとMPを同時回復できるだけで革命だ、と喜んでいたが……俺にはよくわからんな。

 もちろん、今回の作業中に『抽出』は覚えたよ。

 あと、混ぜるときのアーツ『混合』なんて言うのも覚えた。

 ガオンは俺の許可をもらうと、早速仲間に広めていたな。


 そんな騒動も落ち着いてのんびりお茶をしていると、サイが帰ってきた。


「お待たせ、フィート! あ、私にもお茶をちょうだい!」

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