第六章 悪意からの反撃

58.プレイヤーキラー

「うーん、サイは遅れる……というか午後からのログインか。毎日午前中からログインできている俺の方がおかしいのかな?」


 最近はゲーセンにも行かずずっとレイメントをしている。

 おかげで康とも会ってないし、そっち方面の情報にも疎くなった。

 あいつの情報では新作VRシューティングが入荷したらしいが……しばらくはお預けだな。

 いまはレイメントをやっている方が楽しいし。


「仕方がない。俺ひとりで薬草を採取に行こう」


 最近はログアウト場所に使用しているファストグロウ西の公園から飛び上がり、いつも通り滑空で精霊の森を目指す。

 そろそろ飛行を覚えたいのだが……まだ先は長いのかな?


 精霊の森外周部にたどり着いたら武器を取り出し、早速採取開始だ。

 ここでの採取も慣れたもので、採取しようとすると襲ってくるカラスどもを銃で返り討ちにして追加が来る前に採取を終えてしまう。

 そして、移動中にもカラスを退治しながら進んで、モンスターの絶対数を減らしていく。

 モンスターは無限湧きだからあまり意味はないのだけど、採取中に襲ってくる数が減るのであればそれでいいのだ。


 そんな採取を二時間ばかり行うと、主立った採取ポイントはすべて回ることができた。

 さて、あとは帰るだけだな。


「森の中からハイジャンプで脱出できれば早いんだけどなぁ」


 何回か試みたことがあるが、枝に引っかかってうまくいかなかった。

 この森自体がダンジョンのような扱いになっていて、ジャンプでの脱出はできないようにしているんだろう。

 それとも、俺がもっと強くなればうまくいくのかな?


「……? なんだ? カラスに襲われないぞ?」


 考え事をしながら歩いてたから気付かなかったが、ここ数分カラスに襲われていない。

 普段なら長くても一分くらいしか休みはないのに、このインターバルは異常である。


「……またなにか変なイベントでもふんだか?」


 状況がわからないため、銃を構えて周囲を警戒する。

 すると。


「……いてっ!?」


 どこかから飛んできた矢が頭部に当たった。

 刺さらなかったのは、俺の防御力が高かったためだろう。

 ……っていうか、ヘッドショットなのにHPが5しか減ってないってどういうことだ?


「……おい! どういうことだよ!? きちんとスキルは使ったのか!?」

「使ったに決まってんだろ! なんだよ、初心者のくせに化け物みたいな防御力しやがって!」


 草むらの方からそんな言い争う声が聞こえる。

 いまのは流れ弾じゃなく、俺を狙った攻撃?

 声が聞こえてきた方向と反対側に逃げようか迷っていると、周囲を取り囲むように六人の男が出てきた。


「……ちっ、ケンネスのやろう。一撃で仕留めるとか言っといてほとんどダメージも与えられてねーじゃねーか!」

「というか、もう自然回復してるぜ。まったく、厄介な話だ」

「こいつはただの初心者だとは思わない方がよさそうだな!」


 俺を取り囲んでさまざまな武器を取り出す男たち。

 こいつら……何者だ?


「おっと、フィートだったな。PKされたくなければ持ってるものすべておいていきな。お前の装備や金まで取る気はしないからよ」

「俺たちだってこんなつまらないことでレッドネームになりたくないんだ。穏便にいこうぜ」


 レッドネーム?

 話の内容から察するに、PK……つまりプレイヤーキルをしたプレイヤーにはなりたくないということのようだが。


「……俺を狙ってPKしにきたのか?」

「正解だ。ったく、鳥人ってのはめんどくせーよな。空を飛ばれるとライドで追いかけるのも一苦労だ」

「しかも、入っていったのがよりによって精霊の森とはな。めんどくさいことこの上ないぜ」

「まあ、脱出する前に見つけられてよかったがな。……で、持ち物おいて行く気になったか?」


 こいつらの狙いは、俺の持ち物。

 俺の持ち物でそんなに価値のあるものなんてあったかな?

 ……ああ、ひょっとして。


「狙いは低級リジェネポーションと低級メディテポーションか?」

「正解だ。ほかにも薬を持ってるんならおいて行ってもらうけどな」


 さて、どうしようか。

 ポーションぐらい渡しても懐は痛まないが、おとなしく言うことを聞くのもしゃくだな。


「悪いけど、渡す気はないよ」

「……ちっ、めんどくせぇ。お前ら、初心者相手だ。さっさと倒しちまうぞ」

「おうよ」


 どうやら向こうも戦闘態勢に入ったようだ。

 それじゃ、俺も銃で狙いを……。


「おっせえんだよ!」

「つっ!」


 銃を構えてる隙に背後から斬られてしまった。

 ダメージはほぼないが……痛覚は残っているからめんどくさい。

 軽く棒が当たった程度だけど。


「……おい、初心者相手だからって手加減するなって言ってんだろうが!」

「手加減なんてしてねーよ! こいつの防御力、おかしいって!?」

「よくわかんねーが、防御貫通アーツだ!」


 あー、貫通アーツか。

 それは痛そうだな。


「くらいな!」

「さすがにそれは避ける!」

「甘いぞ、初心者!」

「くっ!」


 一回目の攻撃は余裕でかわせたが、それはおとりで二回目が本命だったようだ。

 そっちはかわすことができず、もろに受けてしまう。

 受けてしまった、のだが……。


「おい! HPが半分も減ってないぞ!」

「なんだよ、この防御力!?」

「俺たちの防具より高いんじゃないか!?」


 どうやら、貫通アーツを使ってもダメージは三割程度しか受けないらしい。

 相手が混乱している隙にポーションを飲んでHPを回復しておく。

 さらに。


「『堅牢化』『堅牢化』」


 上半身と下半身防具の固有スキルを発動。

 MPがそこそこ減ったが防御力はぐんと上がったはずだ。


「ええい、武器がダメなら魔法攻撃だ!」


 相手は魔法攻撃に切り替えたみたいで、火の玉やら雷の弾が飛んでくるが……。


「なんでこっちもダメージがないんだよ!」

「つーか、魔法の方がダメージが少ないぞ!?」


 そりゃあ、なぁ?

 魔法防御の方が高いですし?


 さて、相手が混乱している隙に逃げるとしよう。


「ハイジャンプ、急降下、ハイジャンプ、急降下っと」


 斜め前方へのハイジャンプと斜め前方への急降下を連続で繰り出し距離を開ける。

 走るより断然早いしMPも減らない便利な逃げ方だ。


「あ、あいつ、逃げたぞ!」

「くそ! 待ちやがれ!」


 待てと言われてもね。


「誰が待つか。ほれ、置き土産だ」


 距離が開いたことで安全に使えるようになった銃を構えて何発か牽制を加える。

 有効打にはならなかったようだが……嫌がらせにはなっただろ。


「あとは森の外まで逃げるだけだな。……なんであんなめんどくさいのが急に出てきたんだ?」

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