59.追われるわけ

 あの後は無事に森の外まで逃げることに成功。

 森を出てしまえばハイジャンプで高空を飛び回れるので問題ない。


「……一体なんだったんだ? 俺を狙って、というか低級リジェネポーションと低級メディテポーションを狙ってきたようだが」


 考えていても仕方がない。

 とりあえず、ファストグロウまで移動しよう。


 そう思って飛んでいる途中、メールが届いた。

 差出人はガオン、昨日会っていたプレイヤーだな。

 何々……俺がプレイヤーキルの標的になっている?

 オババの店も監視されているから近づかない方がいいと。

 とりあえず、会って話したいからこのメールを見たらサーディスクまで移動してもらいたい、か。

 但し書きでポータル間転移は使わないほうがいいと書かれてるし、移動には時間がかかりそうだ。

 とりあえず、返信してと……うわ、返事が早いな。

 移動時間はかかってかまわない。

 だが、ファストグロウも迂回してサーディスクまできてほしい、と。

 俺は了承のメールを出して移動を再開する。

 ファストグロウを迂回するとなると……南の海側を飛んでいく方がいいかな?

 ちょっと移動時間がかかるが諦めて移動しよう。


 メールの指示どおりファストグロウを迂回してサーディスクまでたどり着いた。

 移動時間も含めてかなり時間が経っており、もうすぐお昼である。

 そろそろどこかでログアウトしないといけないのだが……。

 まずは、ガオンに指定された場所へと向かう。

 そこは三階建ての立派な建物だった。


「ああ、フィートさん。こっちです」

「ガオン、一体なにが起こってるんだ?」

「それも含めて説明します。とりあえずこちらへ」


 ガオンに案内されて建物内へ。

 ここはガオンのプレイヤーズギルドが所有している本拠地らしい。


「ご足労いただきありがとうございます。……そして、このような事態になってしまい申し訳ありません」

「このような事態って、どうなってるんだ? さっきもプレイヤーキラーに狙われたが」

「!? 無事だったのですか!?」

「まあ、防御力だけは自信があるからな。逃げることはできたよ。さすがに勝てなかったけど」

「それはよかった。……さすがに突撃姫を敵に回したくはないので」

「なにか言ったか?」

「ああ、こちらのことです。それでですね、今起こっていることなんですが……」


 ガオンの説明によると、今の状況はこういうことらしい。

 昨日、俺がリジェネポーションを出品しなかったことで一部のプレイヤーが猛反発を起こした。

 そこに火をつけて歩いたプレイヤーがいたとのこと。

 そのプレイヤーによって俺の行動範囲がほとんど暴かれたようだ。


「……アホじゃなかな?」

「MMOというのは一定数そういうのが混じっているんですよ。力尽くでなんとかできると思っている連中が」


 そんなことをしても何の解決にもならないだろうに。

 さて、そうなるとどうしたものかな。


「困ったな。俺としてはオババのところに薬草を届けたいんだが」

「そうですね……代理で僕が届けるというわけにもいかないでしょうし、困りました」

「代理か……ちょっと待って」


 俺はコールカフでオババを呼び出す。

 オババの方でも街がまた騒がしくなっていることは感づいているようだ。

 事情を説明すると、やはり呆れたような声が返ってきたがそれには反論しようがないので黙っている。

 そして、俺が薬草を届ける代わりに昨日オババに講義してもらった人物が届けると言うと、仕方がないから受け入れると返事があった。


「オババの許可は出たよ。代わりに薬草を届けてくれるか?」

「わかりました。……それにしても、精霊の森で薬草採取ですか」

「ああ。オババはあそこの薬草を必要としているみたいなんでな」

「承知しました。薬草はあとで確実に届けさせていただきます。それで、ひとまずこのあとのことなんですが……」


 ガオンいわく、この騒ぎはしばらく収まりそうにはない。

 できればファストグロウには近づかないでほしいが、サーディスクも含めたほかの街も遠からず監視されるだろうとのこと。

 さて、俺はどうしたものかねぇ。


「ひとまずは僕たちの拠点に身を隠していてください。ここなら居場所がばれても入ってくることはできませんし」

「いいのか?」

「……ポーション販売を控えてもらうようにお願いしたのは僕たちですからね。多少の不利益は覚悟しています」

「なんだか悪いな。他人なのに」

「いえ、僕たちもこんなことになるとは想定していませんでしたので」


 互いに謝りあいそうににあったのでこの話はここまでとした。

 そして、具体的な今後の話へと移っていく。


「とりあえずはサイさんがログインしないと始まりませんね。僕のほうからメールは送っておいたので、ログインしたらここに来てくれるでしょう」

「そうか。サイが来たらどうすればいい?」

「そこはサイさんも含めて応相談ですね。サイさんがどう動きたいのかによりますので……」

「サイがか……確かにどうするか読めないよな……」


 あいつのことだから殴り込みをかけそうな気もする。

 とりあえず、この件は午後まで持ち越しだ。


「そして、具体的な解決策ですが……いま、僕たちの調薬士が全力でギルド貢献度を稼ぎに行っています。うまくいけば今日中にでも秘伝書に手が届くかと」

「秘伝書ってことは低級リジェネポーションと低級メディテポーションか」

「はい。今回の騒動はそのふたつのアイテムの供給元がフィートさんしかないことです。僕たちも供給できるようになればある程度は収まるでしょう」

「ある程度、なんだな」

「場を荒らしたいだけのバカはどこにでもいるものなんですよ」


 なんだか実感がこもっているな。

 生産職って大変なんだろうか。


「……さて、そろそろお昼ですね。僕はオババさんに薬草を届けに行きたいと思います」

「じゃあ、悪いけど頼んだ。俺は昼食を食べてこないとだからいったんログアウトさせてもらうよ」

「はい。騒動に巻き込んでしまい申し訳ありませんでした」

「こうなった以上、仕方がないさ。建設的に行こう」


 オババに薬草を届けてくれるというガオンを見送って俺はログアウトだ。

 ……さって、午後のサイが恐ろしいぞ?

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