48.姫様の依頼
「お呼び立てしてすみません。どうしても直接お願いしたいことがありまして」
「かまいませんよ。それで、なにがあったんですか?」
オババいわく急ぎではないらしいと言うことだったので、昼間はあのまま狩りを続けた。
そして、夜のログイン時間になって俺は姫様のところを訪ねているのである。
なお、話を聞くのはひとりでいいと言うことなのでサイは薬草集めに出かけている。
「前に騒動を鎮めていただいた報酬の話をいたしましたよね。それをお渡ししたかったのですが」
「報酬ですか。そういえばそんな話もありましたね」
すっかり忘れていたよ。
そういえば、準備に何日かかかると言っていたっけ。
「ええ、それでですね。準備をしていたのですが、どうしても足りないものが出てきてしまって……」
「足りないもの、ですか?」
「はい。生命の粉末というお薬なのですが、それが必要なのですよ」
「薬ですか……それを用意すればいいんですか?」
「そうです、そうです。お願いできますでしょうか?」
〈シナリオ『館の精霊』が発生しました〉
〈このシナリオは一度放棄すると再受注できません〉
〈クエスト『生命の粉末』が発生しました〉
おや、これはサブクエスト扱いじゃないのか。
しかもシナリオって言うことは、複数のクエストが連続するってことだったよな。
それならクエストの内容を確認しないといけないか。
「それで、生命の粉末……でしたっけ。それを作る材料はなにが必要なんですか?」
「ええとですね。カーズファントムの魂がひとつ、ブッシュデビルの生き血がひとつ、ターミネートアリゲーターの心臓がひとつです。作り方は、オババに聞けばわかりますよ」
ふむ……インベントリにはどのアイテムもないな。
イベントアイテム、と言うやつだろうか。
念のため、受注するかどうかサイに確認してみたが「そのボスなら私がよゆーで倒せるからオッケー!」という頼もしい返事をもらった。
「わかりました。その依頼、引き受けましょう」
「よかったです。ああ、急ぎませんのでゆっくりがんばってくださいね」
うん?
なにをがんばるのだろう?
疑問には思ったがニコニコ笑顔で質問を許す雰囲気のない姫様。
これはオババに聞かないとダメかな。
そのあと、姫様とお茶や最近の話をしてから塔を出た。
まずはオババのお店でサイと合流だ。
「あ、フィート。ようやくきた」
「お、帰ってきたね。なにを頼まれたのさね?」
「ええと、生命の粉末を作ってほしいと頼まれたのですが」
「生命の粉末かい。……と言うことは、姫様はあの館を……」
「オババ?」
「ああ、なんでもないよ。生命の粉末の作り方は教えてやれるが、いまのあんたたちじゃ作るのは難しいさね」
「うーん、それはもっとスキルを鍛えろってこと?」
「そう言うことさ。神代の冒険者ってのは私の思っている以上に成長が早いし、数日あれば作れるようになるんじゃないかい?」
「……だってさ。どうする、フィート?」
どうするか、と聞かれてもな。
「とりあえず材料を集めに行こう。話はそれからでもいいだろ」
「そうだね。あ、オババ、今日の分の薬草類はこれだけだから!」
「はいはい、いつも助かってるよ。気をつけて行ってくるのさね」
俺たちはいつもどおりハイジャンプで上空へと飛び上がり、滑空で空を滑り飛ぶ。
この作業ももう何日もやってるし、いい加減飛行スキルが生えてくれてもいいと思うんだけど。
「フィート、どったの?」
「うん? ああ、飛行スキルはまだかな、と思って」
「ああ、あれね。掲示板を調べてみたけど、個人差が激しいみたいなんだよね。十時間程度空を飛んでれば覚えたって人もいれば、数百時間は飛んでるはずなのにまだ覚えてないって人もいたし」
「……数百時間はすごいな」
「サービス開始当初からずっと飛び回ってるらしいよ? ただ、慣れちゃうと飛行スキルいらないってなったって」
「……だろうなぁ」
こんな風におしゃべりしながら夜の空を飛んでいく。
まあ、常に太陽が昇っているので昼間と同じなわけだけど。
まず、降り立ったのは幽玄の森だ。
「さて、ここのボス素材も必要なんだよね」
「らしいな。さっくり落ちてくれるといいんだが」
「大丈夫大丈夫。このレベルになれば、周回安定だから。それにオババが悪霊の涙を余計に売ってくれたし」
「いつの間に……まあ、ありがたいけど」
「ふっふーん。さあ、ボスまでマラソンだよ」
「……ザコの相手はしたくないってことだな」
「当然でしょ! 一気に振り切る!」
サイは宣言どおりボス前まで一気に走り抜けてしまった。
俺はと言うと、さすがにスタミナが保たないため時折モンスターがいないところを見繕って休憩を挟んだのだが。
サイはひとりならボスまで一気に駆け抜けられただろうな。
「よし、ボスまで着いたね」
「だな。……どうやら、先客がいるようだが」
「だねぇ。幽玄の森ボスって強さの割りに見返りが少ない……ああ、レアドロップの装備だけはおいしいんだっけ」
「レアドロップの装備?」
「邪眼のモノクルって装備。防御力は皆無だけど、魔法攻撃力とMPを上げてくれるの」
「へぇ……便利なのか?」
「序盤の魔法使いタイプには便利アイテムかなー? ただ、最近だとプレイヤーズマーケットにもよく並んでいるから、そっちを買った方が早いんだけど」
まあ、そうなるよな。
この手のゲームのレアドロップ装備なんて数%のドロップ率だろう。
なら、それを周回で手に入れるのなら買った方が早いと。
「……あ、終わったね」
「どうやら、無事に勝てたようだな」
先客たちは無事にボスを討伐できたようだ。
だが、苦々しい顔をしているところを見るとお目当てのアイテムは手に入らなかったらしい。
「……お前たちもカーズファントム狙いか?」
「そうだよ。狙いは邪眼じゃないけどね」
「どちらも戦士系のようだが大丈夫なのか?」
「対策アイテムはあるから問題ないよ。心配してくれてありがとう」
「いや、なに……それより、邪眼目当てでないのならドロップしたら譲ってくれないか?」
「んー、かまわないよ? いくらで買うの?」
「相場が十五万リルだから、二十万リルまで出そう。どうだ?」
「……相場より高く買う理由は?」
「早く手に入れたいんだよ。最近、マーケットに出回ってなくてさ……」
「あー、新規プレイヤーが増えることを見越した買い占めかー」
「その可能性がな……。そういうわけだから、頼む」
「はいはーい。かまわないよね?」
俺に確認をしてくるが……まあ、いいだろう。
「かまわないんじゃないか? 俺たちが持っていても仕方がないし」
「だって。でも、ドロップするかはわからないから、あまり期待しないでね?」
「ああ、わかった。……でも、ふたりで挑むのか?」
「ふたりでもよゆーだよ。じゃあ、行こうか!」
サイが待ちきれないとばかりに復活したボスに向かって突撃を仕掛ける。
悪霊の涙をしっかり使ってあるその一撃は、確実にカーズファントムを捉えて一気にHPを削り取った。
「な……あんなにダメージが?」
「俺たち、適正レベルよりかなり高いんだ。ちょっとイベントであいつの素材が必要でね」
「……そうか。もし邪眼が落ちたらよろしく頼む」
「あいよ。さて、俺も援護しますかね。このままじゃサイひとりで倒しきってしまう」
サイが攻撃の手を緩めて離脱する瞬間を狙い、カーズファントムに牽制を入れる。
インパクトショットで放たれる牽制弾は、かすめるだけでもノックバックさせてくれる優れものだ。
……VRシューティングだとこんな便利なシステムはないから、RPGっていいなぁ。
「フィート! 影の針が発動するよ!」
「もうかよ!?」
まだ、戦闘を開始して数分。
それなのに、HP25%以下の必殺攻撃とは。
サイの火力はやっぱり半端じゃないな。
針攻撃も難なくかわしたサイはそのまま連続攻撃を決め、三回目の針が発動する前に倒してしまった。
さて、肝心のドロップアイテムだが……。
「……フィート、カーズファントムの魂ってドロップした?」
「いいや、ドロップしなかったな」
どうやら、確定ドロップではないらしい。
これはボス周回をしなくちゃいけないようだぞ。
「でも、邪眼のモノクルって装備はドロップしたな」
「……ラッキーじゃない。さっきのパーティに売っておきましょ」
というわけで、邪眼のモノクルは売却。
想定外の臨時収入を得ることになった。
なお、お目当てのイベントアイテムのドロップには四周することになったのだけどね……。
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