49.ボス周回(なお物欲センサー)

「かぁー! 指定素材が全然ドロップしない!」

「だなぁ。これで連続十回ドロップなしか」


 俺たちふたりは場所を百獣の平原に移してボス周回を行っている。

 行っているのだが……姫様が指定したアイテムがドロップしない。


「指定されているモンスターは間違ってないよね!? 似た名前の別モンスターってオチはないよね!?」

「大丈夫だ。次はブッシュデビルであってる」

「くぁー! ブッシュデビルだけで十一回目とか! もうブッシュデビル素材はいらないよ!」


 サイが叫んでいるが、俺も同感だ。

 ブッシュデビルの尻尾やら毛皮やら魔石やら。

 いろいろなアイテムがドロップしている。

 そんな中、イベントアイテムの生き血だけがドロップしていない。


「次で出なかったらブッシュデビルは後回しにして先にターミネートアリゲーターだよ!」

「わかった。その方が精神的によさそうだ」


 ブッシュデビルはいい加減パターンを覚えてしまったので、俺とサイなら五分とかからずに倒せてしまう。

 さて、ドロップ品だが……。


「うん、俺の方に生き血はないな」


 十一回目も外れか。

 あとはサイがどうなってるかだけど。


「かぁー! きたぁ!」

「サイ?」

「生き血ドロップしたよ! これでターミネートアリゲーターに移れる!」

「おめでとう。……さすがに疲れたな」

「まあねえ。でもあと一種類、がんばろう」

「だな。ターミネートアリゲーターってどの辺に出没するんだ?」

「ここからはそう遠くないよ。ただ、空から行くにはハゲタカが襲ってきて面倒かも」

「それじゃあ、歩くしかないか」

「そうだね。行こうか」


 サイに案内されて陸路を行く。

 途中現れるモンスターはすべてサイが切り刻んで終了だ。

 俺が手を出す暇があるのは、上空から襲ってくるハゲタカくらいである。


 そして、十分ほど歩いたところでたどり着いたのは十メートル以上はある沼地。

 サイが武器を構えたということは、ここがボスエリアなんだろう。


「さて、ここがターミネートアリゲーターの出現場所だよ。こいつは沼地への引きずり込みさえ気をつければどうってことないから!」

「サイのどうってことないは信用できないな……」

「ひっどーい! まあ、フィートの防御力なら引きずり込まれても即死しないでしょ。普通ならタンクでも即死級のダメージなんだけど」

「……俺ってタンクよりも硬いのか……?」

「普通、このエリアに来るタンクの防御力は三十あればいい方です」


 ……うん、俺の防御力はその倍以上あるからな。

 頑丈すぎるか。


「さて、それじゃ始めるけど……注意点は沼地に隠れさせないことかな?」

「へぇ。隠れられるとどうなるんだ?」

「出てくるまで攻撃できないから面倒」

「……つまり、時間がかかるだけか」

「そうとも言う。さあ、行くよ!」


 沼地の近くまで歩み寄ると、周囲のエリアが遮断されてボスエリアに早変わりだ。

 そして沼の中から巨大なワニが出現する。

 こいつがターミネートアリゲーターね。


「さぁさぁ、ボス戦だよ! 気合い入れて行くよ!」

「了解! まずは俺が先制……」

「ブーステッドチャージ!」


 先制する、と言う前にサイが突っ込んでいった。

 サイの身長だとターミネートアリゲーターの体高の半分程度しかないのだが、そこはうまく調整して突撃している。

 鼻付近を重点的に攻撃するサイをうっとうしく思ったのか、振り払おうとするターミネートアリゲーター。

 だが、サイはブーストランスのアーツで華麗にバック宙を決めるてかわす。

 そして再度突撃を仕掛けてターミネートアリゲーターのHPをガリガリと削っていった。


「……感心してばかりいないで俺も攻撃に参加しないと」


 武器は一撃の威力が高いスナイパーを採用。

 アーツも使いながらガンガンターミネートアリゲーターを攻め立てる。

 すると、ターミネートアリゲーターがその巨大な口を開き突撃してきた。

 サイはきれいにかわしてみせたが、俺は突然の攻撃に対応が遅れてもろに食らってしまう。

 すると、ターミネートアリゲーターの顎にとらわれて、そのまま沼地へと引きずり込まれてしまった。


(ああ、これが引きずり込み攻撃か)


 のんきなことを考えていられる理由は、何回もかまれているわりにHPが減っていかないためだ。

 最終的に陸地へと放り出されたが……減ったHPは全体の六割程度でしかなかった。

 最大HPの少ない俺ですらこの程度のダメージですむとか、防御力が高すぎるようだな。


「お帰り、フィート。引きずり込みを受けた感想は?」

「あまり気持ちのいいものじゃないな。……でも回復する時間があるのはありがたい」

「普通は即死だからね? いまのところ戦闘不能からの回復方法は見つかっていないから、タンクがやられたらほぼ終了だからね」

「わかったわかった。それで、あれってどうやってかわすべきだ?」

「フィートならハイジャンプでいいんじゃない? 多分十メートルくらいならボスエリアの制限に引っかからないよ」

「……そのようだな。今度はハイジャンプで回避してみるよ」


 次の回避方法を話していると、沼の中から再びターミネートアリゲーターが出現した。

 だが、今回も先ほどと同じくサイにたこ殴りにされてしまい、HPがどんどん減っていく。

 頼みの引きずり込み攻撃も難なくかわされ、俺もハイジャンプで逃げることができた。

 このまま空中砲台でもいいんじゃないかなと思っていたら、尻尾を振り回して岩を投げつけてくる。

 どうやら、空中に逃げていると特定の行動で狙い撃ちにされるらしいな。

 さっさと地上に降りよう。


「さーて、お前は強化モードがないしあとはたこ殴りだー!」


 のこりHPが三割を切っているターミネートアリゲーターに対して、サイは容赦なく追い打ちをかける。

 俺もサイに習って詰めの攻撃を加えていき……戦闘開始から十分ほどで倒し終わった。


「やったー! フィート、お疲れー!」

「ああ、お疲れ。……ただ、このあと、またドロップアイテムの確認があるぞ?」

「……思い出させないで……」


 今回のイベントアイテムは『ターミネートアリゲーターの心臓』である。

 さーて、ドロップしているかな?


「よっし、ターミネートアリゲーターの心臓ドロップしてたよ!」

「俺の方でもドロップしてるな」

「あれ? このイベントアイテムって一個限定じゃないの?」

「そのようだぞ?」

「すごいいやな予感がする……とりあえず、帰ろう」

「だな。帰って調合してみるか」


 イベントアイテムは揃ったのだ。

 あとは調合するだけ……のはず。


 俺とサイは最短距離で百獣の平原を抜け出し、ファストグロウへと引き返すのだった。

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