47.百獣の平原
「あ、見えてきたよ。百獣の平原」
「だな。そろそろ降りるか」
最近は長距離移動のたび、サイを抱き上げて滑空で移動している。
サイいわく、滑空の練習も兼ねているそうだが……まあ、深く突っ込んでも仕方がないだろう。
ともかく、俺たちふたりは草原と街道の境目付近に降り立った。
「ここから先は前も来たところだね。フィートのレベルが上がってくれたことで、私とパーティを組んでも問題ないところまできたし、パーティを組んでがっつり経験値を稼いじゃおう」
「わかった。それで、具体的にはどうするんだ?」
「私がモンスターの群れに突っ込むからフィートは援護。あと、空からくるモンスターがいたらその都度撃ち落として」
「了解した。それで、どうやって始めるんだ?」
「簡単よ。私が突撃するからね」
そう言って、サイは巨大な槍を取り出した。
何回か見たことがあるが、そのデザインは非常に無骨で女の子が選ぶ武器とは思えない。
槍といっても、柄の部分はそこまで長くなく代わりに刃の部分が下部を上に切り取った三角形状に広がっている。
刃の途中には細長い管のようなものも取り付けられており、一体どのように扱うのだろうか?
「さて、手頃な群れはあいつらかな……」
俺とパーティを組み、サイが狙いをつけたのはモンスターの群れ。
群れの数は十匹ほどだ。
「……いくらなんでも多くないか?」
「大丈夫だって。私を信じなさい」
サイはモンスターの群れの方に歩いて行き、五メートルほどの距離を取ってから槍を構える。
すると槍の穂先が輝き始め、ぐんぐん赤く染まっていく。
「さあ、いくよ! ブーステッドチャージ!」
アーツ名を叫んだ瞬間、サイの身体は一気に前方へと飛び出していった。
突進の勢いそのままにモンスターの群れに突っ込むと、何匹かを弾き飛ばして倒してしまう。
「さあ、次! インフィニティスラッシュ!」
今度は槍を横八の字状にブンブン振り回し始めた。
サイに突撃しようとしていたモンスターは、その槍の流れに飲み込まれてこれまた倒されてしまう。
それを見た生き残り数匹はサイを警戒するように距離を取り始めた。
「さて、今度は俺の出番だな。スティンガースナイプ!」
スナイパーから放たれる鋭い一撃がモンスターの身体を撃ち抜き、確実に一匹を仕留める。
その一撃でこちらにも気がついたようだが……ときすでに遅しと言うやつかな。
「よそ見しちゃダメ! ブーステッドチャージ!」
また突撃技を使い、モンスターに体当たり並みの勢いで突っ込んでいくサイ。
その一撃と俺の援護射撃により、モンスターの群れは全滅したのだった。
「ふー、楽勝だったねー」
「まあな。ところで、その槍はなんなんだ?」
「これ? 説明したことなかったっけ? ブーストスピアっていう武器種の槍だよ」
サイに聞くと、この武器は槍の中でもかなり特殊な武器のようだ。
基本は先ほどの『ブーステッドチャージ』による突撃から各種攻撃に移るパターン。
変わり種は突撃したあと、バク転の要領で後方宙返りをする『ドルフィンターン』などがあるそうな。
突撃すると言う性質上かなり使い手を選ぶらしく、使っているプレイヤーはかなり少ないらしい。
それでも、銃よりは多いそうだが。
「まあ、そういうわけですよ。私がバリバリの前衛。フィートが後衛。バランスが取れてると思わない?」
「そうだな。でも、俺が遠距離武器を選ばなかった場合は?」
「そのときはそのとき。前衛ふたりで楽しんでたよ」
……確かにそうなるだろうな。
別に、前衛ふたりでやっても問題ないのだから。
「それよりも、私たちならもっと奥にも進めると思わない? さっきのモンスターはレベル39だったけど、いまの私たちならレベル40台のモンスターだって余裕だよ!」
「それもそうだな。もう少し奥まで進もうか」
「よっし決定! 早く行こう!?」
短い休憩を終えて先へと進む。
途中、モンスターを倒しながらだったが、牛のようなモンスターとは相性がよかったのか簡単に勝てた。
逆に、チーターのようなモンスターとは相性が悪く、手こずることに。
原因はサイの武器が足を止めて戦うことを得意としているためだったが……俺の援護がもう少し的確ならもっと楽だったろうな。
反省反省っと。
「……大分、奥まで進んできたねー」
「そのようだな。途中から空のモンスターもうっとうしくなってきたし」
「あはは。全部撃ち落としてくれるから助かってるよ」
「それが俺の役割だからな。それで、これからどうするんだ?」
「……そうだねぇ。弱い方のボスにでも挑んでみようか?」
「弱い方って……。強いのもいるのか?」
「百獣の平原は何匹かボスがいるんだよ。これから挑むのは最弱のボス、名前はブッシュデビル」
「ブッシュデビルね。戦い方は?」
「こいつは全部で五匹いるボスなの。一匹倒すごとに次のボスが現れる感じね」
「ふむ、各ボスごとに行動パターンが違うとか?」
「正解。……まあ、でも、私にかかればどのボスもちょちょいかな?」
ちょちょいって……俺がいる意味あるのか?
「あ、フィートにはボスの相手よりもザコの相手をしてほしいの」
「ザコも連れてでるのか」
「三匹目以降はお供つきなんだよね。というわけで、そっちの対処をお願い」
「わかったよ。それで、ボスはこの近くにいるのか?」
「もうすぐそこだよ。さあ、急ごう」
サイに連れられて移動した先は、平原の中にあって木々が覆い茂っている場所。
ここがボスエリアらしい。
「さあ、ボス戦開始だよ!」
「了解だ」
俺たちが木々の中に入っていくと、あたりが曇り始め霧の中に閉じ込められてしまう。
これがボス戦開始の合図なんだろう。
そして木々の上から飛び出してきたのは……。
「……サル?」
「まあ、サルをデフォルメした感じだよね」
見た目はサルだが、顔が胸部に付いていたりと無気味な感じに仕上がっている。
こいつがブッシュデビルなのだろう。
「さあ、いくよ。ブーステッドチャージ!」
「ギギィ!」
サイが勢いよく飛び出し、サルがそれを木の実で迎撃しようとする。
だが、木の実があたってもサイの勢いは止まらず、ブッシュデビルに直撃した。
「さあさあ、一匹目はさっさと退場しちゃってねー」
「ギギャァ!」
接近戦に持ち込んだサイは、そのまま連撃をたたき込み一匹目のブッシュデビルを倒してしまった。
この間、三十秒足らず。
俺が手出しをする暇などなかった。
「さーて、二匹目はどこから来るかなー?」
「ギギャ!」
「ビンゴ! すぐそばに出てくれた!」
サイは二匹目ブッシュデビルにも突撃し、一気に倒してしまう。
今度は一匹目よりも早く倒せたんじゃなかろうか?
「さて、三匹目だね。フィート、援護よろしく!」
「ああ、わかった!」
サイの言うとおり、三匹目からはお供に小さなリトルデビルというモンスターを連れてでてくるようになった。
ただ、このモンスター、俺の攻撃でも二~三発で倒せてしまうので非常に処理が楽だ。
……もっとも、俺が処理を終える頃にはサイはブッシュデビルを倒し終わっているのでサイの強さが目立っているのだが。
そんな戦闘を五匹目まで続け、五匹目のザコをすべて倒した時点でボス戦終了となった。
「いやー、フィートお疲れ! さすがに銃の威力が高いね」
「それを言ったらサイの方が攻撃力は高いだろ? どんな素材なんだ?」
「前に言わなかったっけ? 昔、レイドイベントがあったときのボス素材で作った槍だよ。これより強い素材がまだ見つからないから、更新していないんだ」
「へー、そういえば、ボスドロップのアイテムってどんなのがあるんだ?」
「確認してみるといいよ。いまのフィートにはちょっとがっかりかもだけど」
サイに言われて確認したインベントリ内。
そこにはブッシュデビルの毛皮や尻尾、魔石などがドロップしていた。
「……これがどうがっかりなんだ?」
「それって防具素材になるんだけど、品質的にはフィートのいまの装備よりずっと格下になっちゃうんだよね。……いや、序盤では悪くない装備なんだけども」
「なるほどなぁ……。俺の装備が強すぎるのか」
「うんうん。あと、ちなみになんだけど、いまボス程度の攻撃力じゃフィートにまともなダメージ通らないからね? それだけ頑丈だってことは理解しておいた方がいいよ」
「……わかった。それで、これからどうするんだ?」
「うーん。ボスも倒しちゃったし、採取しながらザコを倒してレベル上げを少ししようか。百獣の平原ならミドルポーションの素材がときどき手に入るし」
「ときどき、なんだな」
「うん、奥地まで行かないとときどき。だからこそ、ミドルポーションって普通のポーションの十倍近い値段なんだよ」
「把握した。じゃあ、その予定で帰るとしようか」
「うん、そうしよう」
そういうわけで薬草拾いをしながら帰る途中、コールカフが鳴り響いた。
誰からの通信かと思えばオババからの通信である。
『フィート、サイ、聞こえているさね?』
『聞こえてるよー。オババ、どうかしたの?』
『姫様が呼んでいるのさ。すまないが、暇になったら姫様の塔を訪ねておくれ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます