第五章 姫様からの【シナリオ】

46.サイの新しいドレス

「いやー、調合の腕前も大分上がったよねぇ」

「まあな。おかげで自分で使うポーションには困らなくなってなによりだ」

「売る分もできて、でしょ」


 あれから数日間、オババのところに通うようにして【調合】スキルを鍛えてみた。

 スキルを鍛えていくうちに熟練度システムというのも大体理解できている。

 このステータスがたまらないと一定以上の品質にならないし、次のアイテムも作れないようだ。


 俺たちふたりはともに最初の熟練度ゲージを突破して、二本目もあと千ほどでクリアになる。

 ただ、ここで問題になるのが……。


「このアイテム、どう思うよ」

「どう思うって……すごい便利なアイテムだと思うよ?」


 俺が取り出したのはオババ直伝の秘伝書に書かれていたアイテム。

 その名も『低級メディテポーション』だ。


 俺が前使っていたメディテポーションは正式名称を『高品質メディテポーション』と言うらしい。

 これはそんなメディテポーションシリーズの最下級品らしいのだが……。

 回復量が微妙でなぁ。


「二秒ごとに一ポイント回復、それが六十秒間。これって役立つのか?」

「役立つに決まってるって。なにも使ってない場合、戦闘中のMP自然回復量は十秒ごとに一ポイントなんだよ? 五倍も回復するようになるんだから、売れる売れる」

「でもなあ、変に目立たないか?」

「目立ったとしても、私が全力で守ってあげるから平気!」

「……それは心強いお言葉をどうも」


 なお、対になる『低級リジェネポーション』も存在している。

 こちらも回復量は微妙なのだが、サイは非常に乗り気だ。

 ただ、作成に日光草や月光草を使うので単価を安くできないのが難点だが。


「うーん、もっと日光草や月光草をたくさん手に入れることができれば市場にも流せるのに」

「別にいいんじゃないか? 俺たちしか作れないポーションなんだから。ポーション作りばかりしているつもりもないだろう?」

「そりゃあね。そろそろ一緒に冒険に行きたいところ……なんだけど、行ける場所って百獣の平原くらいだからなぁ」

「いいんじゃないか、そこで」

「うーん、私だとばっさり切り裂いて終わっちゃうんだよね。フィートのレベル上げにはなるんだけど」

「ああ、俺の出番がないと」

「うん、だから一緒に冒険って感じにならないかな、と思って」


 難儀だな、ここまでレベル差があると。

 どこに行ってもサイが手を出すとオーバーキルになるんだから。


「ひょっとして、ここ数日、ずっと薬作りに付き合ってくれてたのって?」

「あれなら私も同じレベルで参加できるからね。まあ、ひとりじゃないなら生産もそこそこ楽しめたよ?」


 そうは言うが、サイってじっとしているのが苦手だからな。

 それなり以上にストレスがたまっているに違いない。


「じゃあ、いまの用事が終わったら百獣の平原にいってみるか」

「いいの?」

「たまには運動もしないとな」

「わかった!」


 ……ちなみに、俺たちはいまサーディスクにやってきている。

 理由はブリュレさんに頼んでいたサイのバトルドレスが完成したからその受け取りだ。

 サイは朝からテンションが上がっており、この日を待ちわびていたことがよくわかる。


「楽しみだなー。ああ、そうだ。フィートもこの機会に防具の修理をしてもらいなよ? 耐久力がそれなりに落ちているはずだから」

「了解だ。……さて、ブリュレさんのお店に着いたぞ」

「うん、ごめんくださーい」


 お店の扉を勢いよく開けると、そこではブリュレさんが待ち構えていた。


「ようこそ、サイちゃん、フィート君。とりあえずは、フィート君の装備を修理しましょうか。一瞬で終わるから」

「わかりました。装備は外した方がいいんですか?」

「そのままで大丈夫よ。……はい、修理完了」


 俺の装備が少し光ったと思えば耐久値が回復していた。

 と、同時に手持ちのリルが少し減っている。


「ああ、説明がおくれたけど修理するにはリルを消費するわ。修理する耐久値が多ければ多いほど必要なリルも多くなるから気をつけてね」

「はい、ありがとうございます」

「さて、それじゃサイちゃんの新しい装備ね。……これよ」


 ブリュレさんが取り出したのは、鮮やかな薄紅色のドレスだった。

 要所要所を紅色の金属で補強しており、戦う上でも問題なさそうである。


「うわぁ。これ、いいじゃない!」

「気に入ってもらえて幸いよ。防御力もいま装備しているバトルドレスからかなり上がってるわ」

「へぇ、どれどれ……って、これ、下手な全身鎧よりも硬いじゃない!」

「素材がよすぎたせいね。防御力が低いよりマシだと思いなさい。あと、頭装備は素材が予想以上に余ったからおまけね」

「まあそうだけど……って、今回の頭装備はサークレットじゃなくてティアラなのね」

「ええ、せっかくだからティアラにしたわ。これなら頭装備の非表示もしなくていいでしょ?」

「さっすがブリュレ、わかってる」

「さあ、装備してみなさいな」

「はーい。……おお、いい感じいい感じ」


 装備を変えたサイはよほど嬉しかったのか、クルクル回ってみたりぴょんぴょん跳ねてみたりしている。

 その度に、ドレスに付いているフリルが揺れて……なにやら赤い光が舞っているような?


「ブリュレさん、ドレスから光が出てません?」

「ああ、せっかくだから作成するときに属性アイテムを混ぜてみたのよ。紅鉄の衣が元々炎属性を持っているみたいだから、氷と水を足してみたわ」

「……ああ、グローブとブーツが青いのはそれでですか」

「青と言うよりほぼ白だけどね。まあ、そんなところよ」


 俺たちが話をしている間に、サイは満足したのか動き回るのを止めていた。

 そして、ブリュレさんに向かって一言お礼を言う。


「ありがとう、ブリュレ! ここまでの装備ができるとは思ってなかったわ!」

「こちらこそ。おかげで上級スキルが見える程度には熟練度がたまってきたわよ。ほかにもいい顧客が見つかったしね」

「それってイアリス?」

「そうよ。あの子、本当に装備にはお金をかけるわよね」

「そうじゃないと最前線で生き残れないんだってさ」

「まあ、いいけどね。それじゃ、今日はこれで全部かしら」

「あ、このあとなにか用事があるの?」

「新しい依頼が入っていてね……あなたたちの装備が一部で話題になった関係で、私に依頼が飛んできているのよ」


 ……それは、なんというかだな。


「なんだか、申し訳ないことをしたかな?」

「そうでもないわ。さっきも言ったけど、上級スキルまであとちょっとまで来たしね。……ただ、ゆっくりできる時間も減ったけど」

「……がんばってね、ブリュレ」

「ええ、あなたたちもがんばって」


 これからまた生産だというブリュレさんに送り出されて、俺たちは店を出る。

 そのあとは予定どおり百獣の平原向かうことになった。


「さあ、フィート、百獣の平原に向かうわよ!」

「わかってるって。じゃあ、いこうか」

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