38.調合ギルドへ

「おお、待っておったぞ。オジジのやつと姫様に話は通せたかい?」


 オババの店に入ると、すぐに出迎えられた。

 どうやら、俺たちの帰りを待ちわびていたらしい。


「うん、ふたりとも手伝ってくれるって」

「おお、それはありがたいねえ。オジジはこの騒ぎの元凶じゃから当然として、姫様が力を貸してくれるかは微妙だったのでねぇ」

「ふーん、そうなんだ。私たちが話を持って行ったらすぐに受けてくれたけど」

「それはお主たちだからだろうね。……さて、こうしちゃおれんのぅ。すぐに出発する準備をせねば」

「出発?」

「調合ギルドに行くのじゃよ。ほれ、お主たちも行くんだよ」

「俺たちもですか?」


 突然、話を振られたことに驚いてしまう。

 まさか、俺たちまで同行するとは思ってもみなかったぞ。


「神代の冒険者も一応いた方がいいじゃろう。外で騒いでいる連中は論外じゃし、私にはお前たちしか知り合いはおらん。従ってお前たちを連れていくことになるねぇ」

「なるほどー。でも、私たちが一緒に行くと目立っちゃうかも」

「そこについても考えがあるよ。まあ、私の任せておけ」


 そう言い残し、準備があるのか店の奥に消えていくオババ。

 さて、どうしようか……。


「フィート、これからどうする?」

「うーん、オババが着いてこいって言うなら一緒に行くしかないんじゃないか?」

「やっぱりそうなるよねぇ……」

「問題は、あのプレイヤーの中をどうやって移動するかだが」

「オババを守りながら移動……とかだったら、私にも無理よ。数が多すぎるわ」

「サイでも無理か」

「……街に被害が出てもいいならある程度はなんとかなるけど」

「それはダメだろう」

「だから私には無理だって言ってるの」

「……なにを物騒な話をしておるのじゃ」


 戻ってきたオババが俺たちの話を聞いていたらしい。

 いまの話の内容をサイが一応説明していた。


「そんなことか。もちろん対策はしていくから心配いらないよ」

「対策? ですか?」

「ああ。これさね」


 オババが取り出したのは群青色のマント。

 ちょうど三人分が用意されていた。


「これは『影隠しのマント』と言ってね。周囲の人間から気取られることなく移動できる優れものなんだよ」

「へえ、そんなすごいものがあったんですね」

「ああ。もっとも、これは暗殺などにも利用できるのでいろいろ制限が付いているんだけどね」

「やっぱり制限付きなんだ」

「もちろんだよ。制限なしではぽんぽん暗殺が成立してしまうだろう? 制限の内容だけど、まずはこのマントの中に武器を隠すことはできないのさ」

「隠さないでマントの外に持ち歩くことは?」

「身体の一部がマントの外に出ていると、マントの効果が発揮されないんだよ」


 なるほど、よくできている。


「次に使用時間だけど、一回につき三十分と制限されているのさね。そして、一回使うと二時間使うことはできなくなる」

「結構不便なのね」

「そうなるねぇ」

「注意点はこれだけですか?」

「まだあるよ。最後にじゃが、マントの中から他人に声をかけたり自分から他人に触ったりしても効果が消えちまうんだよ」


「まあ、当然と言えば当然の制限だよね」

「そうだな。……ところで、これを使ったら、使用者同士でも姿が見えなくなるんじゃ?」

「そのためのパーティじゃろう?」

「あれ、住人さんもパーティに組み入れられるの?」

「私らからすればなんで異界の冒険者しかパーティが組めないのか? って話なんだけどねぇ」


 そう言われてみるとそうだ。

 こっちの世界の冒険者だってパーティは組むだろうし。

 こんなところもゲームなんだよな。


「……さて、パーティを組んだら早速出発するよ。準備はいいかね?」

「私は大丈夫だよ」

「俺も大丈夫です」

「じゃあ、パーティ申請を送ったから参加しとくれ。……よし、じゃあ、行くよ」


 オババが先頭になって店の外に出てマントをかぶる。

 俺たちもそれに倣ってマントをかぶり、お互いを見てみるが……特に変わった様子はないな。


「同じパーティに所属しているもの同士にはマントの効果が発揮しないんだよ。さあ、遊んでないでさっさと行くよ」


 再びオババが先頭となって街の中を歩き始める。

 途中で冒険者の一団とすれ違ったり住人たちとすれ違ったりしたが、まったくこちらのことを気にとめた様子はなかった。

 ……その分、俺たちが相手をかわさなければならないのだが。


「……やれやれ、本当に冒険者どもが多いね。なにをそんなに血眼になっているのやら」


 少し早足で歩きながら、オババが愚痴をこぼす。


「……俺にはよくわからないですね」

「私にはちょっとわかるかも。やっぱり、最速で新しいスキルを覚えるのって一種の勲章みたいなものだから」

「……私らにゃわからない感覚さね」


 時折会話を挟みながらもぐんぐん進んで行き、現在地は街の南部エリア。

 全体的に壁が白い建物が多いエリアの中にある、かなり大きな施設の前にたどり着いた。


「さて、ここが目的地だ。入るよ」

「わかりました」


 オババの後に続き施設の中に入ると、すでにオジジと姫様はここに来ていた。


「遅かったのう、オババ。……まあ、最後に出発したようじゃし当然か」

「そうですよ。それに、冒険者さんたちを連れてきてくれたのはナイスです、オババ」

「お褒めにあずかり恐縮です、姫様。それで、話は進んでいますでしょうか?」

「いえ、まだここに来ただけですよ。本格的な話し合いはオババも来てからと言うことで」

「承知いたしました。話し合いの場にはこのふたりも同席させてもかまいませんか?」

「むしろ同席願いたいですね。当事者ではないにせよ、冒険者さんの意見も聞きたいです」


 うーん、よくわからないが、これは簡単な話ではなくなってきたぞ。

 と言うか、話し合いの場に参加って会議に参加しろってことだよな。

 隣のサイも苦笑いを浮かべている。


「あらあら、そんなに難しく考えなくても大丈夫ですよ。私たちの話し合いを見ていただくだけでかまいませんので」

「……それって、冒険者に知ってもらうためですか?」

「そうなりますね。……ああ、でも、ほかの冒険者さんに広めるのはご遠慮してほしいのです」

「わかりました。それではそういう方向で」


 サイのやつ、配信するかどうか迷ってたな。

 冒険者全体に影響があるようだし、当然なのか?


「お待たせいたしました、姫様。……そちらのふたりは?」

「異界の旅人さんですよ。今回の会議に参加してもらうことになりました」

「……姫様の推薦と言うことでしたらかまいませんが……ともかく、こちらへどうぞ。ギルドマスターがお待ちです」


 ギルドマスターってことは、一番えらい人だよな。

 そんな人に会っても大丈夫なんだろうか。


「そんなに緊張なさらないでくださいな。おふたりは気楽にお話を聞いていてくださればいいのですから」

「そうですな。話は儂らの方でまとめますゆえ」

「若いもんが臆するでない。シャキッとせいシャキッと!」

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