39.調合ギルド会議

「こちらの部屋でギルドマスターがお待ちです」

「ありがとう。もう下がってもらって大丈夫よ」

「はい。……本当に神代の冒険者を同席させるのです」

「くどいねぇ。このふたりなら大丈夫だよ」

「そうじゃの。儂ら三人が保証する」

「そういうことよ。それじゃ、行くわね」


 不安そうにしているギルド職員をよそに、姫様はドアに手をかけてノックもせずに押し開く。

 ドアの中は会議室になっており、そこには初老の女性が秘書のような女性を伴い待っていた。


「……お久しぶりですの、姫様。何年ぶりですかな?」

「あなたがマスターになる前だから十年以上前ね? そちらは秘書?」

「はい、私の片腕です」


 ギルドマスターの紹介を受け、きれいなお辞儀を見せる女性。

 どことなく隙のない切れ者な印象を受けてしまう。


「……それで、西のオババと東のオジジはわかりますが、残りのふたりは?」

「異界の旅人さん……神代の冒険者と言ったほうがいいのかしら? その人たちよ」

「ほう……神代の冒険者ですか。いま騒ぎを起こしている連中の代表ですかな?」

「いいえ、むしろ真逆ね。まったく関係ない、オババの身内よ?」

「……オババの身内? オババよ、神代の冒険者を身内にとったのかい?」

「ああ、そのつもりだよ。まだ本人たちには伝えてないけどねぇ」


 イッヒッヒと笑うオババ。

 身内とはどういう意味か?

 いま聞いても答えてくれないんだろうな。


「……となると、この会議に参加する資格は十分だね。じゃあ席についておくれ。早速始めようじゃないか」


 ギルドマスターが着席を促し、おのおのが席に着く。

 俺とサイは目立っても仕方がないの端の方に座った。


「さて、本日の議題だが……オジジよ、余計なことをしてくれたね」

「それについてはスマンとしか言いようがない。まさか、こんなことになるとは……」

「……まったく、神代の冒険者とはここまで貪欲なのか」

「貪欲と言えば聞こえがいいけど、独占欲が強いとか利己的だとか、そういう見方ができるんじゃないかしら?」

「そうさね。私も姫様と同じ意見だよ」

「……だろうね。まったく、ファストグロウもようやく復興したというのに、また余計な騒ぎを起こしおって」


 ……復興?

 一体なんのことだろう?


「ああ、神代の冒険者は知らないだろうね。簡単に説明すると、ファストグロウは三十年ほど前に疫病が蔓延したんだよ」

「そのころは私もオジジもがんばったんだがねぇ……。何分毒性が強い病で太刀打ちできなかったのさ」

「そんなところに現れたのが姫様じゃった。姫様はあっという間に病を消し去ってくれたんじゃ」

「そんなすごいことはしていませんよ。私は私にできることをしたまでです」

「……まあ、誰がすごいとかは置いておいてだ。そんな事件があったから、ファストグロウは一時期活気が失われた。その活気を取り戻したのがここ数年の話だったんだよ」


 そんなバックストーリーがあったのか。

 全然知らなかった。

 隣に座るサイの様子を見てみるが、サイも知らなかった様子だな。


「まあ、いまはそんなことはいいさ。現在起こっている問題にどう対処するかだね」

「そうだね。……あんたらの要求は冒険者たちにも調合ギルドの門戸を開けろってことだったね?」

「そうですね。調合ギルドが皆さんを受け入れてくれれば、こんなに早い話はありませんからね」

「……それで、調合ギルドの方に見返りは?」

「……ふむ、見返りを求めるということは受け入れには反対しないということさね?」

「姫様にも頼まれたんじゃ断れないよ。ただ、はいそうですかと受け入れるわけにもいかないのさ」

「そうでしょうね。調合ギルドは長らく資金難でしたから」

「ああ。先日、多額の寄付金があったから持ち直したものの決して楽な運営じゃないからね」

「そうじゃろうの。……さて、困ったわい」


 お金の問題か。

 確かに、それは大事な話だよな。

 俺たちにとってはすぐに稼げる額でも、住人とってはそうではないのだから……。

 って、それなら……。


「あの、発言してもいいかな?」

「ふむ、かまわないぞ」

「そういうことなら、調合ギルドに参加? 入門? とにかく所属したいプレ……じゃなかった、冒険者からはお金を徴収するっていうのは?」

「ふむ、それは反感を買わないかね?」

「私からもいい?」

「どうぞ、忌憚のない意見を述べてくれ」

「じゃあ、遠慮なく。多少の金額なら気にしないと思うわよ? 神代の冒険者ってある程度の実力者になれば十万リルとか余裕で稼げちゃうから」

「ほう、そこまでか」

「そうそう。だから、多少の入学金? 入門金? をとっても問題なしよ。というか、それすら嫌がるなら最初から生産スキルをとる資格なんてないわ」

「……そうなのか?」

「そういうものよ。【裁縫】や【錬金術】だって入門するときには少なくない持参金を求められることがあるんだから」

「……それはいいことを聞いたな。それではその方向で話を進めるとしよう。助かったぞ、冒険者たち」

「いえいえ、お気になさらず」


 方針さえ決まればあとはトントン拍子に会議は進んでいく。

 俺たちは蚊帳の外って感じだが……まあ、いることに意味があるのだろう。


「そういえばさっきの話は本当なのか?」

「さっきの話って?」

「生産スキルを覚えるときに持参金がいるって話」

「ああ、本当よ。有名な人に習おうとすると相応の対価を求められるのよね。それがお金だったりレアアイテムだったりするんだけど」

「やっぱりゲームも世知辛いな」

「お金で解決できるなら楽な方よ。いまの状況を考えたらそうなるじゃない」

「……それもそうか」


 俺たちふたりを除く四人での話し合いは続き、おおよその結果は出たようだ。

 調合ギルドのギルドマスターが後ろに控えていた女性に声をかけると、女性は一礼してから部屋を出て行った。


「話し合いは終わったんですか?」

「一応ね。とりあえず、入門したい冒険者からは一定の金額を徴収する。そして、講座を受ける際にも同様にお金を集める方針だよ」

「講座?」

「調合ギルドに併設している学院はいくつかの講座を受けることができるんだよ。それらをすべて修めて始めて【調合】スキルを覚えることができるのさ」

「……そうなんですね。それって近道とかあるんですか?」

「ないですね。普通の入門者さんも同じように講座を受けて始めて調合ができるようになりますから」

「なるほどです。……こうなると、この内容をどこかで拡散しないとダメかな」

「それをするための人間を呼びに行かせたよ。すまないがあんたらももう少し付き合っておくれ」

「わかりました。サイもかまわないよな?」

「オッケーオッケー特に用事もないですし、かまいませんよ」


 そして、秘書の女性が戻ってきてから十数分が経過した頃、ひとりの男性が会議室にやってきた。


「おい、調合のババア! 冒険者にも【調合】を教えるってのは本当か!?」

「あんたは本当にうるさいね、冒険者の。本当だから腰を下ろしなよ」


 入ってきた男性は筋骨隆々で、見ただけでかなり強そうなのがわかる。

 さて、この人は誰なのか。


「……ああ、冒険者のふたりは知らないかもね。こいつは冒険者ギルドのマスターだよ」

「うん? 冒険者? ああ、神代の冒険者か、冒険者ギルドのマスター、アーベックだ。よろしくな」

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