31.ルディアーナ商会一番街支店
「ここがルディアーナ商会一番街支店でございます」
「おお、ここかー」
「こんなところにこんなお店があったのね……」
ブリュレさんの店から徒歩数分、大通りに面した場所にその店はあった。
時間はすでに夜遅くだが店はしっかりと開いており、お客もそれなりに入っているようだ。
「バーンズさん、一番街支店と言うことはほかにも支店があるんですか?」
「ええ、もちろん。冒険者ギルドに近い二番街支店には冒険者向けの品が多く置いてあります。ほかの支店も、それぞれの特色にあったアイテムを取り扱わせていただいておりますよ」
「……それはすごい」
「私どもはそういった商会を目指しておりますので」
もう十分に大商会へとなっている気がするのは気のせいでないだろう。
女性二名はすでに店内に入っていったし、俺も入ってみるとするか。
服そのものを取り扱う店ではなく、生地を取り扱う店らしいし。
「あー、ようやくきた! みてみて、マギスパイダーシルクの高品質品、こんなに在庫があるよ!」
「マギスパイダーシルクってお前がほしがっていた素材か。でも、高いんじゃないか?」
「高いけど、これは買いだよ! プレイヤーズマーケットじゃ見たことがないもん!」
「そうなのか?」
{そうなのよ}
{つか、高品質マギスパイダーシルクがあるとか知らなかった}
{どうやったら手に入るんだそれ}
「あ、これは紅鉄の衣! これも買っちゃおう! これで私のドレス素材はほとんど揃った!」
「そうか。あと揃ってないのはなんだ?」
「糸かな。このエリアは布素材のエリアみたいなんだよね」
「糸でしたらあちらですね。ご案内いたしましよう」
「ありがとうバーンズさん。またあとでね」
バーンズさんと一緒に奥のコーナーに移動するサイ。
案内板を見ると、糸のコーナーは布のコーナーの奥にあるようだ。
……装備を作るときは布だけじゃダメなのかな?
「ああ、フィート君。ここにいたのね」
「あ、ブリュレさん。どうかしましたか?」
「フィート君の装備素材を決めようと思っていてね。装備を縫い付ける糸はマギスパイダーの糸で決まりなんだけど、布素材はどうしたらいいかなって」
「うーん、俺はそんなに詳しくないですから……」
「そうよね。それなら、質問に答えてちょうだい。それで私が見繕うわ」
「わかりました」
質問か、それなら答えられそうだ。
「それじゃあ、質問を始めるわよ。最初に布装備と革鎧、どっちがいい?」
「布装備の方がいいですかね。革鎧だと動きにくそうですし」
「了解。次は、物理防御と魔法防御どちらを重視する?」
「うーん、バランスよく、というのは?」
「可能よ。それじゃあ偏った装備は作らないようにするわね」
「そうですね、よろしくお願いします」
「最後に、攻撃重視の防具にするか防御重視の防具にするか」
「ん? 攻撃重視の防具、なんて作れるんですか?」
「ステータス補正を攻撃力重視に割り振ることができるのよ」
「ステータスって、そんな簡単に補正がつくものなんですか?」
「装備の補正値は結構簡単につけることができるわね。高品質な装備限定だけど。あと、ステータス補正を強めにつけると防御力が下がるかな」
なるほどね。
いろいろとめんどくさいんらしい
「ちなみに、攻撃重視と防御重視、それぞれのステータスの振り方は?」
「防御重視はわかりやすいわ。VITやMNDに割り振って防御力を上げるの。攻撃重視は……銃の場合だと、AGIを上げて素早く動けるようにすることかしら?」
「やっぱりAGIが高いと速く走れるんですかね?」
「一時的にはね。AGIは瞬発力を表す……っていわれているわ。ああ、DEXは器用さね」
「それじゃあ、AGIとDEXに割り振ってください」
「わかったわ。……さて、それじゃ、予算の許す範囲で一番にいい素材を選びましょう」
「はい。お手柔らかにお願いしますね」
こうしてブリュレさんと生地探しが始まったのだが……なかなか決まらない。
どうにも三百万リルというのが半端らしく、もう少し余裕があればかなりいい生地が使えるそうなのだ。
と言われても、俺に出せる限界が三百万ちょっとなのでどうしようもないのだが。
「いやー、いい買い物をした! ……あれ、ブリュレ、まだ生地探しをしていたの?」
「ああ、サイちゃん。あなたはもう決まったの?」
「もっちろん。高品質マギスパイダーシルクに紅鉄の衣と高品質紅鋼板、それにマギスパイダーシルクの糸よ」
「高品質、の頭文字がつかなければ最初の望み通りね」
「ふっふーん。これが六百五十万リル以下で買えたから儲けものよね」
「……なにそれ、詳しく」
ブリュレさんの目の色が変わった。
高品質な素材を目の前にして、それらが安く買えるとわかれば反応も変わるか。
「それには私から説明させていただきましょう」
「バーンズさん?」
「まずはフィート様、これを」
バーンズさんから渡されたのは一枚のカード。
金色に輝くそれにはなにか紋章が彫られていた。
裏返してみると、俺の名前も彫り込まれている。
「これは私ども、ルディアーナ商会の特別会員証です。その会員証をご提示いただければ、系列すべてのお店で15%のお値引きをさせていただきます」
「……そんなに値引きをしてもらって大丈夫なのか?」
「それでも十分に利益は出ていますのでご安心を。それから、ブリュレ様にはこちらですね。当商会の一般会員証です」
「あら、ありがとう。これでルディアーナ商会のお店に出入りできるのね?」
「はい。今後ともぜひごひいきに」
「ごひいきにしちゃうわよ。これだけの品揃えだもの。今はいっている仕事が片付いたら早速いろいろと買わせてもらうわ」
「よろしくお願いいたします」
それにしても15%も値引きか……。
すごいものが手に入ったな。
「これがあれば、フィートの装備だって割となんとかなるんじゃない?」
「そうね。値引きがかかるんならなんとかなるかも。ええと、これとこれでしょう。あ、ドラゴンレザーなんてあるんだ。これも外せないわね。あとは……」
「ドラゴンレザーって布装備の素材になるんですか……?」
「大丈夫よ。レザージャケットやレザーパンツの材料になるから。それから……これもかしらね」
素材についてまったくの素人なので全部ブリュレさんにお任せする。
ドラゴンレザーとかグリフォンレザーなんていう単語が聞こえてくるが……気のせいだと思っておこう。
「お待たせ。生地を選んできたわよ。多分、値引きも含めて三百万に収まるはずね」
「わかりました。それじゃ、会計を済ませましょう」
「ええ、そうね。……それにしても、こんなお店があるなんて、眼福だったわ」
「ブリュレにはそうよねー。私もドラゴンレザーとか初めて見たもの」
「ワイバーンレザーじゃなくてドラゴンレザーだものね。いままでドラゴンの討伐報告とかあったかしら?」
「そもそも発見したって話を聞いたことないよ?」
「そうよね。……いまの仕事が終わったらかなりまとまったお金が手に入るし、ここの素材で持ちうる限りの技術を詰め込んだ装備を作るんだ……」
「どうせやるんだったら、依頼主を見つけてきてオーダーメイドの方がいくない?」
「だって、多分二千万とかそういう金額のオーダーメイドになるわよ? そんな金額持っている知り合いなんて……ひとりいたわね」
「そうそう。彼女を巻き込もう!」
「話に乗ってくれるといいんだけど」
女性ふたりは
ちなみに、俺の会計金額は、本当に三百万ギリギリであった。
これって技術料はどうするつもりなんだろう?
「よい品物を買っていただけたようでなによりです。それでは私めはこれにて」
「ありがとうね、バーンズさん」
「ありがとうございました」
「いえ。それではまた」
バーンズさんを見送ってからブリュレさんのお店へと戻ってきた。
そこで装備の詳細などを話し合っていつ頃完成するかを決めるのだが……。
「フィート君の装備に関しては、明日の朝一には完成させておくわ! さすがにサイが連れ回すのにいつまでも初心者装備じゃ危ういもの!」
「ねえねえ、私の装備は?」
「そっちは数日待ちなさい。フィート君の装備素材よりさらに上の素材を使っているんだから、私の熟練度が少しでも上がってからの方がいいでしょう?」
熟練度という聞き慣れない言葉が出てきたので聞いてみたが、生産スキルには熟練度というパラメーターがあるらしい。
これが高くなれば高くなるほど難しい作業もこなしやすくなるのだとか。
「わかったわよ。その代わり、フィートの装備は急ぎでね!」
「了解したわ。旦那にも許可を取ったし今夜は徹夜ね!」
「……あの、無理をしなくても……」
「大丈夫よ。こういうことはたまにあるから。あ、明日の朝は住人の子が店番をしているはずよ。その子から装備を受け取ってね」
「わかりました。それで、作成費用は……」
「それも必要ないわ。これだけの装備、作ればどれだけの熟練度と経験値がたまるのかしら……考えただけでゾクゾクしちゃう! それにあのお店の会員証! あれはお金では買えないものだし!」
「えーっと?」
「……あーなったらブリュレは話を聞いてくれないわ。聞くべきことは聞いたしもう行きましょう」
「ああ、わかった。ブリュレさんよろしくお願いしますね」
手のひらをひらひらと振って送り出してくれるブリュレさん。
さて、懸念だった防具もなんとかなりそうだし、これで一安心かな。
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