26.幽玄の森へ

 さて、再ログインしてセレナに様子を聞いた。

 だが、薬草集めにはもう少し時間がかかるらしい。

 オババが言うには、薬草類も一緒に調合しなくちゃいけないとのこと。

 なので、幽玄の森突入は薬草の準備が整ってからとなった。

 いまは幽玄の森前で最終確認の真っ最中だ。


「いい、ボスのカーズファントムは近づくと物理攻撃、離れると闇属性魔法攻撃がくる難敵よ。……防具の更新が間に合っていればかなり楽勝だったんだけど」

「それって今日中には終わらないんだろ?」

「早くても明日ね。だから、いまの装備のまま挑んでもらうしかないわけで……」

「そういうことなら仕方がないさ。それで、俺はどうすればいい?」

「相手の攻撃をかわしつつ、高火力のスキルをバンバンたたき込んじゃって。弾丸の残りがなくならないようにも注意してよ」

「石の弾なら千発以上あるから大丈夫だ」


 そのときコールカフが鳴った。

 セレナの方で薬草の準備ができたらしい。

 いつでも受け取りに来てもらえるように手配してくれたそうだ。


「さて、戦いの準備は整っているわね?」

「ああ。まずは序盤の雑魚をさっさと倒しつつ、ボスまで一直線に向かうんだろう?」

「ええ。素材の時間制限を考えたらボスの素材を最初に入手するのが一番だもの。それじゃ、行きましょうか」


 俺たちふたりは『悪霊の涙』を使い、幽玄の森へと足を踏み入れる

 幽霊系のモンスターが早速襲ってくるが……スリーショットやインパクトショットで一発だ。


「……幽霊系モンスターってHPが低い?」

「低いわよ。そうじゃなきゃ、近接攻撃で倒せないしね」

「なるほど、これは楽ができそうだ。一気にボスまで進もう」

「そうね、それがいいわ」


 俺たちはうっそうとした森を駆け抜けた。

 ときどき襲ってくるはモンスターは、返り討ちにする。

 十分ほど森を進んだ先にそいつはいた。

 体高三メートルほどの巨大な影型のモンスターだ。


「あいつがこの森のボス、カーズファントムよ」

「ゾンビグリズリーのときも思ったんだが、ボスが近くないか、このゲーム」

「フィールドタイプの場所なんてこんなものよ。さて、ここからなら先手をとれるわね。すぐに反撃のダークアローが飛んでくるから注意して」

「わかった。危なくなったら援護してくれよ」

「……死に戻りされないように気をつけるわ。さあ、戦闘開始よ」

「おう! ラピッドショット!」


 ラピッドショットは【アサルト】の基本的なアーツ。

 スキルレベルに応じた弾数を速射すると言うわかりやすいスキルだ。

 今回は十発ほど撃ち込んだのだが……HPは一割も減っていないな。


 攻撃を受けたカーズファントムはその巨体をぐるりと回し、真っ黒な顔から闇色の矢を三本発射してきた。

 あれがダークアローだろう。

 距離があったので俺は余裕でかわし、次の攻撃に移ろうとした。

 だが、カーズファントムはその巨体を生かしたなぎ払い攻撃をしてきた。


「っと、危ない!?」


 なぎ払った姿勢のまま、カーズファントムが地面にひっくり返っていたので、俺はスナイパーに持ち替えアーツを使用する。

 スナイパーのアーツは、スティンガースナイプといい単体高火力のスキルとなっている。

 それだけじゃなく、弱点にヒットすればクリティカルも出やすい仕様のようだ。


(多分、カーズファントムの弱点は胸部分にある球体のはず。クリティカルダメージも乗って約一割削れた。序盤の滑り出しとしてはいい感じだ)


 俺は再びアサルトに持ち替えてスリーショットやインパクトショットでダメージを積み重ねていく。

 この辺のスキルは、技後硬直も詠唱時間も少ない便利スキルなのだ。

 ただ、どれだけダメージを与えてもカーズファントムは嫌がるそぶりすら見せずに迫ってくるのは恐怖だが。

 少しずつダメージを積み重ねること十数分、カーズファントムの残りHPはわずかになってきた。


(もう少しでHP25%。サイの話が確かなら、ここから強化モードが入るはず……)


 念のため、スキルを温存し通常攻撃で25%を割ってみる。

 すると、カーズファントムが怒ったように地面を何回も殴りつけ、その反動で何カ所かに岩がせり上がる。

 俺は急いでその岩陰に隠れて様子をうかがう。

 すると、カーズファントムからおびただしい量の黒い針が辺り一面に放たれ周囲に突き刺さった。

 突き刺さった場所からは、ジュウジュウと溶けるような音が聞こえる。

 なので、サイに聞いたとおりこれは即死攻撃なのだろう。


「こんな攻撃、まともに食らってられないな……」


 この攻撃を使ったあとのカーズファントムは少しの間無防備になるそうなので、この隙にスキルを連続して使用しダメージを重ねる。

 やがて、再起動したカーズファントムは、しばらく俺の事を追い回してきた。

 ダークアローと巨体からのパンチや踏みつけ攻撃が交互に繰り出されてくる。

 そのため、非常に避けにくいったらありゃしない。

 このフェーズでは狙われている人間は無理に反撃せず、回避に専念するのがセオリーなのだそうだ。

 セオリーじゃなくても回避しかできないけどね。


 しばらくの間、鬼ごっこを繰り広げていた俺とカーズファントムだが、それも唐突に別れを告げる。

 カーズファントムが地面を叩きつけ始めたのだ。


(二回目の影針攻撃か、確かこのあとはダメージ床が設置されるんだったよな)


 サイの攻略情報を思い出しながら岩の影に隠れる。

 二回目の影針でランダムな位置にダメージ床ができてしまうらしい。

 なので、この攻撃後に倒してしまうのが基本的な攻略法らしいのだ。


 無事、影針攻撃をやり過ごすと、不気味な色をした水たまりが多数できていた。

 これがダメージ床というやつなのだろう。

 ダメージ床を迂回しながら、俺はカーズファントムに接近してアーツの連撃を撃ち込む。

 あと残り2%ほどで倒せるところまでダメージを与えることができたが、そこでカーズファントムが復帰してしまった。


「くっ、これじゃ倒しきれない!」


 高火力アーツは軒並みクールタイム――次に使用できるようになるための待機時間――に入っている。

 それ以上に、あのボスの連撃を食らってしまうと、すぐにHPが尽きてしまうのだ。

 また、逃げ回るにしてもダメージ床が邪魔になる。

 さて、どうしたものか。


「……ここは切り札を使う場面だろ!」


 俺はインベントリからリジェネポーションを一つ取り出して飲み干す。

 これでしばらくの間、俺は二秒ごとに五十ポイントのHPが回復するようになった。

 ボスの攻撃を受ければ死んでしまうが、ダメージ床の効果は無視できる。

 こうして、次の影針攻撃が行われるまで逃げ切ることに成功した俺は、無事にカーズファントムを討伐することができた。

 カーズファントムの素材に、目的の薬素材も入手したし、申し分ない戦いだったな。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「フィートお疲れー、がんばったねー」


{彼氏さん、お疲れ様ー}

{彼氏さん、初見ボス二匹目おめ}

{彼氏さん、最後のポーションなにあれ}

{俺も気になった。毒沼のダメージが定期的に回復していたが}


「はいはーい。質問はまた今度ね。いま、私たちは時間制限ありのサブクエ中なんだから」


{すまそ}

{そうでした}

{彼氏さん、GoGo!}


「配信してたんだな、サイ」

「うーん、暇だったからね。クエスト内容は伝えてないよ。ただ、幽玄の森で素材集めをしなくちゃいけないとだけ」

「そうか。それじゃあ、急いで残りの素材を集めなきゃな」

「うんうん、急ごう!」


 そこから先は、モンスターをサーチ&デストロイでひたすら狩りまくっていった。

 素材を落とすモンスターと落とさないモンスターがいたが、分けて考えるよりも全部倒した方が早かったからだ。

 サイもリスナーもこの方が手っ取り早いし見栄えがいいと言うことで乗り気だったし問題ない。

 ただ、俺が物理攻撃でバンバン幽霊を倒しているのをみて疑問に思ったリスナーがサイに質問していたようだが……そこはサイに任せよう。

 ボスモンスターを倒して四十分ほど。

 指定されていた素材をすべて集めきった俺たちは、すぐに幽玄の森を脱出しサーディスクに戻って行った。

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