25.オババの見解
「ふむ……そいつは厄介な病を拾ってきたもんだねぇ」
「オババ、知ってるのか?」
ファストグロウに戻ってきてすぐ、オババの元を訪ねる。
病状と直前の行動を伝えるとすぐに反応があった。
「知ってるか知らないか、で言えば知っている。ただ、そいつは正確には病でも毒でもないのさ」
「オババ、どういう意味?」
このセリフにはサイも首をかしげている。
実際、俺も意味がよくわからない。
「その症状を引き起こすのは呪いさね。おそらくフォートレイから帰ってくるとき、幽玄の森で呪いを食らっちまったんだろう」
「……サイ、フォートレイへの道って幽玄の森を通るのか?」
「一部通り抜けるね。フォートレイへの道って、百獣の平原と幽玄の森の境界を走り抜ける感じだから」
「そういうことさ。それ故に、どちらのモンスターにも気をつけなくちゃならない。今回の件は運がなかった、そう言うしかないねぇ」
運がなかった、か。
つまり、オババでも打つ手がないと言うことだろうか。
「オババでも治療法は知らないの?」
「知ってるよ。いささか以上に厄介だがね」
「念のため教えてくれないか? こちらとしても依頼人に伝えなくちゃいけないんだ」
「わかったよ。まずは……」
オババが伝えてきたのは聞いたことがない薬草類の名前。
一応、【植物知識】スキルのおかげでどんな薬草なのかは思い浮かぶが……入手場所まではわからない。
「とまあ、ここまでがこの辺じゃ手に入りにくい薬草さ。この店にも在庫はないからね」
「……じゃあ、これらを入手できないとどうにもならないってことか」
「ああ、そうなるね。問題はこの先なんだが……とりあえず、依頼主とやらにいまの薬草が手に入るか聞いてごらんよ。サーディスクの大商会なら持ってるかもしれないからね」
俺はコールカフを使いセレナにいまの話を伝える。
そして、治療法はあるが薬草が足りないことを告げると勢いよくこう言ってきた。
『薬草の在庫なら大丈夫です! うちの薬剤部門にそれらの薬草が貯蔵されていますから!』
……どうやら本当に薬草はなんとかなったらしい。
それをオババに教えると楽しそうに笑った。
「いいねぇ。こうも偶然が重なるとは。よし、残りの材料を集めてくれば治療薬……というか特別な解呪薬かねぇ、作ってあげようじゃないか」
オババの言うとおり、これはいくつかの偶然が重なった結果だろう。
俺たちがセレナを見つけたこと。
セレナの依頼を受けたこと。
オババの知り合いだったこと。
薬草の在庫があったこと。
どれが欠けてもいまの状況には結びつかなかったのだから。
「さて、残りの材料なんだが……残りの材料は幽玄の森にいるモンスターどもが落とす素材なんだよねぇ」
「モンスター素材ですか? それならいくつか持っているけど……」
「ああ、入手してから時間が経ったのじゃダメなんだよ。せめて入手から二時間以内のものじゃないとね」
二時間か、それは厳しいな。
「そういうわけだから、ひとっ走り幽玄の森に行って素材を集めてきておくれ。必要な素材はすべて書き出すよ」
「お願いします。……さて、どうやって素材を集めようか」
「素材集めかぁ。私が戦ってもオーバーレベルペナルティーで素材ドロップしないからなぁ」
「そうなると必然的に俺がひとりで戦わなくちゃダメか。問題はどうやってダメージを与えていくか、だな」
「……ああ、伝え忘れてたよ。ここに『悪霊の涙』があるから使っておくれ」
……『悪霊の涙』って。
呪われそうな名前だな。
「『悪霊の涙』ってなんですか?」
「霊体系モンスターに物理攻撃が通用するようになるアイテムさね。作るのが面倒だから余所には卸してないんだが、今回は急ぎだから特別にただで使わせてやるよ」
「……呪いのアイテムとかじゃないんですね?」
「冒険者がなにを怖がっているのさ。そんな物騒なものを渡しやしないよ」
「ならいいんですが」
「『悪霊の涙』は一個で二時間効果がある。ただ、素材アイテムを入手してから二時間以内に届けてもらわないと意味がないから、その辺は上手にやっておくれよ」
「わかりました。こちらでうまくやってみます」
「いい返事だ。念のため『悪霊の涙』は六つほど渡しておこう。これが集めてほしい素材と倒すべきモンスターの一覧だ。それじゃ、がんばってくるんだよ」
一覧を受け取った俺たちは薬屋を出てホームポータルへと向かう。
向かうのだが、向かう途中で一覧の内容を見たサイが作戦会議を提案してきた。
「なんだサイ? 急がなくていいのか?」
「急がなくても大丈夫だよ。どちらにしても晩ご飯の時間でしょ? それに、さっきコールカフで確認したけど、薬草の手配に数時間かかるって」
「……急がなくてもいい理由はわかった。それで、呼び止めた理由は?」
「うん、倒さなくちゃいけないモンスターにボスモンスターが含まれてる」
……は?
「それって勝てるのか?」
「ボスモンスターのレベルは31。ソロでも勝てる……というか、ソロ推奨のモンスターだからどうにかなると思うけど」
「でも、対策はいるよな?」
「そうだね。フィート、スキルはどうなってる?」
「えーと、こんな感じだな」
ステータス画面を表示してサイに確認させる。
その内容を見て、サイはひとつ頷いた。
「うん、今のままじゃ火力が不安だね」
「……俺の武器でもか?」
「結構HPはあるのよ、あのボス。で、ノックバックも無効だし。今のままじゃきつい」
「じゃあどうする? いまからレベル上げか?」
「それも時間的に厳しいっしょ。このクエストが明日になってもいいなら別だけど」
明日か……それは無理だろうな。
「……セレナの様子だと少しでも早く、だよな」
「だね。だから、今できる対策をやっちゃおう」
今できる対策とは、アーツを開放することだった。
未解放状態だったアーツ三種類を覚える。
さらに、アーツカスタマイズで高火力化を行ってダメージ量を増やすというわけだ。
SPはほとんど空になったが、仕方がないと割り切ろう。
「さて、それじゃあ晩ご飯を食べたらサーディスクに集合してお化け退治だね」
「だな。がんばるとするか」
「うん、がんばって!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます