24.少女の依頼

「大丈夫か、君」

「えっと、あなた方は……?」


 まだ道ばたに座り込んでいた少女に手を貸し立たせる。

 サイが軽く少女の様子を確認したようだが、けがはなさそうだ。


「俺はフィート、こっちはサイ。見てのとおり冒険者だ」

「大丈夫だった? なにかさっきの人たちに話しかけてたみたいだったけど……」


 俺たちの言葉を聞いて、少女は悲しそうにうつむく。


「……はい。実は冒険者さんに依頼をしようと思ったのですが、ギルドでは取り合ってもらえなくて。それで、直接お願いしようとしたら……」

「なるほどねぇ。そうなるとどっちが悪いとも言えないわよね」

「はい、無理を言ったのは私の方ですし」


 詳しく話を聞くと、なんでも冒険者ギルドに依頼を出そうとギルドまでやってきたが、ギルドでは受け付けてもらえなかったらしい。

 それでも諦められず、何人かの冒険者に声をかけてみたのだが……結果は芳しくなかった様子だな。


「そもそも、なんでそんなに依頼を出したかったの? 冒険者ギルドに断られたってことは、依頼料が足りなかったとか?」

「いえ、ギルドの方では依頼料は問題ないと言われました。ただ、依頼内容があいまいなので受け付けるのが難しいと……」

「ふーん、そうなの。ちなみに、どういった依頼なのかしら?」

「話を聞いてもらえるんですか!?」

「とりあえず話だけならね。受けるかどうかは別。それでもオーケー?」

「はい、大丈夫です! いままでは話も聞いてもらえなかったので……」


 ……それまたひどい話だな。

 でも、それだけ難しい依頼なのかもしれない。

 サイならなんとかできるかもだが……受けるときは俺が主体になるんだろうね。


「まずは私の家に来ていただけますか? そちらでお話しした方がわかりやすいと思いますので」

「わかったわ。行きましょうか、フィート」

「ああ、行こう」


 少女に案内されてたどり着いたのは、サーディスクにある大きな商店……いや、商会か?

 少女はそこの店員に挨拶されながら、奥へと歩いて行く。

 それについていく俺たちふたりは奇異の目で見られたが、特に止められはしなかった。


「……到着しました。とりあえず、この応接室でお待ちください。いまお茶を用意させます」

「いえ、そんな気を遣ってもらわなくても大丈夫よ。私たちは冒険者なんだからね」

「そうだな。そちらが問題ないなら本題を聞かせてもらえるかな?」

「……わかりました。あ、そういえば名前を名乗っていませんでしたね。私はセレナと言います」


 少女……セレナは一拍おいてから、依頼内容を語り始めた。


「依頼内容は父の病を治していただくことです」

「……病を? それを冒険者に依頼するの?」

「はい。これが最後の望みなのです」

「サイ、こんなことってあり得るのか?」

「普通あるわけないでしょ? 冒険者って基本的に荒事が専門よ。治療薬を作る錬金術士はいても、病の治療なんて専門外だわ」

「……ですよね。ですが、今回ばかりはわけが違いまして」

「……続けてちょうだい」

「はい。サーディスクの医師に診てもらったのですが、父の病はモンスターから受けた毒が原因と判明しました。ただ、その毒がなんなのかはっきりしなくて……」

「それで、冒険者なら毒の種類を特定できるかも、と」

「はい。その可能性を考えて依頼を出そうとしたのですが……」

「あー……依頼内容が『毒の治療』や『解毒薬の入手』ならギルドも引き受けるでしょうけど、『病の治療』じゃ引き受けにくいわよねぇ……」

「はい……そう言われて断られました……」


 なるほどな。

 確かに毒の治療ならなんとかなるかもだが、病の治療は難しいよな。

 どう考えても医者の領分だ。


「フィートどうしよう? この依頼、引き受けてみる?」

「うーん……ちなみに、症状はどんな感じなんだ?」

「はい。『めまい』と『悪寒』、『全身のしびれ』、『食欲減衰』です。細かく言えばまだあるのですが、これらが大きな原因だと思います」


 ふむ、『めまい』、『悪寒』、『全身のしびれ』、『食欲減衰』ね。

 よし、メモに記録したぞ。


「それで、その病? 毒? にかかる前はどこにいたんだ?」

「ええと……確か、仕入れでサーディスクからフォートレイに行ってその帰り道だったと思います」

「フォートレイ?」

「サーディスクから百獣の平原を抜けて行った先にある城塞都市よ」

「ちなみに、そこに行ったときはひとりだったのか?」

「いいえ。護衛として冒険者が数名ともに行っていました。ですが、冒険者に同様の症状を訴えているものはいません」


 うーん、困った。

 どこかでモンスターに襲われたという線も薄いな。


「どうでしょう。なにかわかったことはありますでしょうか?」

「……私はさっぱりね。フィートは?」

「俺もわからないということがわかった感じだ。ただ、病の治療だけなら相談に乗れるかもしれない」

「! 本当ですか!?」

「あくまで可能性だよ。ファストグロウに調薬師の知り合いがいるんだ。その人ならなにかわかるかも、と言うだけで」

「それだけでも助かります! 話だけでも聞いてきていただけますか?」

「ああ、わかった。ただ、あまり期待しないでくれよ」

「いまの状況ではなすすべがないのです。少しでも光明が見えたのですから喜ばずにはいられません!」


 大げさだな。

 とにかく、こうなればオババに相談してみるしかないだろう。

 あの人なら何か知ってる可能性があるからな。


「それで、いつ結果がわかりますでしょうか?」

「とりあえず、いまから話は聞きに行ってみるよ。それで何かわかったら戻ってきて伝えることにする」

「それでしたら、こちらをお持ちください」


 そう言って手渡されたのは、小さなカフス。


「これはコールカフといいまして、登録されているカフスの間で遠距離会話ができるマジックアイテムです」


 ……つまり、前にサイから教えてもらったフレンドチャットみたいなことが住人NPCともできるってことか。

 これは便利なアイテムだな。


「こちらをお貸しいたしますので、結果がわかりましたらすぐにご連絡ください」

「わかったよ。すぐに連絡しよう」

「はい。……見てのとおり、私の家は大商会です。薬の材料で必要なものがあればすぐに取りそろえましょう」

「それは頼もしいわね。それじゃ、行きましょうか」

「ああ。少し待っててくれな」

「はい。お待ちしております」


 商会を出たところで俺はコールカフを装備する。

 ……これは装備枠を消費しないアイテムなんだな。


「それにしても、コールカフねぇ。そんなアイテムがあったなんてびっくりだわ」

「サイも知らなかったのか?」

「知らないわよ。……ああでも、別の街の住人がすぐに情報を得ている、なんて場面があったから何らかの情報通信手段はあるって考えられてたわね」

「そうか。とりあえず、ファストグロウに戻ってオババのところに急ごう」

「そうね、そうしましょう」


 俺たちはホームポータルへと急ぎ、ファストグロウに転移で戻ったのだった。

 セレナの様子だとあまり余裕もない可能性があるし、急がないとな。

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