22.オババとレールの思案

本話の主人公はフィートではありません。

オババ視点とレール視点の話になります。

それではどうぞ。


**********


「ただいま……ってお母さん、この薬草の量はなに!?」


 どうやら納品にいっていたクシュリナが帰ってきたようだよ。

 今日はどんな感じだったんだろうかね……。


「ん、ああ。お前が話していたフィートとサイが持ち込んでくれたのさ」

「持ち込んでくれたのさって……買い取りすぎじゃない?」

「なめちゃいけないよ。これでも《特級調薬師》のアタシがこの程度の調合でへばるとでも?」

「それは思ってないけど。でも、市場に卸す分はある程度一定だからね」

「はいはい、わかっているよ。まったく、うるさい娘だねぇ」

「放っておくとできたポーションを全部納品しそうじゃない」


 私だってポーションを卸す量は決まっていることは知っている……じゃない、もっと大事なことだ。


「クシュリナ、今日の様子は?」

「全然ダメだった。神代の冒険者はみんな私たちのポーションに夢中でジットの姿になんて目もくれない」

「はあ、そうかい。今度の冒険者はマシな人間がいると思ったんだがねえ、フィートにしろサイにしろ」


 私たちが市場に行っている目的はふたつ。

 ひとつは普通にポーション類の納品。

 もうひとつはわざとジットを迷子にして、冒険者がどのような対応をするのかを見定めることだ。

 その点、フィートはなにか急いでいたらしいがスキルを使ってまでクシュリナを探してくれたそうじゃないか。

 十分満点を与えられるよ、この子は。

 あと、フィートが連れてきた、サイって子も悪くないね。

 礼儀はわきまえてるし、リジェネポーションを売るのに何回か薬草をとってこいと言ったらバカ正直に薬草を持ってくると言った。

 その愚直な姿勢は本当に気に入ったよ。


「そういや、東のオジジの方はどうなっているんだい?」

「あちらはすでに何人かの冒険者を招待したらしいですよ。冒険者ギルドと組んだみたいですから」

「あいつらしいねぇ。無用なトラブルを起こさなければいいんだが」

「私たちはいまのやり方を続けるんですか?」

「うちに大勢の冒険者が押しかけられても困るからね。連れてくる冒険者は厳選するよ」

「わかりました。……まあ、しばらくはフィートさんたちとWin-Winな関係が続きそうですね」


 Win-Winな関係か。

 確かに彼らには高額買い取りの報酬がいく。

 私らにはさらに高額の販売利益が出る。

 まさにそのとおりだねぇ。

 でも、いつまでもそれだけじゃいけないと思うんだよねぇ。


「なあ、クシュリナ。いずれ私があの子たちに【調合】を教えると言ったらどうする?」


 私のセリフにずいぶん驚いた表情を見せるクシュリナ。

 だが、一瞬のフリーズのあと、すぐに回復して答えを返してきた。


「お母様がそれでよろしいと思うのでしたら止めはいたしません。……ですが、神代の冒険者は上達も早いと聞きますよ?」

「なーに、調薬の腕前で抜かれたとしても人生経験がものをいうさね。まあ、今すぐじゃないけど、【調合】を仕込んでみようか」

「はい、それがよろしいかと。【調合】でしたらしばらくは私たちの納品物とバッティングしませんし」

「そうだね。……にしても、クシュリナ。こういうときだけ『お母様』と呼ぶのはやめてもらえるかい」

「あら、なんのことでしょう?」


 すっとぼけられちまったが……まあ、いいか。

 久しぶりの弟子だ、しっかり仕込んでやらないとね!


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「うーん、それにしても半日で十六万も稼いでくるとは……恐るべしだな」


 サイとフィートが帰ったあとのレールの工房。

 その作業場で俺はは考え事をしていた。


「しかし、このままじゃマズいぞ。いまの俺に作れるのは、さっき渡したアイスシリーズが限界付近。あれ以上の武器を作るとなると、作製ミスが出てきてしまう……」


 そう、俺が渡した武器がフィートの扱える限界の武器だったように、俺の作れる限界の武器だったのだ。

 いまの俺の生産スキルは【初級錬金術】だ。

 初期段階の【錬金術】は突破しているが、二段階目で止まってしまっている

 これではこれ以上の強力な武器を作ることはできやしない。


「……スキル上げだな。がっつり上げないと顧客の要望に応えられない」


 いままでも銃を買っていく客はいた。

 だが、そんな客でも青銅クラスのアサルトを買っていくことで満足し……武器性能の限界を感じて別の武器に乗り換えていっていた。

 そんな日々がサービス開始当初からずっと続いていたため、スキル上げなんて行為はとうの昔に忘れ去っていたのだ。

 だが、今回ばかりは話が違う。

 本気で銃を扱うプレイヤーが目の前にいるのだ。

 俺が要求に応えられないとなると、あっさり別のプレイヤーのところに行ってしまうだろう。

 そんなのはいやだ!

 せっかく見つけた銃メインのプレイヤーなんだ!

 ほかの錬金術士に渡すものか!


「となると本当にガチスキル上げだな、熟練度は……四回目の半分、スキルレベルは上げられるところまであげているか。割と余裕だな」


 熟練度上げはポーションの大量生産で金に糸目をつけずに薬草類を買い占めて作ってしまえばいい。

 幸い軍資金は手元にある。

 スキルレベルをマックスにするのも十分にSPは残っているのだ。

 今日中に一気にランクを上げてしまおう!


 と言うことで、修練項目も無事終わり、スキルレベルのマックスも終わった。

 無事に生産スキルランクが【初級錬金術】から【中級錬金術】に変わったわけだが……。

 できることがこんなに増えるなんてな。

 ……これなら、もう少し早く上位ランクの生産職になっておくべきだった。

 次の目標は【上級錬金術】だな。

 熟練度上げが非常に厳しいけど!

 一回目から一万以上ってつらすぎるんですけど!

 ……まあ、システムに文句を言っても仕方がないので、明日から市場をチェックして素材をかき集め、その都度作っていく感じにするしかないな。

 幸い、俺には拠点となるマイホームもある。

 設備には困らない分、多少は楽できるだろう。


 なお、この日夜更かしした俺は、翌朝尋ねてきてくれていたフィートたちに会うことができなかった。

 ……夜更かしはほどほどにだな。

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