21.『オババ』のポーション

「ああ、私かい? 私はクシュリナの母親さ。世間では『西のオババ』で通ってるね。気軽にオババと呼んどくれ」


 店の中で待っていた老婆……オババはそんな自己紹介をしてきた。


「ああ、ええと、俺は……」

「聞かなくても知っとるよ。フィートにサイだろう? クシュリナがよろしくと言っていたよ」

「そうですか……。薬草を集めてきましたが、どうしましょう」

「どれ、見せておくれ。私が直接鑑定しよう」


 オババがそう言うので、俺とサイは店のカウンターに薬草を並べる。

 一応、薬草と毒草は分けて並べたが、オババは特に気にせず品質をチェックしているようだ。


「……ふむ、品質も問題ないね。一級品とまではいかないが、三級品は混じってない。これなら十分使えるよ」

「ありがとうございます。それじゃ、買い取ってもらえるんですね?」

「ああ、買い取ろう。しかし、精霊の森も物騒になったものさね。昔は私でも採取にいけたものさ」

「そうなんですか? あんなに凶暴なカラスがいるのに」

「昔はあそこまで凶暴じゃなかったんだよ。……まあ、瘴気が渦巻いていたのは変わりなかったし、時間の問題だったのかもねえ」


 しみじみ語るオババ。

 昔はそんなに凶暴じゃなかった、というのは大事なことなのかな?


「精霊の森が瘴気で覆われ始めたのはいつ頃からなんですか?」

「そうさね……私がいまのクシュリナと同じくらいの頃だったかね? あの頃は大騒ぎになったものさ」

「でしょうね。でも、原因になっているモンスターを退治しようって話にはならなかったの?」

「ゾンビグリズリーかい? 何回か討伐されたとは聞くけど、その度に復活されたんじゃねぇ……」


 なるほど、確かに。

 同じ人間は二回倒せなくても、別の人間は挑めるんだからたまったものじゃないよな。


「それにこう言っちゃなんだけどね。日光草や月光草は瘴気がある場所によく生えているんだよ。なんでも瘴気を浄化することで養分に変えているんだとか」

「へぇ。それじゃ、いまの生態系が崩れたら困るんですね?」

「まあ、ねぇ。大量生産というわけじゃないなら自家栽培している分もあるから問題ないけど、市場に卸すとなると定期的に仕入れなくちゃならないねぇ」


 ふむ、つまり俺たちのような冒険者が持ち込みをやめると、そのうち市場に供給されるポーションもストップするのか。

 それって大丈夫なんだろうか?


「ま、東のオジジも今頃がんばっているだろうし、しばらくは問題ないさ。金策が必要だって言うなら薬草を持ち込んでもらえると嬉しいがね」

「わかりました。とりあえず毎日かどうかはわかりませんが、ちょくちょく持ってくるようにはしますね」

「そうしておくれ。……そういえば、クシュリナがあんたはポーションを買っていかないと聞いたがなんでだい?」


 ああ、それか。

 さて、どう説明したものか。


「フィートはまだ駆け出しの冒険者だからこのお店で取り扱っているような高品質のポーションは必要ないんですよ」

「……サイ」

「事実じゃない」

「そうだけどさ」

「なるほどねぇ。まだレベルが低いってことか。なら仕方がないねぇ」


 どうやらオババにも納得してもらえたようだ。

 俺もできればここのポーションはほしいんだけどさ。


「そういうことなら、このポーションはどうだい?」

「えーっと、リジェネポーションにメディテポーション?」

「どちらもしばらくの間HPやMPが継続回復する薬さ。作るための薬草が希少で市場には持っていってないんだけどね」

「買っていってもいいんですか?」

「あんたが持ってきた薬草で作ってんだ。あんたには買う権利があるよ。もちろん、値引きはしないけどね」


 このポーションの値段は安くない。

 でも、リジェネポーションは即死しなければすぐに全回復近い状態になる。

 メディテポーションも同様にMPがかなり回復するようだ。


「それじゃ、お守り代わりにいくつか買わせてもらいますね」

「毎度。でも、危なくなったらケチらずに使うんだよ? あんたら神代の冒険者は不死身なのは知ってるが、それでも死なないに越したことはないからね」

「わかりました」

「ねえねえ、オババ。私は買っちゃダメ?」

「あんたかい? ……そうさね、あと何回か薬草を納品してくれれば許可を出すよ」

「よっしゃ。それじゃあ、私も時間を見つけて持ってくるね!」

「そうしてもらえると助かるよ。買い物はこれで済んだかい?」

「ええ、ありがとうございます」

「ありがとう、オババ」

「いいってことさ。またくるんだよ」


 機嫌のいいオババに見送られて俺たちは薬屋から出た。


「……さて、検証検証っと」

「検証? なにをするんだ?」

「フィートと同じパーティじゃなくなってもこのお店を確認できるかどうかだよ。と言うわけでパーティを解散するね」

「わかった」


 言うやいなやパーティが解散された。

 俺にとってはその場の風景が変わることはないのだが……。


「……うん、フィートがいなくても薬屋を確認できた。どうやら、このお店の住人と仲良くなるのが条件かな?」

「そんなこともわかるのか」

「まあ、慣れだよ慣れ。同じようなことはベータの頃からあったし」


 あっけらかんと笑いながらサイは歩いて行く。

 俺もそのあとをついていきながら、話を聞いてみた。


「これって新しいタイプのイベントじゃないと」

「うん、そう。こんなところにお店があったとは聞いたことがないけど、似たような場所はいくつかあるんだ。住人と仲良くなったり誰かに連れてきてもらわないと入れない場所ってね」

「ふうん。珍しいってわけじゃないのか」

「まあね。……それで、このお店のこと公開する?」

「公開って?」

「わかりやすく言うと攻略情報としてみんなに教えるかどうかってこと」


 あのお店の情報を教えるのか……。

 正直、あまり教えたくはないかな。

 独占したいとかじゃなく、あまり多くの冒険者に来てほしくない感じだったし。


「……それってやらなきゃマズいか?」

「うーん、この場合はどうなんだろうね? お店の住人はあまり広めてほしくないみたいだったし」

「じゃあ内緒でいいんじゃないかな」

「……ま、それもそっか。多分、あの周辺に近づいた時点で私たちの姿は見えなくなっているはずだし問題ないよね。そうと決まれば、私もリジェネポーションとかを売ってもらえるようになろう!」

「そんなにほしいのか、これ?」

「ほしいに決まってるじゃない! 私のHPだとそこまで一回の回復量は多くないけど、全体の回復量はバカにならないよ! メディテポーションなんて、使っておけばアーツを使い放題だし!」

「わかったわかった。まあ、がんばってくれ」

「うん、がんばる!」


 サイの気合いが入ったところでレールさんのお店を再度訪ねてみるがやはり不在。

 仕方がないので、このまま午後にサーディスクへと向かうこととなった。


 なお、サイはお昼を簡単に済ませてひとりで精霊の森まで行って薬草集めをしてきたらしい。

 気合いの入りようが違ったな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る