第三章 ゲーム三日目 サブクエストと解呪薬

20.ゲーム開始三日目

「うーむ、課金アイテムを使っただけでインベントリ容量三倍か……」


 朝一で課金用の電子マネーを買いに行き、早速インベントリ拡張用アイテムを購入。

 限界まで使用してみたのだが、その結果がインベントリ三倍だ。

 これだけの差があれば、昨日の状況も納得ができる。


「これだけあればかなりのものを持ち運べるな」


 早速だが、インベントリにあった大量の石ころをすべて弾丸に変換する。

 なぜか弾丸に変換した方がインベントリを圧迫する謎仕様なのだから仕方がない。

 そして、余っている弾はバレットケースにしまって……と。

 これで大丈夫だな。


「さて、あとはサイを待つだけか」


 と言っても、待ち合わせ時間まではあと五分もない。

 俺の勘が間違っていなければそろそろ……。


「お、フィート。今日は早かったね」

「おはよう、サイ。インベントリ拡張もあったからな」

「拡張もしたんだ。いい感じにハマってるねー」

「確かにな。ハマってなかったら、お前の誘いだからってこんなにログインしていないさ」

「だよねー。そういえば、康君ってなにをしてるんだろう?」


 康か、俺も直接会ったのはこの間のゲーセン以来だ。

 

「昨日来てたメッセージを読む限り、ゲーセン巡りらしいな。約一年ぶりだから珍しいんだと」

「そっか。康君も始めればいいのに」

「それも考え中だとさ。……それで、すぐにサーディスクに移動するのか?」

「え? どこか寄っていきたいところがあるの?」

「レールさんのところに寄っていこうかなと思って。昨日とってきた素材、使わないかなと」

「うーん、レールはまだ寝てると思うよ」


 レールさんは夜型の生活を送っているらしい。

 ただ、昼間もログインできるってことは学生なんだろうな。

 念のため工房を訪ねてみたが、留守だった。


「やっぱり不在か。ちょっとNPCのところに顔を出していきたいんだけどいいか?」

「いいよー。じゃあ、配信はしないほうがいいよね?」

「そういうものか?」

「NPCってあまり配信好きじゃないらしいのよ。まあ、私生活を勝手に放送されたらいやじゃない?」

「それもそうだな。じゃあ、行くか」


 俺はサイを連れて街の西側へと足を向ける。

 昨日も通った道をたどり、クシュリナさんのお店までたどり着いた。


「さあ、着いたぞ。……って、どうしたんだ?」

「え? フィート、ここにお店なんてあるの?」

「いや、目の前にあるだろう?」

「私には普通の住宅にしか見えないよ?」


 はて、どうなっているんだろうか。

 なにか理由があるのかな?


「……そうだ、フィート、私とパーティを組んでみよう」

「パーティを? ……そういえば、パーティを組んだことはなかったな」

「パーティを組んじゃうとレベル差のせいでフィートに経験値が入らなくなっちゃうからね。……はい、申請を送ったよ」

「ほい、承認っと」

「うん、パーティ結成完了……って、うわっ!? 本当にお店があった!?」

「だから言っただろうに……」

「……これってどういうことなんだろう? 特定イベントをこなさないと出現しないお店とか?」

「考察はあとでもいいんじゃないか? それよりも中に入るぞ?」

「うん、わかった。……いや、驚いたな……」


 どうにも落ち着かない様子のサイを連れて店内へと足を踏み入れる。

 そこではクシュリナさんが店番をしていた。


「あ、いらっしゃいませ。今日はお連れ様がいるんですね」

「あ、はい。サイって言います。よろしく……えーと?」

「クシュリナです。いまはこのお店を任されています。……まあ母の代理ですけどね」

「母の? クシュリナさんのお母さんですか?」

「ええ。うちは代々調薬師でして」

「なるほどです。店の中を見せてもらっても大丈夫ですか?」

「かまいませんよ。どうぞご覧になってください」


 クシュリナさんに促されて店の中を見て回る。

 ……やっぱり、俺には回復量が多すぎるポーションがほとんどなんだよな。


「……フィート、なにこのお店」

「うん? 昨日見つけた薬屋だが」

「今朝、掲示板で話題になってた高性能ポーションがこんなに売ってるじゃない! 住人の市場からは早々と売り切れたって言うのに、ここはこんなに在庫が潤沢なのよ!? どういうこと!?」


 どういうことと聞かれてもな……。

 そもそも、高性能ポーションってなんの話だ?


「ごめん、話が見えてこない。最初から詳しく」

「そうね、そうよね。フィートは掲示板を見てないわよね」


 サイに状況を説明してもらったが、今日の朝、住人――NPCを表す言葉――の市場に高性能なポーションが並んでいたそうだ。

 入荷数も数少なく販売数制限がかかっている上、トレード禁止アイテムだったが飛ぶように売れて十分もしないうちに売り切れたらしい。

 その高品質ポーションがいま目の前に並んでいるポーションだそうな。


「……なにかの間違いじゃないのか?」

「間違いなんかじゃないわよ。私もそのポーションのステータスは確認したもの。アイテム名は高品質ポーションでHP回復量800、トレード禁止アイテム。ここで売っているものと相違ないわ」

「ふーん、そうなのか……」

「そうなのかってねぇ……」

「あの、それでしたら心当たりがあります」


 俺たちの話を聞いていたらしいクシュリナさんが恐る恐る声をかけてきた。


「そのポーションは間違いなく私たちが卸したポーションだと思います。フィートさんが大量の薬草を仕入れてきてくれたおかげで供給のめどがたち、市場に卸し始めましたので。……ただ、市場の責任者からはもっと卸してくれと泣きつかれましたが」


 ……どうやら、始まりは俺のようだな。

 どうにもサイの視線が痛い。


「それで、ポーションの供給量は増やすんですか?」

「はい、その予定です。うちとしてもお得意様が増えるのは助かりますし」

「それならいいんですが。迷惑をかけたのでないなら」

「フィートさんは迷惑なんてかけてませんよ。むしろ、いろいろと手助けしてくださり助かっています」

「ならよかった。ちなみに、お手伝いできることはありますか?」

「……実は、明日でも大丈夫と言っていた薬草なんですが、微妙な量になってしまって。できれば今日も採取してきていただけると助かります」

「そう言うことでしたら。サイ、このあと精霊の森に行ってくるけど大丈夫だよな?」

「オッケー。午前中は精霊の森で薬草集めね」

「おふたりとも、ありがとうございます。よろしくお願いいたしますね」


 予想よりも早く薬草がなくなりそうだというなら仕方がない。

 金策にもいいし、ここは喜んで請け負おう。

 サイは店を出る前にいくつかのポーションを買っていたようだ。

 あいつのレベルがどれくらいかはわからないが、高品質ポーションを使うくらいのHPがあると言うことなんだろう。


「……いや、驚いたわ。こんなところにあんなお店があったなんて」

「そんなに驚くことなのか?」

「驚くことよ。なにより、このポーションが潤沢においてあるって言うのが大きいわね。クシュリナさんだっけ、彼女からはあまり冒険者には広めないでほしいってお願いされたけど」

「……俺にはそんなこと言われてないけどな」

「なにかフラグがあるのかもね。まあ、私から情報を広めるつもりはないわ。早いところ薬草を集めて戻りましょう」


 そうして、ふたりで精霊の森に向かい薬草をひたすら集める。

 パーティを組んでいたためカラスを倒しても経験値が手に入らなかったが……まあ、誤差だろう。

 三時間ほど薬草を集め、薬屋に戻るとそこには初めて見る老婆が待っていた。


「お、来たね。あんたがフィートか。薬草、助かってるよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る