第二章 ゲーム二日目 薬屋と精霊の森
12.錬金術工房と薬屋
『お金はちゃんと返してもらったよ! できれば豪華なディナーとかで返してもらってもよかったんだけど!』
午前中に借りたお金を返しに行った際、彩花が言い放ったセリフがこれだ。
『今日もレイメントにはログインするんだよね? 私は夜までログインできないから夜にまた会おう。日中は武者修行をしてくるといいよ』
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と言うわけで、昼間はサイのいうとおりひとりでレベル上げということになった。
早めの昼食をとり、日中いっぱいを使ってゲームを楽しむつもりである。
昨日あの後、アッシュやグロウから序盤のおすすめスポットや注意点を聞いたり、ネットで情報を集めたりしたので完全に迷子というわけではない。
とはいえ、やればいいことがわかっているわけでもなく……。
「とりあえず、武器の強化だよな」
まずは、昨日のうちに教えてもらっていた錬金術工房へとやってきていた。
昨日訪れた時には留守だったので出直してきたわけだ。
「軍資金は七千リルちょっと。さて、どこまでの武器が買えるやら」
銃カテゴリーの装備は錬金術で作られるアイテムらしい。
なので、買い換えるときは一般的な武具屋ではなく錬金術工房となるわけだ。
「さて、ごめんくださーい」
「ああ、開いてるよ」
よかった、今日は店主がいるようだ。
「お邪魔します。ここがレールの錬金術工房だって聞いてきましたが」
「ああ、レールは俺だ。誰の紹介だ?」
ああ、よかった。
目の前のドワーフがレールさんだった。
「サイ……と言えばわかりますかね?」
「サイ……あの嬢ちゃんか。わかった。話し方は崩してかまわないぞ。俺もこんなだしな」
「では失礼して。ここなら銃も手に入るって聞いてきたけどあってるかな?」
「ああ、俺は銃も作ってるが……お前、ひょっとして銃使いか?」
「ああ、そうだ」
俺が銃使いだと名乗ると、レールは嬉しそうに飛び上がった。
「よっしゃ! 久しぶりの顧客だ! おい、今更逃がすつもりはないからな!?」
「あ、ああ、わかった。でも、こっちは初心者であまりお金を持ってないから、ほどほどで頼むよ」
「了解だ。それで、銃種はなにを使ってるんだ?」
「銃種?」
「おいおい、そこからかよ……今日で何日目だ?」
「二日目だけど?」
「本当に初心者だな。いいか、銃種っていうのは……」
レールの説明によると、銃は三種類の武器種があるらしい。
初心者に最初配られる銃は『アサルト』で、比較的癖のないシンプルな銃。
その分、攻撃力は控えめ……というか銃の中では一番低いとのこと。
ほかの武器種に比べたら高い方らしいけど。
次に弾速が非常に速い『スナイパー』。
どれくらい速いかというと発射と同時に着弾するほどだ。
その分、連射速度が犠牲になっているが、一発の威力はアサルトより高い。
最後にもっとも一撃の威力が高い『ブラスター』。
これはかなり特殊で、一発撃つのに弾丸を五つ消費する。
その代わり威力は極めて高く、貫通性のある弾丸を放てるのだ。
ただ、連射性能はスナイパーよりさらに悪く、射程距離も二十メートルどころか十メートル届くかどうからしい。
以上が銃種の説明だった。
それで、今回の購入する銃だがシンプルにアサルトを買い換えすることにした。
昨日一日とはいえ使い慣れていることもあるし、ほかの武器種まで手を伸ばす余裕がなかったからだ。
「了解だ。それで、予算はどれくらいなんだ?」
「持ってるお金は七千リルちょっと。これで買うとしたらどの程度の装備が買える?」
「そうさなぁ……ちょっと待っててくれや」
一度奥に引っ込んだレールさんが再び出てきたときには三つの銃を持ってきていた。
「まずはこいつ。素材はシンプルに青銅製だ。性能もシンプルに攻撃力+10だな」
「いまの武器が+8だから微妙……?」
「予算が七千リルじゃ仕方がないさ。ちなみに、こいつで五千五百リルだ」
うん、この武器はないな。
「次、こっちはモンスターの骨製で性能は攻撃力+12、お値段六千五百リル」
「まあ妥当かな」
「妥当だな。最後のがなければこいつをおすすめするぞ」
つまり最後のがおすすめの品というわけだ。
俺は期待した瞳をレールさんに向ける。
「さて、最後だな。こいつは沈黙の森って場所にいる虫系モンスター素材でできた銃だ。性能は物理攻撃力+14に炎属性+5だ」
「炎属性+5って言うのは?」
「物理攻撃に炎属性の攻撃が乗るって思ってくれ。これのメイン素材は火吹き虫ってあだ名の虫なんだよ」
「へぇ……で、お値段は?」
「買ってくれるなら六千リルでいい」
「安いな。なにか理由でも?」
「……虫系素材の装備って売れにくいんだよ。特に女性には気持ち悪がられることが多くってなぁ…」
なるほど……気持ちはわからないでもないな。
この銃はそうでもないけど、場合によっては結構グロテスクになるかも。
「で、こいつを買ってくれるか?」
「ああ、安くしてくれるんなら買わせてもらおう」
「毎度だ。渡り鳥のライフルは買い取ろうか? あってもインベントリを圧迫するだろう?」
「……そうだな、お願いできるか?」
「任せろ。差額で五千五百リルをもらおう」
「わかった。……ところで下取りした装備ってどうするんだ?」
「分解して素材に戻して再利用するんだよ。……そうだ、銃使いなら弾丸作成のアーツも持ってるよな? レベルは上げてるか?」
「ああ、レベル5まで上げたぞ」
「なら話は早い。弾丸をしまって容量を減らせるバレットケースってのがあるんだ。よかったらそれも買っていってくれ」
へえ、いまはあまり必要がないかもだけど、将来的にはあると便利かも。
「ちなみに値段はいくらで、消耗品なのか?」
「バレットケースは再利用可能だ。一個二百リルだが、おまけにうちのポーションもつけるぞ」
ポーションももらえるのか、それなら買っていこう。
「それじゃ、バレットケース五つちょうだい」
「毎度。これがバレットケースだ。ひとつのケースに五百発の弾丸が格納できるぞ。それで容量は二分の一まで圧縮できる。ただし、弾丸を使いたくなったら、バレットケースから出すのを忘れないようにな」
「了解、ちなみに、百発だけしまったり、出したりとかってできないのか?」
「そこはゲームだからな。残念だけどできないよ。このゲームって、現実だとできそうなことが物理的にできないって場合が多いんだよ」
「ふうん、わかった。気をつけるよ」
「おう。またお金が貯まったら新しい銃を買いに来てくれ。もっと性能がいい銃があるからな!」
ニコニコ笑顔のレールさんに別れを告げ、俺は街の外へと向かう。
目指すは街の西側なんだが……ついでだし、クシュリナさんの店とやらにも寄っていってみようか。
昨日渡されていたメモを頼りに街の中を進むと、そこには立派な薬屋が建っていた。
場所は間違っていないし、ここがクシュリナさんのところだろう。
さて、入ってみるとするか。
「いらっしゃいませ……あ、昨日の」
「どうも。早速ですが寄らせてもらったよ」
「ようこそおいでくださいました。珍しいものはありませんが、どうぞご覧になっていってください」
カウンターの中に戻っていくクシュリナさんを見送り、俺は店内を物色する。
するとそこには、普通のポーションよりも効果の高いポーションが並べられていた。
価格は……高いのか安いのかわからないな。
ただ、どちらにしても俺はいまお金をあまり持ってないし、ここまで高品質な回復薬を必要としていないので今回はパスしよう。
「……お眼鏡にかなうものはありませんでしたでしょうか?」
「ああ、いや。逆に、いまの俺では十分すぎるものばかりだったので」
「あら、そうでしたか。……そういえば、冒険者さんはこれからどちらに行かれるのでしょう?」
「ええと、街の西側に。可能だったら西の森まで」
「そうですか。でしたら、西の森で薬草を採取してきていただけないでしょうか。最近、モンスターが活発化してきてなかなか手に入らず……」
ふむ、これもサブクエストってやつかな?
まあ、受けてみるのも悪くないだろう。
「いいですよ。ただ、実力的に西の森までいけない可能性もありますけど」
「そのときはそのときです。急ぎませんので、お時間のあるときに採取してきてくださいませ。……ああ、採取してきてほしい薬草ですが、こちらの薬草になります。葉の部分だけで大丈夫ですのでよろしくお願いします」
渡されたメモには薬草の絵と注意書きが書かれていた。
すぐに書けるものではないので、何回も頼んでいてその度に渡しているものなのだろう。
「わかりました。それではこれで」
「ええ、それでは」
さて、急な依頼を受けることになったけど、改めて街の西側に出発だ。
武器も新調したし西の森で戦える程度には強くなっているといいんだけど。
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