13.精霊の森に棲まうもの

 街を出てすぐ、俺は課金アイテムメニューを開く。

 保留にしていたライドアイテム……つまりは乗り物を手に入れなくては。

 昨日は街のすぐそばで戦っていたけど、西の森まで行こうとすると歩いて一時間強はかかるらしい。

 でも、ライドアイテムを使えば大体十分でつくらしいのだ。

 乗り物、万歳。


「……で、やっぱり種類が多すぎるんだよなぁ」


 大雑把な分類でも普通のバイクや車、馬や狼などの獣、変わったところではなぜか鶏なんてものもある。

 さて、なにを選んだものか……。


「とりあえず、機械系は今回なしだな。せっかくのファンタジーだし。そうなると生物系だけど……」


 生物も幅広い。

 やっぱりスタンダードに馬か?

 でも、それだとなぁ……。


「うん? 鶏以外の鳥も売ってるのか」


 基準はよくわからないが鶏じゃない鳥も販売していた。

 ダチョウはよくわかる。

 鳩って走っても速くないだろう?


「……あ、これはいいかもしれない」


 俺が目をつけたのはロードランナー。

 カッコウの仲間で飛ぶことは得意ではないが、それなりに速く走れる鳥だ。

 主に砂漠地帯で暮らしているらしい。

 なんでこんなことを知っているかというと、最近みた動物ドキュメンタリーで見たためだ。


「これにするか。性能はみんな同じらしいし」


 値段は二千五百円と高めな方だったが、これを購入。

 早速使用して呼び出してみると……。


「人間が乗れるサイズのロードランナーっていうのはちょっと恐いかな」


 本来の体長は五十センチメートルほどと聞くしかなりサイズが大きくなっている。

 慣れればどうってこともないだろうと思い直し、背中についていた鞍にまたがりなぜかついている手綱を握る。

 あとは俺が思った通りに走ってくれるらしい。


「さて、それじゃ道すがら敵を倒しながら進んで行くとするか」


 西の森――精霊の森と言うらしい――に出るモンスターはレベル13以上。

 いまの俺のレベルが11だから戦えるならちょうどいい。

 ただ、森に生息するモンスターはかなり戦いにくいと聞くが……まあなんとかなるだろう。


 当初の予定どおり、ところどころに生息している牛型モンスターも倒しながら進んで行く。

 こいつを倒したときのドロップした肉が結構高値で売れるらしい。

 また、経験値もおいしいので一石二鳥なのだ、倒せれば。

 俺にとってはアーツで近寄らせずに倒せる相手だから何の苦労もしないのだけどな。


「うーん、レールの言っていたとおり、現実ならできそうなことが無理矢理だとしてもできないなぁ」


 ゲーム的にできないことのひとつ、ライド中の攻撃を試してみた。

 だが、そもそも武器を取り出した時点でライド状態が解除されてしまったのだ。

 ゲームとしての強制力を持たせているのはなんのためなのか気になる。

 ともかく、いまは精霊の森まで進むとしよう。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「ここが精霊の森か。……ずいぶんと薄暗い森だな」


 モンスターを倒しながら進んで三十分ほど。

 ようやくたどり着いた精霊の森は、想像していたよりも薄暗い不気味な森だった。

 木々の間隔はそれなりに広いのに、日光があまり差し込んでいないのはどういうことなんだろう?


「とりあえず、暗視スキルがあるから大丈夫なんだけどね」


 立ち止まっていても仕方がない。

 ライドで進めるのは入り口までのようだし、ここからは歩いて進もう。


 森の中に入ると、外よりも一段階薄暗さが増した気がする。

 暗視スキルがあるからはっきりと遠くまで見渡せるが、スキルがなかったらかなり困ったことになっていただろう。


「ここまで考えて暗視スキルを買わせたのかな、あいつは……」


 森の入り口から数分歩いたところで、カラスの鳴き声が聞こえてきた。

 さあ、モンスターのお出ましだぞ。


「ここのモンスターは全部鳥系なんだよな。それもカラスばかりと聞いた」


 精霊の森が嫌われる理由。

 それは、飛行系モンスターが木々の間から攻撃してくることだ。

 遠距離攻撃はないものの、急降下攻撃など隙の少ない攻撃が多いため近接武器では反撃しにくいらしい。

 そのため、精霊の森は不人気な狩り場として有名だそうな。


「まあ、俺にとっては関係ないけどね!」


 空中で様子をうかがっているカラスに向けて、一発インパクトショットを打ち込む。

 狙いどおりに命中した弾丸によって地面にたたき落とされたカラスに対し、とどめの攻撃を加えて戦闘終了だ。

 うん、あっけないな。


「……一匹で六百リルか。金銭的にもおいしいな。次を探すか」


 精霊の森は狩り場として不人気だが、安定して狩れるなら序盤でここほどおいしい狩り場はないらしい。

 ここに棲み着いているカラスは金銭を貯め込む習性がある、と言う設定であるとか。

 そのため、倒したときに序盤としてはかなり多くのリルを落とす。

 先ほどまで倒していた牛の肉が一個二百リルなので、その三倍と考えればかなりなものだろう。

 経験値も結構もらえたし、しばらくはカラス狩りで大丈夫だな。

 さあ、先に進んでみよう。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 森に入ってから四時間ほど経過。

 倒したカラスは……何羽だろうな?

 所持金がかなりの額になってるから相当数を倒しているはずだ。

 レベルも16まで上がっているし。

 弾丸補充についても足下に落ちている石ころを使えばすぐにできるので困らない。

 おかげで、非常にウハウハである。


「うーん、そろそろ一休みしたいな。どこか休憩できるような場所はないかな」


 と言うのも、辺り一面の森は立ち止まっていてもカラスが襲ってくる。

 なので、のんびり休憩とはいかないのだ。

 幸い、空腹感はあまり感じていないので満腹度はまだ大丈夫だろうが……そろそろ一度街に戻ることも考えるべきかな?


「食料アイテムも買っておけばよかった……これは反省点だな。……お、あっちに広場みたいな場所があるぞ?」


 少し先だが開けた広場が見える。

 あそこなら少し休憩できるかな?


「とりあえず行ってみよう。……あ、カラス」


 広場にたどり着くまでに三回ほどカラスの襲撃を受けたが、無事広場にたどりつけた。

 さて、少し休憩……。


〈ボスエリアに侵入しました。これよりボス戦を開始します〉

〈このボス戦は一度勝利すると発生しなくなります〉


「グルルル……」


 とはいかないようだ。

 広場の周囲が赤い霧のようなもので囲まれ、そこから土気色の熊がのしのしとやってきた。

 名前はゾンビグリズリー、レベル20、ボスモンスター。

 ……ここ、ボスモンスターの領域だったのか。


 さすがに死んだかも。

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