10.サイの仲間たち
「あ、ようやくきた。なにしてたの、フィート」
「ああ、市場で迷子の相手をしてた」
実は迷子の相手をしている間にサイはログインしていた。
それで呼び出しも受けていたのだが……取り込み中ということで後回しにしていたのだ。
「うーん、まあそういうことなら仕方がないか。それにしても、ゲーム開始初日からサブクエに引っかかるとはね」
「サブクエ?」
詳しく聞いてみると、このゲームにおける『サブクエスト』の定義は『いつ始まっていつ終わったかが不明瞭なクエスト』のことらしい。
簡単に言うと、クエスト受注の選択画面がでず、クリアしてもリザルト画面がでないものがそうなんだとか。
今回の場合、迷子の相手をするのがクエスト開始、母親を見つけるのがクエスト終了だったとのこと。
サブクエの中でも比較的わかりやすいものだったようだ。
「それで、今回呼び出された理由はなんだったんだ?」
「んー、私の昔の仲間に会わせようかなと思って。向こうも今日は時間の都合がつくっていうし」
「へえ。いまは一緒じゃないのか?」
「うん。私のプレイスタイルが変わっちゃったからね。オープン当初は一緒だったけど、最近は別行動が多いかな」
なるほど、いまはひとりで行動していることが多いのかな?
それともほかの仲間を見つけてプレイしているんだろうか。
そこのところを詳しく聞いてみたが、答えはこうだった。
「基本的にはソロだよ。さっきも言ったけど私のプレイスタイルって他人と合わないらしくって。たまに素材採取でパーティを組んだりはするけど、それくらいかな。あ、フレンドは別にいるからね?」
「ふーん」
とりあえず、楽しんでいるようでなによりだ。
そのあとも、サイのプレイスタイルについていろいろと聞いてみる。
すると、ふたりの男性プレイヤーがやってきた。
「お、サイ。久しぶりだな」
「お久しぶりです、サイさん。そちらが再三口にしていた彼氏さんですね?」
「久しぶり、ふたりとも! こっちが私の彼氏でフィートだよ!」
どうやらこのふたりが今日のゲストらしい。
っと、俺も挨拶をしないと。
「初めまして。紹介されたとおりなんですが、サイの彼氏でフィートです。よろしく」
「ああ、よろしくな。俺はアッシュ、竜人だ」
「私はグロウと言います。種族は見た目どおりオーガですね」
「グロウの名前、面白いだろ? 始まりの街の名前と一緒なんだぜ?」
「ベータテストのときは『始まりの街』でしたからね……。正式サービスが始まって名前を引き継いだあと、ゲームを始めて驚きましたよ」
「だよなぁ。俺も驚いたよ。……ああ、そうそう。俺たちに敬語はいらないぜ? 見たところサイと同じくらいの年齢だろ? 俺たちも敬語抜きで話させてもらうから、気楽に行こうぜ」
「そうですね。……ああ、私の話し方は社会人生活で染みついたものですのでお気になさらずに」
「グロウはこう見えても奥さんのいる社会人なんだぜ」
「ええ、そうですね。ちなみに、妻とは別行動が多いですが一緒にゲームをやっていますよ」
情報量が多いが、悪い人間ではなさそうだな。
サイはその辺敏感だと思うし、信じてもよさそうだ。
「じゃあ、敬語抜きで話させてもらうよ。俺の種族は……言わなくてもわかるよな」
「それだけ立派な翼があればなぁ」
「ちなみに、もう飛行の種族特性は入手できましたか?」
飛行か……それだけ、まだ入手できてないんだよな。
「いや、まだだけど」
「なるほど。では、滑空は試してみましたか?」
「ああ、さっき待っている間に試したよ」
「ちゃんと滑空できましたか?」
「ああ、できたけど……それが?」
「それはよかった。一部のプレイヤーは滑空がうまく使えないのですよね。そして、飛行の種族特性ですが、滑空を長い時間使っていればアンロックされます」
「それはいいことを聞いたな。ありがとう、グロウさん」
「いえいえ、鳥人掲示板を調べればすぐわかることですしお礼を言われるほどでもありません。それから、私のことはグロウで結構ですよ」
「あ、俺のこともアッシュでたのむわ」
「じゃあ、俺もフィートで」
少し話しただけで大分打ち解けることができたと思う。
やっぱりゲーマー同士、話が弾むな。
「そういえば、フィートの武器はなんなんだ? 俺は両手剣なんだが」
「私は斧と盾ですね」
「俺は銃を使っているよ」
銃という言葉を聞いた途端、渋い顔をするふたり。
やっぱり、銃ってそういう扱いなんだな。
「銃か……大変な武器を選んだな」
「私は悪い武器と思いませんが……評価はよくありませんね」
「……そうだ。銃だったら弾丸が必要だろ? 弾丸用に石が必要だろうから分けてやるよ」
「……そういえば、弾丸の残りが少ないんだった」
「銃や弓で残弾管理は基本中の基本ですから忘れない方がよろしいですよ」
弓はどうなってるのかわからないが、銃の弾丸はさまざまなアイテムをアーツで変換して作る。
例えば、木の枝や木片など木関係の素材からは『木の弾』を、石や石材からは『石の弾』を作ることが可能だ。
弾の種類によって攻撃力も変わり、銃を手に入れたときに一緒にもらった『弱弾』の攻撃力は1だった。
これが『木の弾』になると0になるし、『石の弾』になると2になる。
ほかにも弾丸に使えるアイテムはいくつかあるが……入手難易度を考えれば、木か石がメインになるかな。
「ほれ、石ころ二百個だ。これだけあれば弾丸をしばらく作らなくてもいいだろ?」
「……あの、さすがに石ころ二百個はインベントリに入らないんだけど」
「あ? インベントリ拡張オプションは買ってないのか?」
「なにそれ?」
詳しく話を聞くと、インベントリサイズを拡張するオプションアイテムが課金ショップで売っているそうな。
合計五段階拡張できて、一回につき千円必要らしい。
なお、このゲームのインベントリサイズは重量と容積のふたつの要素から成り立っており、どちらがあふれてもダメである。
今回の場合、重量がオーバーしてしまうのだ。
普通にプレイしてインベントリサイズを拡張したい場合は、クエストをクリアすると何段階か拡張されるとのこと。
まあ、どちらにしても、いまは石ころ二百個を受け取れないのは変わらないわけで。
「じゃあ、どれくらいなら受け取れそうだ?」
「……五十個程度なら大丈夫かな? 昼間の狩りで手に入れた素材をまだ持ってるから」
「使わない素材は早めに売った方がいいぞ。……ほれ、石ころ五十個だ」
「ありがとう。……よし、石の弾に変換完了だ」
「弾作りってピカッとやって終わりなのな」
「普通の生産とは違うのですね」
「生産スキルじゃねーしなぁ」
「生産スキルって違うの?」
このゲームの生産スキルがどうなってるのかは聞いてみたい。
生産に手を伸ばすかどうかはわからないが、知識はあっても問題ないだろう。
「そうですね……このゲームにおける生産方法は基本的に一度目は手作業です。ただ、一回作ってしまえば、同じものを再生産するときに限り一瞬で再現できますが」
「ポーション作りをする錬金術士とか、一度手作業で作ったらあとは再現でやってるらしいな。まあ、作んなきゃいけない量が半端ないししゃーねーと思うけど」
「料理人もそうですね。一度作ったアイテムは再現で作れますから」
「屋台の料理とかも?」
「ええ、そうですよ。焼いたりするのは演出で、実は再現で作ってる場合がほとんどです。……そうじゃないと、作るのに数十分かかるようなアイテムもありますからねぇ」
なんか納得した。
串焼き程度なら数分で焼けるだろうけど、ご飯を炊くとかになると数十分作業だからどうしようもなくなるな。
「さて、消耗品の補充も終わったところでいっちょ始めるか」
「? なにをだ?」
「決まってるだろ、お前の腕前を見せてもらうんだよ」
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