8.お披露目配信終了
「スリーショット!」
いまので十匹目となるステップディアを葬り去る。
これまでにレベルは3まで上がり、もう少しで4に届くところだ。
序盤になんでこんなにレベルが上がりにくいのかは疑問だが、まあそういうものだと理解しておこう。
「はーい、お疲れさまフィート。これでステップディア退治は終わりだよ」
「……次はもっと強いモンスターを退治に行くんじゃないだろうな?」
「それはもっと後かな。システムメッセージを見てみてよ」
「システムメッセージ?」
システムメッセージにはいままでのログが記録されている。
最近だと、ステップディアから入手した経験値があるはずだが……って。
「なんだ、この『称号:ジャイアントキリングを入手しました』っていうのは」
「これがいままでステップディアを退治し続けてもらった理由だよ!」
{え、こんな称号あったの?}
{俺は知ってた。ただし初心者にいきなりとらせるもんじゃねー}
{知ってることととらせることは違う}
{初心者に説明なしでいきなりとらせるサイちゃんはやっぱりおにちく}
「ちょっとコメントー」
ステータスの中に称号欄が追加されたので確認してみる。
どうやら自分よりもレベルが高い相手に与えるダメージが上がる効果があるようだ。
「便利な称号だよね、ジャイキリ。私が存在を知ったときは入手条件を満たすのが大変でしんどかったけど」
「入手条件って?」
「他のプレイヤーの援護を借りずに自分よりレベルが5以上高いモンスターを十匹連続で倒す」
「なるほど、それはレベルが高いと面倒そうだ」
「でしょー。だから正式サービスが始まったら、即行でここに来て称号入手したよ」
「ちなみにこの称号の効果ってどれくらいなんだ?」
「うん? 5%だよ?」
「……誤差じゃないか?」
「この手のゲームって、その誤差の積み重ねが大事になってくるんだよ」
そんなものなのかな。
俺にはまだよくわからないが、
さて、目的の称号とやらが手に入ったのでこのあとはどうするんだろうか。
「このあとは雑談しながらモンスターを倒していこう。いままでより少し格下の敵を」
「かまわないが……なんで格下?」
「このゲームってモンスターとのレベル差がプラマイ5以上離れていると経験値にペナルティが入るんだよ」
「……まて、じゃあ、レベル8のステップディアを狩り続けていたのは……?」
「レベルが上がってジャイキリの取得条件を満たさなくなるのを防ぐためと、ターゲットが変わって攻略方法が変わらないようにって言う優しさだよ」
「果たしてそれは優しさか」
「まあまあ、いいじゃない。ほら、まずはのらわんこことワイルドドッグを倒すよ」
「へーい。ここからは普通にレベル上げなんだな」
「うん。目指せ、今日中にレベル10だね」
{高い目標なのか妥当なのか微妙}
{鹿を簡単に倒せるんだから妥当じゃ?}
{鹿と戦えるPS持ちならレベル10くらい余裕っしょ}
{問題は時間くらいか}
{サイちゃん何時まで配信すんの?}
「配信時間かー。フィート、何時までログインできそう?」
「夕方六時が限度だな」
「そっか。できれば二時間くらい配信外で話したいことがあるから配信は四時までだね」
{ってなるとあと二時間?}
{二時間でレベル10までって結構ハイペ}
{あのPSあるなら多少パワレベしてもいけるっしょ}
{それにしてもなんでレベル10なのか}
{キリがいいからっしょ}
「はいはーい。レベル10なのはキリがいいからで特に意味はないでーす。それじゃ、狩りを始めようか」
「わかった。……あれがワイルドドッグな」
かなり前のコメントで、スリーショットなら一撃と言われてたため試したら実際に一撃だった。
その後はレベルが上がるにつれてモンスターを変えながらじっくりレベルを上げる。
結果、配信終了時間の十分前には目標レベルより高いレベル11に到達していた。
「うーん、少し尺が余っちゃったね。最後になにかやろうか?」
{それなら鳥人の種族特性使ってるところ見てみたい}
{あ、自分も見てみたい}
{鳥人って不人気種族だから種族特性結構レアなんだよな}
{どんな感じになるんだろうな}
「了解したよ。フィートもそれでいい?」
「わかった。でも、カメラはサイに追従だろ? どうするんだ?」
「設定を変えればフィートの視点にあわせられるよ。……よし、できた」
「ほほう。……確かに、俺の身体の向きにあってるな」
「よし、それじゃあ、ハイジャンプから試してみようか」
「了解。ハイジャンプ!」
アーツを使った瞬間、俺の身体は一気に宙を舞い、かなりの高さにいた。
「……いきなりレベル5のアーツは危険だったかな?」
{彼氏さん、大胆ね}
{ちなみにいま高度何メートル?}
「えーと、スキルの説明どおりだと高度十五メートル付近にいるはずだな」
{十五メートルか高いな……}
{彼氏さんが下向きだからサイちゃんが見えるけどかなりちっちゃいなw}
{サイちゃん自体ちっちゃいけど十五メートルったら相当じゃん?}
{いま調べたビルの四階か五階くらいの高さだってさ}
{意外と低い?}
{それでも結構高いぞ?}
{ファンタジーな世界では高めだと思う}
{そういえば彼氏さん、なんで高度が落ちないの?}
「ん、ああ。鳥人は種族特性外の性質で『滞空』っていうのがあって、空にいる限り高度を維持できるんだってさ」
{つまり高空からの固定砲台はできるのか}
{なんで鳥人固定砲台が流行ってないかが不思議}
{HPが少ない上に装備制限が多すぎて柔らか戦車なのよ}
なるほど、こんなところでも鳥人は微妙なのか。
「おーい、そろそろ一度帰ってきてー!」
「サイが呼んでるので一度地上に戻るぞ。急降下!」
今度はハイジャンプと逆のスキル、高度を一気に下げる急降下を使ってみた。
こっちも最大レベルで使ったので一気に地上へと降り立つことができたようだ。
「フィートってば行動が極端! ……で使ってみた感想は?」
「なかなか楽しかったぞ」
「リスナーのみんなは?」
{さすがに十五メートルなら余裕だった}
{高所恐怖症じゃないならいけるっしょ}
{急降下はバンジーみたいで恐い}
{それを言えばハイジャンプだって一気に景色が変わってすごかったぞ}
「とりあえず楽しんでもらえたようでなにより。さて、時間もいいところなので配信はそろそろ終了させてもらいますね」
{わこつでしたー}
{サイちゃんおつかれー}
{むしろ彼氏さんおつかれー}
{彼氏さん次もまたよろしくねー}
{彼氏さんといるサイちゃんは楽しそうでいい}
お別れのコメントや感想が流れていく中、配信画面が途切れて真っ暗になる。
サイが配信システムを終了させたのだろう。
「さって、顔見せ配信も終了したね。なかなか好感触でよかったよ」
「俺は配信に詳しくないが、荒れたらどうするつもりだったんだ?」
「え? 二度と配信しないだけだけど?」
こういうところ強いよなぁ。
「それより、さっきすっ飛ばした初心者の館に行こう。そこでアーツカスタマイズについて学ばなきゃ」
「よくわからないがわかった。案内してくれるか?」
「オッケー行こう!」
案内してもらった初心者の館とやらで学んだアーツカスタマイズは、アーツのクールタイムと威力を調整することができるシステムのようだ。
早速、スリーショットとインパクトショットを調整して登録、ゲーム終了前にグロウステップに戻って試し撃ちだけさせてもらった。
カスタマイズすると、元のアーツとは別物のようになるんだな……。
とりあえず、こうして昼間のプレイは終了である。
サイとはまた夜に会う約束をして別れたのだった。
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