4.お披露目配信 その1

{}で囲まれた文章は配信コメントです。

流れでなんとなくわかると思いますが念のため。


************



「お披露目配信って……そんなことして大丈夫なのか?」

「えー? 多分大丈夫だよ? 私が彼氏持ちで春になったら彼氏もゲームに誘うってのはずっと公言してたもん」

「公言してたもんと言ってもな……」

「大丈夫だって。私の配信なんてそんなにリスナーいないし」


 リスナーがいるかどうかの問題じゃない気がする。

 こう言うのってあれるものだって知識のない俺でも想像できるんだが……。


「とりあえず、先にフレンド登録済ませちゃおう。はい、登録申請」

「ああ……承認っと。このタイミングで申請した理由は?」

「このゲームってゲーム中でもほかのプレイヤーの配信を見れるんだよ。フレンドが配信していれば通知が出るから、それを確認できるようにって」

「ふーん、なるほどなぁ。ちなみに、ゲーム中にほかの配信を見れるのって今時は普通なのか?」

「割と普通だよ。ゲーム実況者なんて珍しい存在じゃなくなっちゃったからね。他のプレイヤーの攻略動画とか見たいプレイヤーは多いんだよ」

「へぇ。そんなものか」

「そんなものだよ」


 俺はオフライン専門ゲーマーなので、実況や配信の現状なんて詳しくない。

 それでも、こうして簡単に配信を見れるようになったと言うことは、それだけ影響力が大きいんだろうな。


「……よし、配信準備完了。それじゃ、始めるよ~」

「ああ、わかった。と言っても、なにをすればいいんだ?」

「とりあえず、なにもしなくて大丈夫だよ。私がお膳立てするから。あ、なんだったら私の配信画面を見ててもいいよ」

「そうさせてもらおうか」


 フレンドの通知欄に『サイが配信しています』とメッセージが出ている。

 どうやらここを操作すれば配信画面が開けるようだ。

 ……それじゃ、こちらを見てみるとしようか。


「はーい、皆さん、こんにちはー。サイだよー」


{こんちゃー}

{こんちゃ}

{わこつ}

{おっはー}

{こんにちはー}


 配信画面の下の方に接続数が表示されているが……三百人程度か。

 平日昼間で多いのか少ないのか、よくわからないな。


「今日は前々から宣言していたとおり、私の彼氏をゲームに引き込んだので紹介に来ましたー」


{ついに来たか}

{幻彼氏説消滅}

{よかった、妄想彼氏じゃなくて}

{うんうん}

{サイちゃん、ちゃんと彼氏さんいたんだね}


「ねえ、なんだかみんなひどくない?」


 配信画面にはコメントが流れているが、割と否定的なコメントはないようだ。

 と言うか、ここまで批判的なコメントがない気がする。

 いいのか、これで?


「なあ、サイ。お前のリスナーって大丈夫なのか?」


{お、男の声}

{いまのが彼氏さんか!?}

{普通に若い男性の声だった}

{サイちゃん、実は就活生を彼氏にしてた説があったからなぁ}

{就活生だったらこのタイミングがもっとも忙しい}


 俺の発言が向こうに聞こえていたのか、コメントがさらに流れていく。

 この流れを見る限り、俺が受験生だってことはばれてるみたいだな。

 っていうか、その辺の情報ってばらしていいものなんだろうか?


「いやー、私のリスナーさん、ノリがいいからねぇ」

「ノリがいいって問題か?」

「まあまあ、いいじゃない。じゃあ紹介します。私の彼氏、フィートです!」


 配信のカメラがぐるりと動き俺の姿が映し出される。

 ……しかし、我ながら初心者装備のベストにショートパンツ、靴ってダサいよな。


{鳥人w}

{よりによって鳥人セレクトw}

{個人の趣味だけど、茨の道っすよ、彼氏さん}

{俺氏最初は鳥人だったけど一週間で心が折れたよ……}


「あー、返答に困るコメントをありがとう。サイの彼氏のフィートだ。どうぞよろしく」


{よろしくー}

{よろしくっす}

{あれ、彼氏さんコメント見えてるんだ}

{視線がチラチラ下に行ってるし、配信画面開いてるんでしょ}

{彼氏さんがいい人そうで安心した}

{サイちゃんぶっ飛んでるからな}


「……サイ、一体どういうプレイをしてきたんだ?」

「ベータのときはヤンチャだったのよ。それより、みんな! せっかくなんで、フィートの初期装備更新を配信内でやっちゃうよ!」


{おー}

{ノリがいいじゃん}

{彼氏さん、そう言うの詳しいの?}

{反応見てるとかなり初心者っぽいけど}

{でも初心者装備の更新なんてたかがしれてるじゃんよ?}


 コメントで指摘されているけど、MMOなんて数年ぶりの初心者だ。

 初期装備の更新なんてどうすればいいのかわかんないぞ。


「まあ、初期装備の更新って言ったって初回ロット特典を使うだけなんだけどね!」


{ああ、あれかー}

{っていうか、今更初回ロット特典?}

{サイちゃん、初回ロット購入して眠らせてたの?}

{めっちゃ彼氏誘う気満々だったんじゃん}


「……置いてきぼりだが、どうすればいいんだ?」

「うん、まずは武器スキルを選ぼう。スキルメニューを開いてウェポンタブを選べば大丈夫だからさ」


 指示どおりに開いてみたが武器スキルもずいぶんと種類がある。

 ゲームとしてはオーソドックスな片手剣とか両手剣、鈍器、槍、弓などさまざまだ。

 ポールアックスなんてのもあるな。


「……おすすめ武器は?」

「うーん、鳥人と合いそうな武器ってわかんないんだよね。あえて言うなら長距離攻撃できる弓が便利とだけ」

「弓、弓ねぇ……」


 弓の項目を見ているとその隣の武器が目に留まる。

 なるほど、この武器も存在しているのか。

 だったら、これにしようかな。


「よし、決めた」

「決めたら、ポイントを振ってね。と言っても、最初の武器二種類はSPスキルポイントゼロで入手できるけどね」

「おっけー……よし、完了」


 ポイントを振り分け終わると、右手に巨大な鉄塊が出現した。

 ……俺が思っていたものと違うが、形状的には間違いないのだろう。


「……フィート、それって『銃』だよね?」

「ああ、そうだが?」

「うーん、どうしてフィートって微妙な種族に微妙な武器を選ぶのかなー?」


{さすがにこのセレクトは草}

{考えていることはわかる。だがなぁ}

{気持ちはわかる。俺もそうだった}

{俺も銃を使いたかったんだよ。想像してたのと違ったけど}


 どうにもコメントにしろサイの反応にしろ微妙だ。

 なにかしくじったかな?


「サイ、なにか変な選択をしたか?」

「変な選択って言うかね……このゲームの銃って二十メートルしかまっすぐ飛ばないのよ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る