第一章 ゲーム初日 フィート誕生
3.フィート
「それじゃあ、もうキャラクタークリエイトまで終わらせたんだね」
「ああ、終わってるよ」
「さっすが楓生。仕事が早い」
お昼も食べ終わった午後。
お互いに『待合室』に入って、ビデオ通話でいまの状況を報告する。
彩花としては簡単な確認だけだったらしいけど。
「そこまで行ってるなら話は早いね。始まりの街、ファストグロウのホームポータル前で会いましょう」
「わかった。俺のプレイヤーネームはフィートだけど、そっちは?」
「私はサイだよ。まあ向こうに行ったら必ず会えるって。でっかい槍を持ってる女の子だからすぐにわかるよ」
「よくわからないけど了解だ。……そういえば、このゲームって職業やスキルはどうなってるんだ?」
「その辺も向こうであったら説明するね。あっ、最初のログイン時はオープニングムービーがあるからじっくり堪能してね」
「スキップしてもいいんだがな……」
「急ぐものじゃないからいいんだよ。それに、私がファストグロウのホームポータルまで移動する時間がほしい」
「なるほど。そういうことなら、オープニングムービーとやらを楽しんできますよ」
「そうしてちょうだい。また向こうでね!」
元気よく挨拶をすると通話は切れてしまった。
あの様子だと、すぐにでもログインするんだろうな。
ホームポータルまでの移動とやらがどれくらいかかるか知らないけど、俺も急いだほうが良さそうだ。
「それでは、ゲーム起動」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
オープニングムービーとやらは、この世界の成り立ちを説明するものだった。
俺たちプレイヤーは『神代の使徒』らしい。
そして、たどり着いた世界は階層世界『アーラルキー』。
その中層に位置する『ライナボルト』で冒険は始まるのだとか。
俺たちプレイヤーは冒険者となり世界中を旅して回るのが使命と言われた。
特別なにかをしなければいけないというわけでもなく、自分の感じるままに世界を楽しんでほしいとのこと。
つまりは、目標のないオープンワールドゲームみたいなものかな。
要約するとこんな感じの説明と美しいムービーが流れたオープニングは五分ほどで終了した。
さて、ここからが本番の始まりだ。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「……ん、まぶしい」
おそらく『ライナボルト』に到着して初めに感じたことは『まぶしい』だった。
すぐに目がなじんで周囲を見渡せるようになったが、降り立った瞬間は本当に世界が真っ白だったのだ。
「はて、そんなに暗い場所にいたわけでもないはずなのに、なぜだろうな?」
周囲を見渡してみると、多くの人で賑わっている……と言いたいところだけど、人の数はそこまで多くない。
まあ、平日の昼間、それも最初の街のスタート地点なんてこんなものか。
さて、待ち合わせをしている彩花……じゃない、サイはどこにいるのかな?
「あー!? ふ……フィート! よりにもよって、鳥人を選んだの!?」
かなり大きな声を右手側からかけられたので振り向いてみると、そこには身長よりも長い槍を持った女の子がいた。
プレイヤーネームもサイだし、この子が俺の待ち合わせ相手で間違いないだろう。
サイの見た目は現実の身長よりも少し低めになっており、日焼けしたかのような薄い褐色肌だ。
髪はかなり長めのポニーテールで、頭頂部付近でまとめられているのに腰くらいまで伸びている。
服装は……なんて言えばいいのかな? ドレスアーマーとでも言うべき鎧。
要所要所を金属で補強したドレスっぽいなにかを着込んでいる姿は、ゲームの雰囲気ともマッチしている。
そして、俺のほうだがサイが叫んだとおり、種族は鳥人を選択した。
理由だが、種族特性に【飛行】というのがあったからだ。
詳しい説明は読めなかったが、名前からして空を飛ぶ能力のはず。
自分の翼で空を飛ぶなんて、ゲームでしかできない体験はせっかくならば体験してみたいだろう?
「さっきぶりだな、サイ。それで、鳥人だとなにかまずかったのか?」
「いや、まずいって言うかね。……かっこいいとは思うのよ、うん。銀色の髪と背中の銀翼もよく似合ってるし、翼のグラデーション具合もかっこいいと思うな」
「グラデーションはデフォルトのままだけどな」
グラデーション機能は最初からついていたのだが、面倒なので切らずにそのままにしておいた。
見た目は好評なようでなによりだ。
なお、このゲームの鳥人は背中から翼が生えている、天使のようなシルエットを持っている。
「……で、見た目に問題がないって言うことは、能力的に問題があるのか?」
「……まあ、そうなのよ。立ち話もなんだし、あっちのカフェでお話しましょうか。おごるから」
「お金も持ってないし、素直にごちそうになろう」
「うん。あ、でも初期でも所持金千リルはあるはずだから、そっちは大事にしてね」
「わかったよ」
さて、そう言うことで場所を移して説明を受けることになったわけだ。
せっかくなので基本的なところからレクチャーしてもらおう。
なお、リルとはこの世界の通貨単位のことである。
「フィート、このゲームのことって調べてから始めた?」
「いや、まったく」
「だよね。じゃあ、まずステータスの説明からか」
このゲームのステータスは一般的なゲームと同じように六つの分類に分けられる。
筋力を表すSTR、体力を表すVIT、素早さを表すAGI、器用さを表すDEX、魔法力を表すMAG、精神力を表すMNDだ。
ただ、これらの能力は種族ごとに固定値からスタートとなっており、ゲーム開始時はみんな一緒だそうな。
初期値が一緒ということもあり育てやすいという意見もある反面個性がないというプレイヤーもいて一長一短だとか。
俺はそこまで詳しくないし、はまり込むつもりもないんだけどね。
「いまはスキルによって伸びるステータスもわかってきたから初期ステータスの話は下火になってきたんだけど……」
「それでも初期ステータスにこだわるプレイヤーはいると」
「そう言うことなんだよね。特に第一陣として参入したプレイヤーには」
サイいわく、このゲームはかなり間口が広く作られているそうだ。
レベル上げもそこまで苦労しないように設計されており、初期ステータスに悩むこともない。
最悪、有名プレイヤーと同じようなスキルを覚えれば弱いモンスターは狩れるんだとか。
その結果として、プレイヤー人口の割合において女性層も比較的……というレベルじゃないほど多いらしい。
性別はリアルのものと変更できないからよくわかるが、このカフェにいるプレイヤーも女性がほとんどだしな。
「さて、話を戻すけど。ステータスについては理解してもらえたよね?」
「ああ、バッチリだ」
「それで、鳥人なんだけど、鳥人って上空を飛べる分すべてのステータスが低めに設定されているの」
「そうなのか?」
「うん、調べられてるから間違いないよ。初期ステータスはヒューマンに比べて二割ちょっと劣ってる」
「……それって大分弱くないか?」
「だからよりにもよってなのよ……。ほかにもマイナス補正がかかる種族はいくつかあるけど、鳥人が一番大きいのよね」
なるほどなあ。
初期ステータスでその差はかなり大きいよな。
「その差って埋めることはできないのか?」
「できなくはないけど、同じレベルで同じスキルをとってたらステータスでは同じだけの差があるよ? ステータスの成長率も種族によって違うらしいし」
うーん、これはいろいろ手詰まり感があるぞ?
さて、どうしようか。
「……ふむ、それじゃあ、サイ。サイは俺のキャラクターをクリエイトし直した方がいいと思うか?」
「うーん、本気で最前線とかに立つ気があるならそうした方が無難。でも、そうじゃないなら……」
「それならこのままでもいいかな。最前線とか堅苦しそうだし」
「……そうなんだよね。じゃあ、このままでと言う方向で決定!」
種族問題にけりがついた俺たちはカフェを出て見晴らしのいい公園に移動する。
さて、ここでなにをするのやら。
「サイ、どうしてこんな場所に?」
「うん? 私の彼氏のお披露目配信をしようと思って!」
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