閑話休題 その日“鋼鉄処女”は二秒間だけ微笑んだ。
それは私、鳳凰院アキの高校の時のアダ名だ。無表情・無感情・無慈悲。この三拍子をいつも崩さなかった私につけられた不名誉なあだ名。まぁ、何をするにも無表情、何に対しても感動・笑顔を見せず、告白してきた男子が真っ青な顔になるまで罵詈雑言を浴びせたとなればこんなあだ名をつけられても仕方がないと当時の私は思っていた。
高校を卒業しても私の心境に変化はなく、唯一の親友である御影フユノと共にこの会社に入社し、変わらない日々を送っている。
ただ、一つ不満を挙げるとすれば入社して早々厄介な男に絡まれたということだ。
有村清一。私の教育係に任命された彼はチャラい・ウザい・うるさいという私のもっとも苦手とするタイプで、いくら言葉でそのメンタルを傷つけても次の日にはケロッとした顔で私に話しかけてくる。まるでゾンビに付きまとわれている気分だ。
今日もフユノの恋を応援する口実だというのにこの男は私の作った弁当にそれはそれは目を輝かせ、まるで少年のように夢中で頬張っていた。
「うんまっ! うまっ! アッキー天才。超天才! うますぎて馬になるレベルだわ!」
何を言ってるんだろうこの人は。それに美味しくて当然。あなたが食べてるそれらは全て冷凍食品をレンジという現代魔法機で解凍したものですから。
「この唐揚げジューシー!」
でしょうね。袋にそう書いてありましたもの。
「このつくね手が込んでる! まるで売り物みたい!」
売り物です。一袋298円のヤツです。
「このご飯。ツヤツヤで真っ白! これだけで食べれるわ!」
サ○ウのご飯さん。ありがとうございます。カスタマー喜んでますよ?
——というか喋りながらでないとご飯を食べられないんですかあなた? 本当苦手だわー。私は一言も発することなく黙々と自分の弁当を食べ進み、昼休みの時間早く終わらないかなぁと思っていた。
フユノ。うまくやっているかな? あの子のことだから緊張して余計な行動起こしてるんだろうなぁなどと親友の恋事情を気にしながら私はお弁当を食べ終わり、同じタイミングで完食した彼と目があった。
「まじうまかった! アッキー。サンキューな。いやーこのクオリティーなら店開けるぞ」
「無理ですよ。そんなの」
ため息交じりに彼の言葉を否定し、彼が平らげた空の弁当箱を下げようとしたその時、私は彼のつぶやきにその動きを止めた。
「どれも美味かったけど、一番美味かったのは“ほうれん草のおひたし”だったな」
「……へ?」
「ゆで具合とか醤油の味付けとか完璧だった! 俺の好みドンピシャ」
それは私に残った女のプライドか、もしくはただのいたずら心か。いずれにしても私は彼に振る舞った弁当のうち、“ほうれん草のおひたし”だけは自分で手作りしていた。それを今この人は『一番美味しかった』と口にしたのだ。
「ん? どうかしたか? アッキー?」
「なっ……なんでもありません! というかアッキーと呼ばないでください。蹴りますよ?」
「手厳しい〜! 俺パイセンなのに〜〜!!」
そうやってふざけているあなたは絶対に気付かないだろう。私がほんのわずかあなたに心を揺り動かされたのを……。
その日、
※すみません! ストーリーには関係のない話ですがどうしても書きたくなって投稿しちゃいました。あと、文中のネタ誰かわかる人いますかね? 「うますぎて馬になった」これ『とっくん』さんというユーチューバーさんのネタなんです。よかったら見てください。滅茶無茶面白いですよ。それでは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます