第二章

第1話 見て聞いてきたことを会合で報告しました。

 トバリとトダとヤビを連れて私たちは行きよりも急いで戻りました。

 急な会合に、私という仲介を置いて、トバリもそこに参加することになりました。


「……いや、しかしなかなかそれは信じられない」

「大体何だってそんなことが起こるんだ?」


 無論そんな意見もありました。


「俺はテケリケに行ったこともあるが、そんな奴には会ったことがない」

「うちもだ」


 あの、とトバリは私の袖を引っ張りました。どうしたの、と問いかけると。


「ここはヨグルトなのですよね」

「そうだけど」

「ヨグルトから嫁いできたひとがいます。エデル・カマトという、子供がこの子達くらいで三人います。この方をご存じないですか?」


 会合に出席している男達に伝えると、その中の一人がそういえば、と顎に親指を当てました。


「テイ・カマトと言えば」


 皆黙ってうなづきました。私達ヨグルトの部族の集落の中でも最も西側にその住処を置いている一家です。

 ただ今ここにはいません。会合に出る立場ではないのです。今集まっているのは、集落の中でもある程度発言力のあるひとばかりです。

 まず何と言っても強いこと、羊や馬を増やす知恵に優れていること、そして充分な生活を家族にさせていること。

 この三つを重ね合わせている家の代表が今参加しているひとたちです。

 イリヤや私が出席しているのは当事者であるからに過ぎません。そして、この会合に出るような顔ぶれにならないと、部族長にはまずなれません。

 皆私たちの両親くらいか、それ以上の年齢で、貫禄があります。

 その中でテイ・カマトの近所だ、というひとはこう口々に言いました。


「あいつのとこは、娘ばかり四人育ったが、息子ができなくて、一番上の娘に婿を探したんだが、なかなかなり手がなくて、結局一番下の娘以外は遠くに嫁に出したと聞いていたが」

「気難しい奴だ。が、情はある」

「ダリヤ、そこの嬢さんにその娘はどうなったか聞いてくれないか」


 族長が私に命じました。

 無論それはトバリにも聞こえています。ただどうしても彼女の部族の習慣として、そうしないと気持ちが許さないそうです。実際それを守っているということで、ここでは信用できる女、と見なされているようです。

 私は同じ意味のことを繰り返しました。


「エデルさんは…… 連れて行かれそうになって…… 抵抗して……」


 そこで彼女は黙って首を横に振りました。


「殺されたの?」


 私はきっちりそこで聞かなくてはならない、と思いました。そこが間違いではならないのです。血の報復に関しては彼女もわかっているでしょう。


「はい……」


 絞り出すような声でした。


「子供達も飛び出してきた時に…… トダとヤビとも仲が良かったのですが、男の子二人が、うるさいとばかりに斬り殺されました」

「何てことだ!」


 形式的に私が繰り返す間、族長は口の中で悪態をつきます。


「しかし何故に、奴らは女を捕まえようとしたんだ?」


 するとイリヤが手を挙げました。


「彼女に道々細かく俺とダリヤは聞いてきました。それを話してもいいでしょうか」


 お前がか? という視線が彼と私に向かって投げかけられます。若いですから仕方ないですが。

 彼はそんな視線を全く気にせずいつもののんびりした口調の中に、少しだけ堅さを込めて話し出しました。


「はじまりはしばらく前に、テレリケのあたりにもの凄い光が満ちた、ということです」

「光だと?」

「何だそりゃ」

「トバリもその光は見たそうです。夜なのに昼になったような、いやそれ以上で、天幕からまぶしすぎて出られなかったそうです。ちなみに俺たちが通ってきた道々、ここから近いイエガルでも光っているのが見えたそうです」

「で、その光がどうしたんだと?」

「光だけでなく、急にその時暑くなったと彼女は言っていました。ただハイホンではその程度で済んだのですが、テケリケではそんなものではなかったようです。彼女を遅っ達奴らは、たまたま行商に出ていたらしく、戻ったら、そこは何もなく、一面の砂地になっていたと」


 砂地? と皆がざわめきました。


「そこで皆さんにお聞きしたいのですが」


 そう言って彼は遠出の途中に何やら書き付けていた薄い革を取り出しました。


「俺たちは帰りは急ぎましたが、それでも少しだけ行きとは外して別の部族のところを回ってきました」


 内容は彼から聞いていました。彼は行く先々で、どのくらい光が見えたかということを、それぞれにたどり着くまでの時間と一緒に書き付けておいたのです。

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