第8話 隣のイエガルでは光を見たそうです。

 ただやっぱりそれは天の配剤です。

 同じくらいの歳で結婚した従姉妹達は翌年には子供を産んでいました。二人目がお腹にいるひともいます。

 まあ彼女達の旦那は夜も熱心だ、ということが風の噂に聞こえてきますのでその結果でしょう。

 うちは、というと。

 彼はもともとあまりそのあたりに熱心ではありません。かと言って全くその気がないわけでもなく。私は私でそれに付き合うという感じですので、まあ確かに他のひと達よりは子供ができる機会は少ないのでしょう。

 まあそれならそれでいいと思います。ただあれこれ言われるのは面倒だな、と思いますが。


「ならいいんだ」


 そう、別にできてしまうなら何人でもいいのです。それはそれで。きっとそのうち狩りに出ることもできなくなるのかもしれませんが、その時はその時です。

 ともかく今はせっかくの遠出の機会です。彼の中では思うことがあれこれあるのかもしれませんが、ついて行く私はとりあえずこの旅路、普段は行かない方角、時折見つかる水場、空の色の移り変わりなど、かなり楽しんでいました。


「そうよ。だから今のうちできることはしておかなくちゃ」


 彼はそれにはやや微妙な笑みを作りました。



 イエガルの幕屋群についた時には日が暮れかけていました。自分達で野営しようかどうか、というくらいの時間です。


「やあ! 結婚式以来だが、もう子供はできたかね?」


 今晩にお世話になる私の伯父は私の顔を見るなりそう言いました。やや言いよどんでいると、イリヤは私を制して笑顔で答えます。


「励んではいるのですが、こればかりは天のおぼしめしですから」

「そうだなそうだな。まあまだ二人とも若い。どんどん励んでくれ」


 あなた、と伯母の声がします。そしてこっちにいらっしゃい、と女達の場所に呼び寄せました。伯母とお婆様、それに従姉妹達がずらりと迎えてくれました。


「まあダリヤ久しぶり。またどこかキリッとしてきたんじゃない?」

「ダリヤお姉様はいつも格好いいから」


 ありがたいことに、年下の女の子達はその様に褒めてくれます。私が既に結婚しているからその程度で話が済むのかもしれません。イリヤが先んじて伯父に言ったのも大きいでしょう。


「男達は向こうで用件の話に夢中だから、私らはとりあえず食事の用意をするとしよう」

「お手伝いします!」


 口より身体を動かす方が楽です。

 それにおそらく客人が来るということで、今日は一斉に食べるのでしょう。大皿が用意されているのが見えました。重いものを持つのは苦ではありません。


 

「いやあ美味しかったなー。食った食った」


 食事やら話やらの後、私達は空けてくれた天幕に移りました。彼は食べ過ぎた飲み過ぎたとばかりに上着を取ると寝床に横になってしまいます。

 私はそれを拾って軽く畳みながらあたりを見わたしました。

 あちこちに掛けられた布にされた刺繍布の柄の合わせ方が私達のあたりとやや違うのが面白いです。覚えておいて今度何か似た様な図案をやってみようかとも思いました。


「光は見えた、らしいよ。遠かったらしいけど」

「光?」

「落っこちてきた時の。でもそれだけだったから、格別どうとか思わなかったみたいだ」

「ここいらでは特に変わりはないということね」

「うん。でも近づいてはいるということだ」

「どこまで私達近づけるものかしら」

「それは決まってるんだ」


 私も彼の横に寝そべりました。


「逃げてきたひと達に会った時」

「そのひと達はどうするの」

「どうもこうも。俺達は近くの部族の幕屋がある場所まで案内する程度しかできないよ」

「そうなの?」

「そうしたら俺等はできるだけ早く戻らなくちゃならないさ。備えなくちゃならないから」


 ああそうか。私は気づきました。この遠出はそのためのものでした。

 物見遊山ではないのです。いくら族長にはそうとられたとしても。

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