世界の種

帆多 丁

蘭の君 1

 私には二百万の姉妹がいた。

 本当はもっといたようだけれど、私が覚えている限りでは二百万の同時に産まれた姉妹で、そのうち百七十万の姉たちはミヤ入りする事もなく死んでいった。


 

 時が来れば、私たちの一人がミヤに入り、運命の訪れを待つ。

 ただ、待っていられる時間はそう長くない。

 運命が現れなかった姉たちは、大地から吹き上がる紅色の流れによってミヤごと剥がされ、天の門から出て行って帰らなかった。

 等しく産まれ等しく年を重ねる私たちの、誰が姉で誰が妹であるのか。


 先に行った者が姉で、残った者が妹だ。


 世界はそのように出来ている。

 私たちは待つのだ。ミヤ入りの順番を待ち、運命の訪れを待ち、待ちきれずに死ぬ。

 しかし運命が訪れた暁には、私たちは新たな世界になるのだと、そのように私たちへと教えたもうた。

 他ならぬこの世界が。


 だから私は待つ。

 ミヤに入って。

 いまだ残る十五万の妹たちに別れを告げて。


 「蘭の君」などという大層な名前が私たちにはある。その名で呼ばれる未来に憧れる妹たち、待ち焦がれた姉たち。

 いつか、誰かがその時を迎えるなら私たちはそれでいい。

 ただ願わくば、姉たちのように天に昇った後にも生が続いているのなら私は、今度は待たないで済む生がいい。

 世界がそうあれと望むまま、蘭の花に座ってじりじりと過ごしていたある時、地鳴りがミヤに響いた。

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