第30話 SNSに自撮りをアップ


「あら、これって金のイミテーション?」


 鞠江が金をつまみ上げ、その重さを感じて澪亜へ視線を移した。


「ずいぶん重いわねぇ……本物の金かしら?」

「本物ですよ。エルフのフォルテから、金を日本円に換金してほしいとお願いされたので預かってきました」

「あらあら、何かほしいものでもあったのかしらね?」

「実はですね、スマホの写真機能が気に入ったみたいで、金をあげるからスマホを買ってきてと依頼されたんです」

「へえ……異世界にはスマホなんてないものね」


 鞠江は手のひらでサイコロサイズの金を転がした。


「おばあさまに換金をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「そうねぇ……鉱物マニアの知り合いがいるから、彼に買い取ってもらいましょうか? 異世界の鉱物だって内緒にして、ついでに鑑定もしてもらいましょう」

「鑑定スキルを使ったところ、金であることは間違いなさそうですけれど……確かに現実世界での鑑定も必要ですね」


 異世界から戻ってくる前に、念のため鑑定しておいた。

 結果は『金』としか出なかった。本物であることは間違いないだろう。


「おばあちゃんにまかせておきなさい」

「ありがとうございます! フォルテも喜ぶと思います!」


 澪亜が嬉しそうに笑うと、癒やしのオーラが居間を包んだ。


 孫の笑顔につられてほっこりした笑みを浮かべ、鞠江がサイコロサイズの金をタンスへとしまった。


「少し換金に時間がかかるから、スマホは先に買っておいてあげるわ。ああ、向こうは電気がないから持ち運びできるソーラー充電器なんかもいるわね」


 電子機器に強いイケてるばあちゃんが元いた座布団に座り直す。


「スマホが気に入ったということは、向こうで何か撮影でもしたの?」

「はい。撮れ高、が高い景色が見れたので」


 澪亜は“撮れ高”を疑問口調で言いながら、アイテムボックスからスマホを出し、鞠江に画像を見せた。


 画面には浄化のトーチで結界が連続して張られており、淡い光を放っている通路のようなものがずっと奥まで続いている様子が写し出されていた。両脇の森と、画面真ん中に小さく写っているウサちゃんが幻想的な雰囲気を後押ししている。


「まあ、素敵ね〜。異世界に行ってみたいわ」


 画面を拡大して隅々まで映像を確かめ、鞠江が感嘆のため息を漏らす。


 澪亜が浄化のトーチをいかにして埋めたかと、魔物との戦闘が大変だったという説明をすると、鞠江はさらにうらやましがった。


「あとは自撮りもしましたよ」


 そう言って、澪亜は鞠江の持っているスマホへ手を伸ばし、次の画面へとスライドさせた。


「まあ! 可愛いわね!」


 笑顔で自撮りしている澪亜とフォルテの画像を見て、鞠江が頬に手を当てた。


「この方がフォルテですよ。向こうでできた初めてのお友達です」


 頬を赤らめ、澪亜が自慢するように言う。


「エルフのお嬢さんと仲がいいなんてファンタジーね! いいわぁ〜、孫とエルフいいわぁ〜。誰かに自慢したいわぁ〜」


 鞠江が頬に手を当てたまま、首を何度か動かした。


 祖母の可愛らしい仕草に澪亜はふふふと笑い、「私の自慢の友達ですよ」と曇りのない瞳で言った。


 フォルテが澪亜の言葉を聞いたら、種族的な発作が出て盛大に仰け反る案件である。


 ウサちゃんが「この子はいいエルフだよ」と一声鳴いた。


 魅力値の高い聖女JKと、エルフの中でも顔つきが整っているフォルテが写っている、誰が見ても熱いため息を漏らしそうな写真である。鞠江はしばらく写真を堪能し、思いついたように顔を上げた。


「澪亜、あなた自分のアカウントを作りなさいな」

「アカウントですか?」


 澪亜が小首をかしげた。


「SNSよ。モデル業をやってるんだから、自分からも情報発信するのがいいわ。逆にやってない子はいないんじゃない?」

「SNSですか……」


(そういえば、ちひろさんにも勧められていたね……。ちょっと自信ないけどやってみようかな?)


「よし」


 何事も挑戦しようと前向きな気持ちになっている澪亜は、鞠江に教わって、高校生なら誰しもがやっている有名な写真投稿SNSをダウンロードし、アカウントを作成した。


 名前は無難に『澪亜/Reia』としておいた。


 つい先日専属契約したPIKALEEもReiaとローマ字表記で登録している。


 自己紹介文は『PIKALEE専属モデル。趣味はピアノとウサちゃんのお世話』と簡潔なものにし、鞠江のYチューブチャンネルのリンクをその下に貼り付けておいた。


「できました」


 飲み込みの早い澪亜は機能を理解し、鞠江のアカウントをフォローして、ちひろにメッセージを飛ばしてアカウントを送ってもらい、そちらもフォローした。すぐにフォローバックがあった。


「じゃあエルフのお嬢さんとの写真をアップしちゃいましょう」

「え? 異世界の写真ですけれど大丈夫でしょうか?」

「平気平気。どうせ質の高いコスプレだって思われるわ。澪亜がコスプレ好きっていう個性もつくし、いいと思うわよ」

「そんなものでしょうか……」

「そんなものよ。それに、フォルテと友達だってみんなに自慢したくない?」


 鞠江に言われ、うーんと唸った。


(自慢……というよりは、友達と写真を撮ったっていう記録を知ってほしい、かな……?)


 今まで友人がいなかった澪亜にとって、フォルテやちひろ、ゼファーは特別な存在だ。自分の中にあるスペシャルな存在を見てもらいたいと言う気持ちは少なからずあった。それに、本人たちが喜びそうなので、考えると楽しい気分になってくる。


「わかりました。初投稿はこの写真にしますね」


 澪亜はフォルテと顔を寄せ合って撮った自撮り写真を選択し、『美人さんなエルフと異世界で撮りました』とコメントして投稿した。


 横で鞠江が「いいわねぇ、いいわねぇ」と言って評価ボタンを押している。

 初めて投稿することへの、ちょっとした興奮に、澪亜は自然と頬が緩んだ。


(SNSなんてやると思わなかったな……楽しいかも)


「きゅっきゅう」


 ウサちゃんが、いい感じだね、と言っている。


「ウサちゃんもスペシャルな存在ですよ。特にこのもふもふ具合がスペシャルです~。次はウサちゃんの写真をアップしましょう」

「きゅう」

「ありがとうございます」


 いいよ、と言ってくれたウサちゃんをもふもふと撫でていると、投稿した写真に初コメントが入った。


(あ、コメントがきてる)


『誰? これ誰〜! 二人とも超可愛くて素敵すぎるんですけど! コスプレのレベル高すぎです〜!』


 コメントの主はちひろだった。


 彼女は投稿された写真を見て、澪亜のコスプレに歓喜し、しかも相手が外国人で本物のエルフにしか見えない美人だったので驚き、顔面偏差値の高さと写真から溢れる幸せオーラに完全にやられてベッドの上で悶えていた。


 そんなことはつゆ知らず、澪亜は「まあ」と笑みをこぼした。


「ちひろさんはお優しいですね。こうしてすぐコメントをくれるんですもの」

「委員長ちゃんね? 今度家に呼んで異世界の野菜を食べてもらいましょう」


 鞠江がころころと笑う。


 気づけば夕食の時間だったので、アイテムボックスからナス、トマト、いんげん、ブロッコリー、パプリカを取り出して、ジェノベーゼパスタを作ることにした。


 エプロンをつけ、手際よく聖水で洗い、使い込まれたまな板にのせてカットしていく。


「きゅきゅう」

「ありがとうございます」


 どうやら、SNSアプリにコメントが付かないか、ウサちゃんが見てくれるらしい。


 もふっとした前足でスマホを器用に操作している。後ろ姿がスマホをいじって遊んでいる子どものように見えて可愛い。


 初めてアップした画像の反応が気になっていたのでありがたかった。


 アカウントはまだ鞠江とちひろにしか教えていないので、夕食を食べ終わるまで、評価とコメントがつくことはなかった。



      〇



 翌朝、日課のジョギングを済ませて簡単にシャワーを浴び、スマホを何気なく確認した。


(んん?)


 スマホの通知バーにSNSアプリの表示があり、“99”になっていた。


(まあ、なんでしょうか? インストールすると宣伝がたくさん来たりするのかな?)


 ウサちゃんに聞こうと思ったが、部屋にいない。異世界に行っているようだ。


 ひとまずそのままにし、学校に行ったらちひろに聞こうと決めた。






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