第28話 異世界で金塊をもらってしまった
そこには、楽しそうに笑っている澪亜とフォルテが写っていた。
澪亜もフォルテも顔面偏差値がとてつもなく高い。プレミアがつきそうな自撮りだ。ナチュナル盛りのアプリが全く必要のない二人であった。
「澪亜のほうが目が大きいわ! あとちょっと恥ずかしそうなのが可愛いわ!」
「フォルテは鼻が高くて美人さんですね!」
「澪亜と一緒に写ってるの尊い〜」
フォルテが肩を揺らして悶えている。
「私もスマホがほしい! 写真機能だけでも便利よ!」
「おばあさまにお願いしてみますね。契約をしないスマホもあるので」
澪亜が優しく微笑んだ。
癒やしの三連コンボが発動し、フォルテは全身が幸福感に包まれた。
「高価なものだと思うからきっちり買い取るわ。あっ……そういえばニホンの通貨が必要になるのか……。レイア、ニホンは金の買い取りってやっているかしら?」
「はい、やっておりますよ」
「それじゃあ――」
フォルテがアイテムボックスからこぶし大の金塊を取り出した。
「これでスマホを買ってきてくれない?」
「えっ……こんなには必要ないと思います……。おばあさまが株をやっていらっしゃるのですが、確か金一キロで七百万円前後だと言っていたような……」
「よくわからないけど受け取って! 私、こう見えてSランク冒険者だから金貨には困ってないの。この金塊もどこかの領主の娘さんを助けたときにもらったやつで、ずっとアイテムボックスで腐らせていたから」
「こんなには受け取れませんよ。それに、買い取りも難しいかもしれません。もう少し形が整っていないと……」
「あ、それなら。ゼファー! ちょっと来てよ!」
フォルテが冒険者たちと話しているゼファーを呼ぶと、彼がやってきた。
ちなみにドワーフたちは腹が減ったのか、手際よく火を起こしてスープを作り始めている。冒険者も手伝っているようだった。
「どうした?」
ゼファーが爽やかな笑みを浮かべ、澪亜とフォルテに尋ねてくる。
「〈絶対両断〉でこの金塊の形を整えてくれない?」
「は? なんでだよ」
「レイアにあげるのよ。金をニホンの通貨に変えるの。レイアにはお世話になっているしね」
「あ、そういうこと。それなら俺の金塊もやるよ」
澪亜がどうやって止めようか考えているうちに、二人の話は進んでいく。
ゼファーは「あー、でかいやつがあったよな」とつぶやきならが、アイテムボックスからバスケットボール大の金塊を取り出した。
不純物が入っていないのか、陽の光を浴びてキラリと輝いている。
「重っ。地面に置くぜ」
「これは……受け取れませんよ! 大きすぎます!」
「たぶん二百キロくらいあるな。足りるか?」
ゼファーがドヤ顔で聞いてくる。フォルテを煽ってるらしい。
時価総額が一キロ七百万円だとすると、金二百キロで十四億円だ。
澪亜は脳内で瞬時に計算して、これはダメなやつだ、と受け取り拒否を心に決めた。
「ちょっとちょっと。私より大きい金塊を出したからって何よ?」
フォルテが腰に手を当て、ゼファーに突っかかった。
「イードの廃鉱山でグリーキメラをぶっ倒したときに見つけたんだよ。てかさぁ、レイアにあげるんならもっとでかいのにしろよ。世話になってるんだから」
「大きければいいってもんでもないでしょう。謙虚なレイアが受け取るはずないわ」
「でかいほうがいいに決まってる。な、レイア?」
澪亜は困り果て、どうにか笑みを浮かべた。
「お気持ちは大変嬉しいのですが……その大きさだと換金は難しいかと思います。出どころを疑われる可能性が高そうです」
(換金できるかあやしいよ……)
「げっ、まじか」
ゼファーが一歩下がると、フォルテがすかさず前へ出た。
「ほら見なさい。だから言ったでしょ」
ふふんとフォルテが胸を張って、タクトを振るようにゼファーの腰に差している聖剣を指さした。
「早く私の金塊を斬ってちょうだい」
「金貨十枚」
渋い顔つきで、ゼファーが言った。
「はあっ?! なんでよ!」
「なんかムカつくから」
「そんだけでかい金塊持ってるんだからいいじゃないのよ!」
「王国で換金するとボラれるんだよ! 流通させる金貨の価値が下がるとか適当なこと言って、値下げしてくんの!」
「冒険者ギルドは?」
「その半値だよ」
「最悪ね〜」
どうやら異世界の換金事情は世知辛いようである。
「獣人国だといいレートで取引できるみたいだぜ」
「ああ、それならそっちに言ってから使ったほうが得策ね。だからアイテムボックスに死蔵させてたのね?」
フォルテがゼファーと地面に置かれた金塊を見てため息をつく。
「そゆこと。ま、街道ができないことには獣人国に行くのも一苦労だけどな。でもさ、ニホンで換金できるならそっちのほうがいいよな。レイアにニホンの食い物とか買ってきてもらおうぜ」
「ああ! それいいわね!」
「レイアになら手数料で半分取られても文句ない」
「私は九割取られてもいいわよ」
喧嘩していたと思いきや、秒で仲直りをして団結している。さすがコンビであった。
「あの〜、お二人とも。まずは換金できるかを確認いたします。フォルテのためにスマホを買ってあげたい気持ちは私にもありますから、頑張りますね」
鞠江ならツテがありそうだと澪亜は思う。
没落したとは言え、鞠江は元資産家だ。金持ちのコネクションはあるだろう。
(お父さまもコネは使えと言っていましたし、相談しましょう)
「きゅっきゅう」
いつの間にかウサちゃんが腕から下り、ゼファーの金塊に乗って、てしてしと金塊を叩いていた。
こんな石に価値があるんだね、と疑問らしい。
そうこうしているうちに小さい金塊を渡そうという結論に至ったのか、ゼファーがスキル〈絶対両断〉でフォルテの持っている金塊をサイコロサイズに斬った。鮮やかなお手並みであった。
澪亜はひとまず十個受け取ることにした。
◯
その後、ドワーフたちの作ったスープを食べ、神殿に帰って皆とおしゃべりをして、日本に帰還した。
(内容の濃い一日でした)
「ふあっ……」
澪亜は誰も見ていないが、あくびを右手で隠した。
疲れもあって少し眠い。
十七時前なので寝るには早すぎた。
聖女服から部屋着に着替えて居間に下り、早速、鞠江に異世界の金について相談することにした。
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↓
パルシィ
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ピクシブコミック
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