第22話 新しいスキル


 澪亜は現れた半透明のステータスボードを見つめた。


――――――――――――――――――

平等院澪亜

 ◯職業:聖女

  レベル67

  体力/1500(+300)

  魔力/6700(+3200)

  知力/6700(+3200)

  幸運/6700(+5200)

  魅力/8200(+8900)

 ◯一般スキル

 〈楽器演奏〉ピアノ・ヴァイオリン

 〈料理〉和食・洋食

 〈礼儀〉貴族作法・茶道・華道・習字

 〈演技〉役者

 ◯聖女スキル

 〈聖魔法〉

  聖水作成――聖水操作

  治癒――遠隔治癒

  結界――連続結界・魔術結界・物理結界・瘴気結界

  保護――(ウサちゃん・ドワーフ族二十名を保護中)

  浄化――浄化音符/運搬係(トルコ行進曲)・お掃除隊(水上の音楽)・三叉の矛(運命)・音符剣(剣の舞)

 〈癒やしの波動〉

 〈癒やしの微笑み〉

 〈癒やしの眼差し〉

 〈芸術家の被写体〉new!

 〈上級鑑定〉new!

 〈完全言語理解〉

 〈アイテムボックス〉

 〈オーバーテイム〉

 〈危機回避〉

 〈邪悪探知〉

 〈絶対領域〉

 〈魔物探知〉

 〈幸運の二重演奏〉

 ◯加護

 〈ララマリア神殿の加護〉

 ◯装備品

  聖女の聖衣

  ライヒニックの聖杖

  ライヒニックのスカート

  ライヒニックの白タイツ

  ライヒニックの空靴

――――――――――――――――――


 最初に気になったのは新しく覚えたスキルだった。


(芸術家の被写体……? よくわからないな。あと、上級鑑定……。普通の鑑定よりも詳しく調べられるってことだよね……?)


 澪亜は聖魔法・浄化の項目に注目した。


(浄化により詳しい説明がついてるよ……。運搬係(トルコ行進曲)、お掃除隊(水上の音楽)、三叉の矛(運命)、音符剣(剣の舞)……なるほど。浄化音符さんにお願いをすると、そのお願い事の内容で曲名が変わるのか)


 試しに運搬係の項目へ鑑定をかけてみる。


『浄化音符・運搬係(トルコ行進曲)――聖女レイアが生み出した浄化音符が集合し、指定した物を運ぶ。運搬の際は小気味よいトルコ行進曲が奏でられ、調子のいい日はジャズバージョンになる』


(調子のいい日はジャズ……トルコ行進曲のジャズバージョンはカッコいいですからね。あとで弾こうかな?)


 浄化音符にも調子のいい悪いがあるらしいのだが、澪亜はあまり気にならないらしい。それよりも、音楽へ意識が向いた。


(あとは気になる〈芸術家の被写体〉を鑑定――)


 次にスキル〈芸術家の被写体〉を鑑定してみる。


 半透明のステータスボードの上に、もう一枚半透明のボードが出現した。


『〈芸術家の被写体〉――優れた芸術家の被写体として、自身と相手の望んだポーズを取ることができる。歴代の聖女たちは有名な芸術家の絵画のモデルになってきた。彼女たちの優しさは後世まで語り継がれるであろう』


(この説明だけちょっと物語口調だね? そっか……きっとブリジットさんが私のことを撮ったから、このスキルを習得したんだね。脳内アナウンスは流れなかったけど……緊張してたから聞き逃したかも……)


 澪亜は先日のモデル業で得たスキルだろうと予想した。

 確かに思い返せば、言われたままにポーズを取ることができたように思う。


 便利なスキルを与えてくれる聖女職業にあらためて感謝した。


(あと保護ってスキルも気になるよね……。ウサちゃんを保護してるのはわかるけど、ドワーフさんたちまで保護下に……)


 澪亜は『保護――(ウサちゃん・ドワーフ族二十名を保護中)』という表示を見て、人差し指を顎に乗せた。


「どうだレイア? レベルは上がってたか?」


 澪亜が顔を上げるまで待っていたゼファーが話しかけてきた。


「はい。前回が60で今は67です。7つ上がっておりました」


 指を顎から離し、澪亜はゼファーを見た。


「おお! めっちゃ上がったな?!」

「そうなのですか? 上がり方の具合がわからないので何とも言えないのですが……」


 澪亜が小首をかしげると、フォルテがとんでもないと腕を組んだ。


「私たちは魔の森を二往復してかなりの魔物を狩ったわ。でもレベルはプラス3止まりよ。これでもかなりのスピードでレベルアップしているんだけどね……聖女の補正かしら?」


 長い耳をぴくりと動かし、フォルテがうなった。


「そうかもな」


 ゼファーがうなずく。

 それを見て、澪亜がステータスボードを消して口を開いた。


「お二人のレベルはいくつですか?」

「俺は74」

「私も74」

「まあ。私よりも高いですね」

「俺たちの場合、五年くらいかけてこれだからな。レイアはまだこっちに来て二か月半だろ?」

「脅威的ね」


 ゼファー、フォルテがうらやましそうな目を澪亜へ向ける。

 澪亜は少し困って、微笑みを二人に送っておいた。


「もうぼちぼち作戦開始時間だな。最後にレイアのステータスを確認していいか?」


 ゼファーに聞かれて、澪亜は快諾した。


「もちろんです。どうぞ」


 ステータスボードをもう一度出し、二人に見えるよう念じる。

 すると、半透明のボードがくるりと半回転して向きを変えた。


「サンキュ」

「ありがとう。確認するわね」


 ゼファーとフォルテが礼を言って、素早く目を滑らせていく。

 何を思うのか、二人は深く息を吐いて、顔を上げた。


「体力以外がレベルアップごとに100ずつ上がってんのがやべえな……」

「魅力値にいたってはもうよくわからない数値よ。8200+8900って……エルフ族の中でも超絶美人の私ですら4300なのに……道理で尊いわけね……」

「何が超絶美人だよ……美女ってのはもっと乳がボインで尻も丸い――へぶぅっ!」


 フォルテがゼファーに腹パンした。


「私の拳を喰らいたいの?」

「殴ったあとに言わないでくれませんかね……?」


 ゼファーが背中をくの字に折って腹を押さえた。自業自得である。

 優しい澪亜は聖魔法でゼファーを治癒した。音符がキラキラと舞う。


「助かった。今日何も食えなくなるとこだったぜ」

「女性にそういった発言はあまりよくないと思いますよ?」


 澪亜が困った表情で忠告した。


「フォルテの腹パンよりレイアに言われるのが一番キツイ」


 いたたまれない気持ちになってゼファーが短髪頭をぽりぽりとかいた。


「それにしても、聖女だからレベルアップに補正がついてんのかね?」


 話題を変えるべく、ゼファーが「俺も魔力と幸運ほしい」、とつぶやいて笑う。彼の魔力値は2000、幸運値は330だ。


「きっとそうよ。だって聖女さまだもの。魅力値8200よ、8200」


 フォルテは聖女服姿のレイアと魅力値へ何度か視線を行き来させ、エルフ族の発作が出そうだわ~、と胸を押さえた。エルフ族は可愛いものを見て感情が爆発すると、胸を押さえて思い切りのけぞるという、種族的な癖があった。


「あ、あの、やはり毎回プラス100上がるのはおかしいのでしょうか? できればもう少し体力が上がってほしいのですが……」


 澪亜が申し訳なさそうに眉尻を下げ、二人を上目遣いに見つめる。

 ゼファーとフォルテはあわてて手を振り、「大丈夫大丈夫」と心配する澪亜をなだめた。


「レイアは後衛だろうな」

「そうね。レベルが低い冒険者に結界を張ってもらって、あとは目に見える敵を浄化してもらいましょう」

「瘴気結界ってやつもかけてもらうか?」

「それはアンデッド系の魔物が出てきたらでいいんじゃない?」


 ゼファーとフォルテが真剣な表情になって話し合いを始めた。


 普段はただの若者っぽくても、すぐに頭を切り替えられるところが冒険者Sランクを保持している者の気構えであった。


 澪亜も話し合いに参加し、二人のステータスボードを確認する。

 互いのスキルを把握するのはパーティーを運用するコツの初歩だ。


 三分ほど作戦のレクチャーを受けると、フォルテがアイテムボックスから指輪を取り出した。


「レイア、これをつけていればレベルやステータス値を見られずに済むわ。つけておいて」

「鑑定阻害の指輪、ですか?」


 指輪に鑑定をかけた澪亜が小首をかしげた。


「ええ。知能のある魔物だと鑑定をかけてステータスを見てくるのよ。だから、つけておきなさい」


 フォルテはそう言いつつ、澪亜の左手を恭しく取って、薬指に指輪を入れようとした。

 指輪はシルバーリングだ。


 これにはゼファーがズビシとフォルテの頭にチョップを入れた。


「なんで薬指に入れようとしてんだよ! 婚約する気か?!」

「痛いわね! ついよ、つい! レイアが可愛いんだもん!」


 フォルテが頭をさすりながら、ゼファーに文句を言う。


 どうやら異世界では指輪を薬指に入れると婚約する、という意味があるらしい。


「まあ……」


 一方、薬指に入れないと効果がないのかな、なんだか恥ずかしいです、とドギマギしていた澪亜は顔を赤くした。


「小指にでもつけておけよ。サイズは勝手に調整されるからさ」


 ゼファーの言葉で、澪亜はフォルテから指輪を受け取り、小指につけた。

 シュルシュルとシルバーリングが澪亜の小指サイズに縮まった。


(異世界の指輪はすごいですね……)


 澪亜は小指をかかげて鑑定阻害の指輪を見つめた。



      ○



 ゼファー、フォルテを代表とした冒険者たちが、ララマリア神殿周辺に張られている黄金の結界前に集合した。


 澪亜は聖女として後方支援に回る手はずになっている。


(皆さんの前で挨拶も済ませたから、あとはやるだけだね……)


 緊張しつつも、聖女として百名の前で挨拶をした澪亜。

 伝説である聖女の発言に、冒険者たちの士気は爆上がりであった。


(よし、杖を出して――)


 澪亜は挨拶のときにしまっていたライヒニックの杖をアイテムボックスから取り出し、装備した。


 すでに冒険者たちはパーティーごとに分かれて武器を構えており、その後ろではシュミットをリーダーとしたドワーフたちが“浄化のトーチ”をわきに抱えて出番を待っている。


 ゼファーとフォルテは最前列で、索敵スキルを持った冒険者から魔の森の状況をヒアリングしていた。


(開始の合図で結界を張って後方の冒険者さんを守る……。そのあと、魔物が出てきたら浄化――周囲の安全を確認して、ドワーフさんが地面に埋め込んだ浄化のトーチに聖魔法を込める――)


 作戦内容を頭の中で確認する。


 あとからやってきたウサちゃんが、きゅうと鳴いて澪亜の足元で背を伸ばした。

 すると、先頭にいるゼファーが聖剣を鞘から引き抜いて、天高くかかげた。


「よっしゃあ! 『聖なる街道セントグレイス作戦』をこれから開始するぜ! 俺たち人類が魔物の脅威に打ち勝って、今日という日が百年、二百年と語り継がれることになるんだ! 俺たちは伝説になる! 俺たちは今、聖女レイアとともにあるッ!」


 若く一本気なゼファーらしい真っすぐな気持ちを伝える号令に、冒険者たちは一斉に武器を上げ、「おうっ!」と叫んで返事をした。


 全員の瞳には希望の光が宿っている。


 異世界にて、『聖なる街道セントグレイス作戦』がいよいよ本格始動した。


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