第5話 鑑定をしよう


(ピアノ練習はヒカリダマさんたちとしましょう)


 曲を弾くといつも嬉しそうに聴いてくれるヒカリダマを思い出し、澪亜はニコニコと笑みがこぼれた。


(モデルについて、考えがまとまるかもしれないし……)


 真っ白い部屋から礼拝堂に入る。

 異世界も夜であるため、室内には月明かりがこぼれていた。


(浄化音符――)


 澪亜が念じると、シャラーンと黄金音符たちが出てきて電球代わりに空中へ浮かんだ。


「もう少し明るくできますか? そうそう、それくらいです、ありがとうございます」


 浄化音符は澪亜の意思に従って変形できる万能な魔法だ。

 最近では事あるごとに使っている。


(外は暗いね。時間の流れは日本と同じなんだよね)


 澪亜はそんな考察をしながらピアノの前に座り、ウサちゃんを上に乗せ、十曲ほど弾いた。


 ヒカリダマが楽しげに揺れている。


 ちょうど曲を弾き終わったところで、澪亜は背筋に悪寒が走った。


「きゅ?」


 ウサちゃんも気づいたのか、顔を上げた。


 ヒカリダマたちが怖がって次々と消えていく。礼拝堂は浄化音符の明るさに戻った。


(邪悪探知が反応してる……こういうときは、スキル〈魔物探知〉――)


 澪亜は目を閉じて、魔物を索敵する。

 脳内に赤い点がいくつも浮かび上がった。


 西側に魔物が大量に発生している。


(西側……フォルテ、ゼファーの帰った方向……誰かが襲われている……?)


 妙な胸騒ぎがして、澪亜は席から立ち上がり、ライト代わりの浄化音符を頭上で光らせながら外へ出た。


 念のため聖女装備を装着して、ライヒニックの杖を装備する。

 ウサちゃんもついてきた。


 芝生広場の奥には夜の森が広がっている。


「きゅう」

「そうですね。結界の際まで行ってみましょう」


 ウサちゃんの提案に澪亜はうなずいた。


 サクサクと芝生を踏みしめながら、夜の空気を感じて歩く。

 異世界は空気が澄んでいるのか呼吸が軽いような気がした。


「――ッ」


 澪亜は結界の外を見て息を飲んだ。


 大量の魔物がたむろしており、恨めしそうに結界を睨んでいる。人っぽい異形の怪物から、獣らしき魔物、アメーバのような魔物もいる。


 その奥では人間の怒号と、魔物の雄叫びがわずかに聞こえた。

 魔物たちが澪亜の存在に気づくと一斉に奇声を上げた。


(こ――っ! 怖すぎます!)


 澪亜が杖をぎゅっと握って後ずさった。


 聖女になったとはいえ、澪亜は普通の高校生だ。

 異形の魔物たちは恐ろしい。


「きゅう! きゅんきゅう!」


 ウサちゃんが、「落ち着いて。鑑定を」と鳴く。


「そうですね。落ち着きましょう」


 澪亜は力強くうなずき、ふうと息を吐いた。

 聖女レベル60のおかげか動揺は収まっていく。


「――鑑定」


 そして素早くスキルを使った。

 澪亜は奇妙な叫び声を上げる魔物に鑑定をかけた。


(――落ち着いて現状を確認しよう)


 人の声は奥からまだ聞こえてくる。魔物と戦闘しているようだ。

 これだけの魔物に囲まれては、どんな人数がいても厳しいだろうと思えてしまう。


 早く助けなくてはと焦る反面、恐怖もあった。


「ギャアッ、ギャアッ」「シャアアアッ!」「ギョウ!」


 魔物たちが一斉に結界を攻撃し始めた。


 ガン、ガン、と結界が殴打されて、大きな球体状になっている結界に波紋が広がる。


 澪亜は魔物の横に現れたステータスボードを素早く確認した。


――――――――――

ダークフレイムドッグ

 ◯職業:狩人

  レベル55

  体力/7300

  魔力/3500

  知力/3500

  幸運/100

  魅力/800

 ・魔の森奥地に住む犬。瘴気で凶暴化し、常に自分を炎で覆っている。炎の魔法攻撃が得意。攻撃力/3200

――――――――――


(燃えているおっきいワンちゃん……熱くないのでしょうか)


 自分を燃やしているダークフレイムドッグが平気なのかちょっと気になる澪亜。


 大型犬並の大きさで、牙が凶悪に尖っている。形相も殺意にあふれていた。

 数匹で群れており、まとっている炎でその場が明るい。


 次に剣を持っている魔物を見た。


――――――――――

デビルリザードマン

 ◯職業:剣士

  レベル88

  体力/13500

  魔力/4000

  知力/4000

  幸運/10

  魅力/2000

 ・魔の森奥地に住むリザードマン。剣士である冒険者を殺害して剣士職業を得る。数々のスキルを保有。攻撃力/3800

――――――――――


(この前の熊さんよりレベルが高い! あんな太い腕で剣を振ったらなんでも斬ってしまいそう……できれば近づきたくない)


 全身鱗のリザードマンは身体が紫色をしていて、腰に剣を装備している。

 筋肉で覆われているのか、俊敏な動きができそうだった。


 現在も結界を大ぶりの剣で切りつけていた。


 そんなこんなで澪亜はレベルと能力を確認していく。


 スライム、ゴブリン、オークなど聞いたことのある魔物もいた。


(レベルは50〜80。私は現在60。浄化魔法で退治できるかな……。この世界の女神さま、私に力をお与えください!)


 まだ戦闘を続けている人たちを助けるべく、澪亜は杖を握りしめた。


「きゅっきゅう!」


 ウサちゃんが頑張れと声を上げた。


 澪亜はうなずいて、「浄化音符!」と声を張り上げて、杖を掲げた。


 バラバラと黄金の浄化音符が杖から飛び出し、澪亜の着ている聖女服のスカートがひるがえった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る