第14話 新しいスキル
澪亜はレベルアップのアナウンスに驚いて跳び上がった。
その可愛らしい声にゼファーとフォルテが我に返った。
「デビルマーダーグリズリーが一撃……」
「すごいわ。聖女さまのお力はこれほどなのね……」
精悍な剣士と、美人なエルフが顔を見合わせている。
(浄化魔法って強力みたいだね……何にせよ脅威を取り払えたのならよかった。危険な動物が人里に降りたら大変だもんね)
澪亜も冷静になって、熊の消えた場所を見る。
するとフォルテがエルフらしいしなやかな動きで駆け出し、何かを拾って戻ってきた。
「聖女レイアさま。魔石はどうされますか?」
「魔石?」
澪亜はフォルテが差し出した手のひらへ視線を落とした。
六角柱の形をした水晶石に似た石が乗っている。色は赤だ。
(魔石……ファンタジー映画に出てきそうな石……。温かい感覚。魔力を感じる……)
隣にいたゼファーが笑みを浮かべて澪亜を見た。
「聖女さまは知らないんですか? 魔石ってのは魔物を倒すと出てくるんですよ。魔力を溜め込んでいる動力源みたいなものですね。この大きさなら、街で売れば金貨二百枚はいきますよ」
「これが魔物の核なんですね?」
(人で言う、心臓みたいなものかな? 肉体が魔法の力で存在しているから、退治すると身体が消失して魔石だけ残る……そんなファンタジー的な説明?)
澪亜は今まで観てきたファンタジー映画の知識を総動員して予想をつけた。
実際にこの目で魔物が消えるところを見たばかりだ。もとより質量保存の法則を無視しているとか、そういった科学的要素が通用しない世界であることは魔法を見れば一目瞭然だ。
(何か使い道があればいいけど……)
「きゅう」
考えていると、足元にいるウサちゃんが鳴いた。
澪亜は笑みを浮かべてウサちゃんを抱き上げて、「どうしたのですか?」と首をかしげる。
「きゅっきゅう。きゅう、きゅう」
「ふんふん」
「きゅうきゅうきゅきゅ、きゅ」
「魔石を地面に埋めて、それと一緒に作物を栽培するといいんですね。わかりました」
澪亜は教えてくれたウサちゃんの顎の下を撫でた。
ウサちゃんが気持ちよさそうに目を細めて鼻をぴくぴく動かした。
「聖女さま、フォーチュンラビットと話せるんですね……」
「エルフでもそんな方はいませんよ……」
ゼファーとフォルテが驚いているが、澪亜は気づかずに顔を上げた。
「フォルテさん。魔石は差し上げます。ぜひ作物栽培に使ってくださいませ」
「え? 魔石を作物栽培に? そのような話は一度も聞いたことがありませんよ?」
「そうなのですか? ウサちゃんが魔石を埋めて農業をするといっぱい実がなるよ、と教えてくれました。もしお国が食べ物に困っているならそのようにしてください」
澪亜はウサちゃんの言葉なら真実だろうと信じ切っている。
フォルテは澪亜の鳶色の瞳に見つめられて、イヤとは言えなかった。癒やしの波動がバンバン出ているので建前が消え去って、本音を話す素直な自分になってしまう。
「ありがたく頂戴いたします。また、聖女さまのお言葉を他の者にも広めます」
「はい。それがいいと思います」
ニコニコと澪亜は笑ってうなずいた。
つられてフォルテとゼファーも笑う。
その後、フォルテが周辺に凶悪な魔物がいないか偵察に行き、問題ないことがわかって神殿に戻った。
◯
神殿に戻りながら、澪亜はステータスを確認した。
あまりレベルにこだわりはないが、自分が何をできるのか把握しておく必要はある。
(ステータス表示――)
念じると半透明のボードが現れた。
――――――――――――――――――
平等院澪亜
◯職業:聖女
レベル60
体力/1200(+300)
魔力/6000(+3200)
知力/6000(+3200)
幸運/6000(+5200)
魅力/7000(+8900)
◯一般スキル
〈楽器演奏〉ピアノ・ヴァイオリン
〈料理〉和食・洋食
〈礼儀〉貴族作法・茶道・華道・習字
〈演技〉役者
◯聖女スキル
〈聖魔法〉聖水作成・聖水操作・治癒・結界・保護・浄化・浄化音符
〈癒やしの波動〉
〈癒やしの微笑み〉
〈癒やしの眼差し〉
〈鑑定〉
〈完全言語理解〉
〈アイテムボックス〉
〈オーバーテイム〉
〈危機回避〉
〈邪悪探知〉
〈絶対領域〉
〈魔物探知〉new
◯加護
〈ララマリア神殿の加護〉
◯装備品
聖女の聖衣
ライヒニックの聖杖
ライヒニックのスカート
ライヒニックの白タイツ
ライヒニックの空靴
――――――――――――――――――
レベルが5、上がっている。
魔物探知というスキルも新しく手に入れたようだ。早速、使ってみる。
(ちょっと試してみよう。魔物探知、発動――。魔力を飛ばして魔物を見つけるんだね……。ああっ……森の中にたくさん魔物がいる……こんなに……?)
魔物探知は、魔物がいる方角に目を向けるとその姿が点になって浮かび上がる仕様だ。神殿を囲むようにして魔物が動き回っている。その点が無数に存在していて、澪亜は背筋が冷たくなった。
(私は神殿周辺を囲んでいる結界に守られていたんだね……感謝しないと)
結界がなければ魔物は神殿までやってきていただろうと容易に想像できる。澪亜は自分の幸運と神殿の作成者に感謝した。
神殿に到着して中に入ると、その静謐な空気に身体が弛緩した。
なんだかんだ気を張っていた自分に気づいて、澪亜はふうと息を吐いた。
「さあ、お座りください」
「ありがとうございます」
「感謝いたします――」
澪亜がゼファーとフォルテを椅子へうながし、聖水入りのコップを配って、話の続きをすることにした。
異世界についてまったく無知であるため情報がほしい。
それに、どの程度自分が聖女として手伝いができるかを見極めたかった。
「お二人のことも詳しくお聞かせ願えますか?」
「もちろんです!」
「はい、なんなりと!」
快諾してくれた二人は、フォルテが中心になって、途中であった異世界ララマリアの情勢を説明してくれた。
(へえ……お二人は人族の王国から来たんだね……この神殿と人族の王国が一番近いのかぁ。それなら森を浄化して、道を作って、結界を張る。神殿と王国をつなぐ街道を作るというのはどうかな? それで、この神殿と黄金の結界を拠点にしてもらって、どんどん森を開拓していく。新しい結界は私が作る――)
この異世界は魔の森が中央に陣取っているため、五つの王国が分断されている。
手始めに人間の王国と神殿を街道で繋ぎ、神殿を拠点として他四カ国、エルフ、ドワーフ、獣人、ピクシーの国への道を作る。
澪亜の頭にはそんな絵図が思い浮かんだ。聖女の力があればすべては無理そうでも、聖水を作ったり、目に見える範囲を浄化したりとサポートはできそうだ。
(学校との兼業になっちゃうけど……それでもやってみたいな。まずはお二人に聞いてみよう)
澪亜は思いついた魔の森街道計画を話した。
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