第8話:魔物化・王太子視点

 許さない、私を裏切っていた者は絶対に許さない。

 ベアリング侯爵家のキャスバル。

 代々我が国の忍者を束ね、謀略や暗殺を行って成り上がった下賤な者。

 役に立つからと取立ててやったのに、私を裏切って偽聖女の味方をしていた。

 いや、それどころか、主君である王太子の私に、毒を盛りやがった!


 許せない、絶対に許せない、私と全く同じ状態にしてやる!

 聖女オリビアを愛し合いたかったのに、その為に必要な大切な性器がない。

 聖女オリビアがくれた薬のお陰で、激烈な痛みからは解放されたが、腐り落ちた身体が元に戻ることはなかった。

 せめて舌さえあれば、愛撫を返してもらう事はできなくても、聖女オリビアを愛する事だけはできたのに、舌すら残っていない。


 何を食べても味が分からず、砂を食べているような食事だ。

 いや、そもそも指がないから、スプーンもフォークも持てない。

 この醜い姿を家臣に見られるのが嫌で、幽閉された塔から出る気にもなれなかったが、聖女オリビアの手紙をもらって勇気が出てきた。

 彼女こそ真の聖女、私がどのような姿になろうと愛してくれると誓ってくれた。

 私を助ける薬を、危険を冒して配下に届けさせてくれたのだから。


 話す事も書くこともできず、愛を誓う事もできない私に、無償の愛を届けてくれた彼女のためなら、この命も惜しくはない。

 まして裏切者のキャスバルをこの手で殺すことができるのなら、裏で糸を引いていた偽聖女アリスをこの手で殺せるのなら、躊躇う事など何一つない。

 今から飲む薬が、魔獣に変化するモノであろうと、一時的に魔獣の力を得るだけで、時間が来れば元に姿に戻れるのだ。


 いや、偽聖女アリスを殺すことができたなら、呪いで力を発揮できなかった聖女オリビアが力を取り戻すから、大切な所を失った私の身体を元通りにできるという。

 ただ僅かに不満があるとすれば、老害の父を殺してはいけないという所だ。

 まあ、父殺しは私の傷になると、聖女オリビアが心配してくれている以上、その優しい思いやりを踏みにじる事などできない。


 愚かで役立たずで邪魔しかしない老害の父だが、命だけは助けてやる。

 王位を禅譲させて、この塔に幽閉してやる。

 私がキャスバルに盛られた毒を飲ませて、同じ苦しみを味合わせてやる。

 父に代わりに、乞食でも幽閉させておけば、私が父を殺した事は隠蔽できる。

 聖女オリビアに心配はかけたくないから、慎重に、だが、絶対に父も殺す!


 さあ、もう考えるのは終わりだ。

 聖女オリビアが届けてくれた魔獣に変化する秘薬を飲んで、我が恨みを晴らす。

 アリスを殺して元の身体を取り戻し、おもうさま聖女オリビアと愛し合うのだ!

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