第7話:暗躍・忍者頭キャスバル視点

「父上、どう思われますか?」


「そうだな、偽聖女オリビアの行動に気を付けた方がいい」


 俺の不安を率直に父上に話したら、未熟さを叱責されることもなく、真剣に俺に勘に対する可能性を考えてくださった。

 長年忍者として働いてこられた父上は、勘働きを馬鹿にされたりしない。

 それにしても、これ以上腐れ悪女のオリビアに何ができるというのだろうか?

 

「王太子一派を再起不能にしましたから、オリビアにこれ以上何かできるとは思えないのですが、父上には何か思い当たる方法があるのですか?」


「あくまでも可能性の話だが、我が家に伝わる毒を癒す薬を使うかもしれない。

 成り上がりとはいえ、大陸中に支店を持つ政商の娘だ。

 どこにどんな伝手があるか分からないから、引き続き監視の目を緩めるな」


 なるほど、確かに商人の情報網と収集力は侮れないな。


「分かりました、引き続き厳しく監視させます」


「それと、オリビアが新たな手先を手に入れようとするかもしれない。

 新たな手先を使って、聖女様を弑逆しようとするかもしれない。

 その方が我らの目を掻い潜れる可能性がある」


 新たな手先か、だが王太子一派以外に腐れ悪女に手を貸す者がいるだろうか?


「王太子一派以外に、事ここに及んで、オリビアに味方する者がいるでしょうか?」


「油断するな、相手は聖女様を追放させ、スミス公爵を分離独立させたのだぞ。

 お前はオリビアの事を、王太子を誑かしてこの国を乗っ取るつもりで失敗した、馬鹿だと思っているようだが、最初からこの国を混乱させるためだけが目的の、他国の放った忍者かもしれないのだぞ。

 もしそうなら、聖女を追放しスミス公爵に去らせただけで、大成功なのだぞ!」


 迂闊だった、俺は大馬鹿だ。

 自分が聖女様を護った優秀な忍者だと思っていたが、それは間違いなのだ。

 国を混乱させようとした忍者に、好き勝手に荒らされていたのだ。

 だが、それは俺や父上の失敗ではない。

 王太子一派はもちろん、国王や重臣たちが愚かすぎるのだ。


「申し訳ありません、父上、私が愚かでした」


「分かればいい、問題はこれからだ。

 オリビアが現場の騎士長あたりを誘惑し、聖女様を殺させようする可能性もあれば、国王陛下や重臣を誑かして、新たな手駒としようとするかもしれん。

 国王陛下や重臣たちは、引き続き俺の配下に見張らせるから、お前たちは今まで以上にオリビアを見張り、騎士や戦士を雇わないか監視しろ」


「承りました、父上。

 いっそ、オリビアを殺してしまいませんか。

 その方がこの国のためなのではありませんか?」


「愚かな事を申すな、キャスバル。

 本当にこの国の事を思うのなら、この国を混乱させることなく、民に被害が及ばないように、下劣極まりない王家や重臣たちを滅ぼす事を考えろ」


 なんと、父上はもう王家を見放しておられたのか!

 父上はスミス公爵にこの国を支配していただくおつもりなのだな。

 これでようやく、父上が普段の違うやり方をされている理由が分かった。

 だが、その方が俺もやる気がでる。

 オリビアを上手く使って、王家を滅ぼして見せようじゃないか!

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