第9話:油断・キャスバル視点

 周りは全て魔人に囲まれている。

 助けを求めたくても、並の腕では時間稼ぎにもならない。

 油断とは言いたくないが、この結果では油断してしまったのだろう。

 まさか、魔人を使役するなどとは思いもしなかった。

 いや、魔人や魔獣が人間の指示通り動くなど、どこの誰が考えるというのだ。


「ウギャッギャギャギャ」


 言葉とも分からない音を発して、争うように襲いかかってくる。

 この叫びは獲物争いの牽制なのか、それとも連携のための合図なのか?

 魔人が連携を取るとは思えないのだが、俺の逃がさないように間隔を取って包囲しているところと、恐らく偽聖女オリビアの指示で襲ってきたのを考えると、ある程度の知能があるのは確かだ。


「ウギャ、ウギャ、ウギャ、ウギャァァァァ」


 叫ぶたびに、信じられないほどの速さで剣を突いてくる。

 いや、速さだけではなく、込められたパワーも桁違いだ!

 まともに剣を合わせたら、吹き飛ばされるか、剣が砕かれてしまうだろう。

 何とか魔人の剣を受け流しているが、それだけのために細心の注意を払い、最大の力を発揮しなければいけない。


「ウキャキャキャキャ、ウギャ!」


 一番後ろにいた魔人が、何か偉そうに叫んだ。

 明らかに他の魔人よりも偉そうにしているから、魔人にも身分があるのかもしれないが、何とも言えない違和感が激しい。

 何かおかしいと、俺の勘が訴えてくるが、魔人の猛攻を避けるのに精一杯で、集中して考える事ができない。


「ウギャ、ウギャ、ウギャ、ウギャァァァァ」


 今までの連携の取れないバラバラの攻撃でも、受けるのに精一杯だったのに、徐々に連携が取れるようになってきたうえに、魔人の数も増えてきた。

 隙を突いて逃げるつもりだったが、このままでは逃げる事もできなくなる。

 使い魔を使役して父上に現状を連絡したが、助けが間に合うかは微妙な所だ。

 だが、ここで諦めるわけにはいかない!

 アリス様が聖女に復帰される姿を見るまでは、死ぬわけにはいかないのだ!


「ウキャキャキャキャ、ウギャ!」


 今度は避けきれなかった!

 剣に注意を払っていて、剣を捨てて貫手で攻撃してくるとは思っていなかった。

 今までどの魔人も剣でしか攻撃していなかったのは、俺の思考を固定するためだったのだと、腹から魔人の手が飛び出して初めて理解した。

 だが、問題はそんな事じゃない!


 問題なのは、俺の腹から飛び出している魔人の指に、趣味の悪い指輪がある事だ。

 この趣味の悪い指輪は、王太子の愛用品だ。

 俺が盛った毒で指を失ったにもかかわらず、偽聖女オリビアとお揃いだと、幽閉先の塔にまで持ち込んだ執念の品だ。

 それを身に付けているという事は、この魔人は王太子が変化した姿なのか?


「てぇめえ、腐れ王太子か!?」


「ウギャ、ウギャ、ウギャ、ウギャァァァァ!

 ウキャキャキャキャ、ウギャ!

 ウギャッギャギャギャ、ウギャ、ウギャァァァァ!」


 何を言っているのかは分からないが、俺の事を罵っているのだけは分かる。

 俺が裏切者だという事と、毒を盛った事を知ったのだろう。

 ざまあみろ、愚か者、と言ってやりたいが、口を開けたら血を吐いてしまう。

 今はわずかな時間でも生き延びなければいけない。

 使い魔を通じて、この状況をできるだけ長く父上に伝えなければ!

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