第2話:対策会議・国王視点

 情けない事に、王太子には真実が見えていない。

 この国は聖女によって護られ、聖女によって実りを得ているのだ。

 そんな事は、建国記や歴代の記録を見れば明らかなのに、何も学んでいない。

 荒れ果て作物の実らない大地は、聖女が神の加護を願ったから豊穣の大地となったし、愚王が聖女を蔑ろにすると、実りが減り不作凶作となる。

 そんな明々白々な事すら理解できていない。


「陛下、息子の話では、当面は使い魔で見張るだけのようでございます。

 しかしながら、多くの若者たちは聖女様を殺そうとしているようです。

 全て悪女が唆していると申しております」


 愚かな、女の色香に惑わされ、政を歪曲するなど、王太子の資格がない。

 いや、それは余も同じだ、あのような愚者を王太子に立てたのは余だ。

 余が愚かさが、血を分けた肉親の情が、愚者に権力の一部を預けてしまった。

 この責任は、余が取らなければならない事だ。

 重臣どもも同じだ、こいつらも愚かな息子を跡継ぎに指名した。

 いや、スミス公爵とベアリング侯爵だけは違うな、悪女に惑わされない者を後継者に選んでいる、それだけ自分にも子供にも厳しいという事だ。


「分かった、聖女殺害に動こうとしたら知らせてくれ。

 騎士団を動員して売国奴を捉える、いや、その場で成敗する」


「陛下、それは殿下もでございますか?」


 余の決断に、スミス公爵が厳しい眼で確認してくる。

 いや余だけではない、悪女に跡継ぎを唆された重臣全員に厳しい眼を向けている。

 もし余が王太子を成敗しなければ、重臣どもが跡継ぎを庇おうとしたら、公爵は独立を宣言して公国を建国するだろう。

 そして不当に追放されたアリスを領地に戻し、公国の聖女とするだろう。

 そんな事になったら、この国は終わりだ。

 王家の直轄領も貴族領も、一粒の実りも得られなくなる。


「そうだ、王太子もその場で斬り殺す、その事をこの場で誓おう」


「大臣や騎士団長はどうです、跡継ぎを殺せますか?

 ここで嘘を言っても、後で助けようとすれば意味はないですよ。

 すでに守護神様の御怒りは相当なものです。

 もうそろそろ暖かくなる季節なのに、未だに肌寒いくらいです。

 今年は例年の半分も実りが得られないでしょう」


 スミス公爵の言葉に、余はもちろん、重臣ども全員が真っ青になった。

 分かっていた、分かっていたが、それは頭で分かっていただけで、まだ心のどこかで甘く考えていたところがある。

 聖女様を追放しただけで、命を奪ったわけではないと。

 だが、実際に気候の事を言われれば、思い知るしかない。

 確かに今年の状況は、史書に記録されている愚王が聖女を蔑ろにした年と同じだ。

 これは、今直ぐ王太子たちを殺さねばならないだろうか?


 

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