第一章 衝撃的な出会い 第一話
なぜ
その理由は、私が十二歳の時まで
今世の私の家庭は少し複雑だった。
私の母と父は政略結婚だったため仲が悪かった。その証拠に私が五つの頃、母が病死して間もないうちに父は愛人の女と再婚したのだ。
その上、愛人にはすでに子供がいた。私と同い年の妹だ。
前世と
前世の記憶は物心ついた時にはすでに思い出していたため、当時の私は父を早々に見限り、
記憶がある分、精神
父は流石に母方の実家の目を気にしているのか、私を衣食住に困らせることはなかった。一通りの教育も受けることができた。幸いにも使用人は私に同情してくれたので、身の回りの不満もない。
そして、私は思った。
あれ? 前世の後宮生活に比べればすごく
飲み物に毒やらドレスに
あれ? やっぱり平和だ。
ちょっと継母達と仲が悪いだけで、生活そのものは平和だ。
カボス王国の治世は安定している。この世界では魔王とかいう
平和だ。
前世の何かあれば戦争戦争だった世界と比べれば平和そのものだ。
私は今世の平和に
私の本来の身分を考えれば
私が調子に乗って平穏を
十二の春の
□■□
そのときのことは良く覚えている。
久々に母屋に呼ばれたかと思えば、十人はいるであろう侍女達に
そして、
「やだ、お姉様ったら。久々にお父様とお母様に会ったのに、世間話の一つもしないなんて! さぞやお話が
そう言ってクスクスと笑うエリーゼの目つきは、前世の
他人を
私は彼女を無視して窓の外を見た。
私の態度が
「なんて生意気な子! 容姿が地味で
継母の言い分に父は首を
「何度も言っているだろう。今回の茶会は年頃の
父がギロリと
とはいえ、継母が私に期待しない理由は理解していた。
今世の私が不細工だとは思わないが、前世のようにとびきり美人というわけでもない。対してエリーゼは
容姿だけならその差は
なにせ、今日お会いするのは天才美少年と名高いロータス王太子殿下だ。
カボス王国の第一王子であり、次期国王。そんな尊いご身分に引けを取らないほど、ロータス殿下の多才ぶりは
なんでも、まだ十二というのに、十ヶ国語以上の外国語を話せたり、現存する
そのような
とはいえ、これだけ多才な王子様だ。彼の
「落ち込まないで、お姉様。私より
ふふふ、とエリーゼが笑って
私は内心で助かったと思い、
父を先頭に目的地の中庭まで案内される際、エリーゼが私にだけ聞こえるように言った。
「お姉様。取り柄のないお姉様が王太子殿下に選ばれることなんてあり得ませんから。ご安心くださいね」
やはり笑みを
前世は美しさだけが取り柄だった。
今はその美しさすらない。
そんな私が、将来を約束された王太子の婚約者、ひいては未来の王妃になれるとは思えなかった。
だから、今回の婚約者選びは何事もなく終わるものだと考えていた。
少なくとも、私は当事者ではないと思い込んでいたのだ。
「こちらでございます」
そんな
中庭に通じる
「では、本当に、お気をつけて──いってらっしゃいませ」
まるで戦争に
問いかける前に、従者が扉を開けた。
そして、一歩進んでから従者の言葉の意味を理解した。
私たちが足を
「ハーハッハッハッ! どうした、
──ロータス殿下が
「………」
私は絶句した。
宮廷の中庭は背の高い草や木々が密集して
「………」
「………」
「………」
父も
殿下は空高くから
「サベージ
後半は私達に向けて言ったのだろう。蔓にぶら下がりながら、殿下は父から視線を私と異母妹に移した。
私が
「父からお茶会だとお聞きしたのですが? これではまるで野人の
いつもの笑みを浮かべながら、エリーゼは言った。
不敬とも取られそうな発言に、父と継母が顔を青くする。幸いなことにロータス殿下の
「何を言っている。余は
殿下の言葉にエリーゼは無言で父へ視線を投げる。父はびくりと肩を
「す、すまない。エリーゼ。確かに招待状には婚約者選びをするとしか書かれていなかったけど、まさか中庭でこんなことが行われているとは思わなかったんだ……」
父は明らかにエリーゼに対して
異様な光景を私が
「ふむ、その程度か。エリーゼよ。余を
殿下はそれだけ言うと、また蔓から蔓に飛び移って私達の目の前から姿を消してしまう。
すると、エリーゼがあからさまに不機嫌になった。異母妹の様子に、継母が
「エ、エリーゼ。お願いよ。機嫌を直してちょうだい。あなたが欲しいドレスも宝石も何でも買ってあげるから。ほ、ほら! 見なさい、エリーゼ。あそこで
継母が左前方を指差した。そこには確かに同い年くらいの女の子が転んで泣いていた。
あそこの地面はぬかるんでいるのだろう。ドレスどころか頭まで泥だらけになって、
泣いている彼女を笑う継母に思わず顔を顰めた。それに同調した父にも、異母妹にも。
ああ、くだらない。
私は彼らに背を向けて、転んでいる女の子のもとに向かった。
後ろで何やら言われているけど、無視する。ぬかるむ地面に気をつけて、私は女の子に声をかけた。
「
手を差し
「膝、痛い?」
女の子はこくりと
「……ドレス、お母様が選んでくれたの」
そして、
「お母様が
女の子が、私の裾を強く握る。
「こんなに、泥だらけにしちゃったよ……」
彼女は言い終えると、
「………」
私が女の子の手をそっと
「あ、ご、ごめんなさい。あなたの服が
「泥なんか気にしてない」
誤解させてしまった女の子の手を
そんなことより、もっと頭にきていることがある。
私は周りを
「余を恨むのならば、追いかけてみよ……ね」
私は女の子の手を離すと、すぐそばにあった蔓を
「やってやろうじゃないの」
□■□
「いやあああああ! アザレア様! おやめください! 危険でございま──きゃあ!?」
追ってきた女の子──先ほど名乗りあったときにリリアと言っていた──が地上で必死に首を振るが、私は構わず次の蔓へと飛び移った。
しかし私は
久々に
あまりにも非常識。
蔓からぶら下がって地上を見下ろせば、私達の
当たり前だ。宮廷に招待されたのだ。失礼に当たらない格好で来るのが普通である。しかも、王太子の婚約者選び。たとえ招待状に明記されていなくても、場所が中庭と指定されたのならお茶会やパーティなどといった様式を想像する。服装に気合いが入るのも無理はない。せめて、服装の指定があればリリアのように傷つかないで済んだのに──
ああ、むかつく。嫌い。大嫌い。臣下を
私が色々と過去を思い出して腹を立ててると、視界にちらりと赤い
私は慌ててそちらへ方向
目的の人だと確信した私は、思わずニヤリと笑った。
見ぃつけた。
私はすかさず大きく
ロータス殿下は、
「むう、つまらんのう」
その発言に、私はリリアの泣いている姿を思い出し──不敬とか考える前に、身体が動いた。
勢いが一番強くなるときに蔓から手を離し、右足をピンと伸ばし殿下の腹部へと
「──殿下ァ! お
どこぞの
「えっ」
殿下の
あっ。どうしよう。
着地、何にも考えていなかった。
見事殿下に飛び蹴りを命中させた私は、彼と共に地上へ落ちていった。
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