第35話 謁見 その二
~女帝ブルジュオン視点~
わたしは齢、今年で五十に迫らんとするこの国の女王、ブルジュオンである。
ずいぶん前に帝位を継承したのだが、帝位継承には男性、すなわち『王配』が必要であった。
たいそうな幸運もあり、王配を得たわたしは女王となった後に子供を十数人も授かることにはなったのだが、残念なことに子供はすべて『女』であった。
男児を生んでいればなんの問題もなかったのだが、王女たちがわたしと同じように王配を見つけられなければ、将来かなり苦労を伴うことは確実であろう。
王配ともなれば、そんじょそこらの『男』では、大衆も納得はしないし、おいそれと出来の悪い男を王宮に住まわせるにはいかないのだ。
『出産』こそがわたしの最も大事な仕事であり、王配の存在意義は一にわたしへの『種付け』であった。
それでも生涯を共にと漠然と考えていた、わたしの主人=王配は、籠の鳥として生涯を『種付け』のためだけに生かされることに嫌気がさして、ある日のこと行方知れずとなってしまったのだ。出奔である。
誘拐の可能性は、書置きがあったため、ほぼ否定された。いまだに捜索中ではあるのだが……
後悔先に立たず、後の祭りである。
王女たちにはそんな目に会ってほしくはない。わたしの二の舞をさせるのはごめんだ。
もしも王女の誰かに王配となる男性が見つかったら、今度こそこの国のためにも大事にせねばなるまい……
そんな目の前に迫った問題の解決をどうしようかと日々悩んでいた時であった。
「お母さま…… 今日の国営放送のニュース番組を観ましたでしょうか?」
「ん? なにか面白いニュースでもあったのか?」
「魔道具で録画しておきましたので後で『じっくり』と観ていただきとう存じます」
「おまえが興味を掻き立てられるような出来事があったとはの……」
「お母様、いえ、女王様……わたくしは今まで生きてきた中でこれほどの衝撃を受けたことは、ただの一度もございません。それほどの……映像です」
何をそんなに衝撃を受けているのか……王族、それも王女としての立場というものがあろう…… そんなふうに考えて半ば、鼻で笑っていたわたしの……わtしの『魂』をも揺るがす『映像』がそこにあったのだ。
「…………」
言葉にならないほどの衝撃だった。
「なんという……」
一人の男性とその男性の所属する『学園』の職員との飲み会での出来事をニュースとして放映した二回分約三十分の特別番組は、女であることの喜びとはかくあるものとして全国で大絶賛された内容だったのだ。
映像に映る男性は、歳のころは二十代前半、すらりとした体形に細面の輪郭線は、まさに『イケメン』……そして極め付けは、なんといっても最高の笑顔を何人もの相手女性に振りまき、男のやさしさとはこういうものであるとわたしの『心』に訴えていたのである。
「誰なのだ、この男性は…… 」
衝撃から立ち直ることもままならない状態ではあったが、件の男性の情報収集を急がせた。
わたしのような年齢の『女』でさえ虜にしてしまいそうなその若者の名前は『ユウ』
わたしの預かり知らぬことではあったのだが、世間では 世界始まって以来の『男性高校教師』として一部の者たちにはすでに人気高騰中であったらしい。
「すぐに王宮へ招請せよ! 予算に糸目はつけん。なんとしても連れてくるのじゃ!」
わたしは急いで王宮への招待状を用意させようとしたのだが、実は数日前にはすでに本人宛の招待状は学園の校長経由で渡してあったらしい。
「わたしはそんな情報すら知らなかったのか……」
べつの意味でもかなりのショックではあった……
情報が集まるにつれ、算術に関しての類まれなるかれの知識のことや、礼儀正しく、だれにも優しいそんな人柄が知れるにつれ、王宮内ではもはや『奇跡の人』として認識されつつあった。
わたしもお姫様抱っこされたい…… 一緒に手をつないでデートして散歩して抱きしめてもらいたい…… 買い物にも一緒にいけたらどんなにかすばらしい人生だと実感できるだろうか…… ボートに乗ったり、一緒に買い食いしたりしたかったな……
あの映像を暇な時間を作っては何度も何度も観た……
そして『恋人同士』というにはあまりにも中身のない、男性との味気ない生活しか経験してこなかった女王にとっても、胸のどきどきが収まらない悶々とした日々が続くのであった。
そしてようやく『ユウ先生』との謁見が実現したのだ。
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