第10話 生徒相談、第一号は……
翌日、おれは出勤してすぐに生徒相談第一号を誰にするかを名簿を見ながら選んでいた。
お?ん? これは……男子生徒…… それも宿舎に一緒に住んでる男子からの相談依頼であった。
何はともあれ早速相談室で、件の男子生徒を待つ。相談室は一対一の個室。お互いに面と向かって話はできるのだが、両者の間には超えてはならない仕切りがある。
前世ではドラマにもよく出てきた、囚人と面会人との状況設定によく似ている。
「失礼します」
男子生徒…… おれはこの学園でほとんど初めて会う男子生徒が意外ときれいな顔立ちをしていることに驚いた。
「うん、そこに掛けてね」
遠慮がちに座る少年の名前は、ランボ。 おいおい最強の戦士じゃねえのか、それって……
「それで相談ていうのは?」
「ぼくは、女の子が、女性が怖くてしょうがないんです」
うん、まあこの世界じゃ珍しくないよね。
「何か原因があるの?」
「はい…… この学園には母からのたっての希望で入学させてもらいました」
この世界の男子生徒はほぼ学費免除、その他の生活資金も国から全面バックアップを受けることができる。
「入学そうそう、ぼくは油断していたんです。いくら大勢の女性がいるからといっても相手は女性です。ひどいことにはなるまいと……」
当の女性にとっては何でもないことが、当の男子生徒を傷つけるってことはありうる話ではある。
「入学式が終わったすぐ後に、先輩たち数人に体育館の用具室へと連れていかれました」
ああそれって、あれね…… 密室で大勢で……
「すぐに素っ裸にされ、ぼくは…… 声も出せませんでした…… でもすぐに、危ないところで先生たちに助けてもらったんです」
この子の貞操は守られたわけか…… 不幸中の幸いだけど、そりゃトラウマだわ……
「それ以来、ぼくは女子生徒はおろか先生たちともうまく話もできずに今日までやってきました。正直、出席率もよくありません」
そりゃあしょうがないよね。犯人の女子生徒はどうなった?
「ぼくを襲った先輩たちは、まだ未成年ということで死刑は免れましたが強制労働でしばらくは矯正施設での生活の刑を受けたようです。当然学園は退学扱いです」
まあ無難な裁定か……
いくら未成年だからって罪を許して社会にそのまま放置すればまた事件を起こしかねないからしばらく隔離の必要はあるだろう。報復、逆恨みも怖いしね……
「もう、学校なんてやめようと思ってました」
そうだよねえ、そう思うよな普通……
「でも、そんなときに先生が……先生が、男であるにも関わらず教師としてぼくら男子生徒の前に現れてくれたんです」
一縷の望み、希望の光なわけだ……おれってば……
「先生、ぼくはどうしたら克服できるでしょうか? その、女嫌い、女性恐怖症を……」
ふむ…… なんといって答えようか……
「それにぼくはこれでも一応貴族の跡取りなんです。だからいずれはぼくの意思とは関係なく嫁をもらうことになります。それも何人何十人もです。このまま女性嫌いでは嫁なんてもらう前に…… 自殺してしまいそうなんです」
この世界の男性の自殺率は異常なほど高い。それも無理のない話かもしれない。
案外男っていうのはナイーブな生き物で、トラウマを植え付けられ、外出もできず社会に出て活動することもままならない男性の多くが追い詰められていくというのは想像できる話である。
「ぼくは、そうだね、ランボ君が無理やりすぐに女性恐怖症を克服できるとも思えないし、無理に克服しようと思わなくてもいいんじゃないかと思うよ」
「え? それってどういう……」
「うん、もちろん事情を聞けばそのままの状態は、あまりよろしくないのも事実だけれど、ゆっくり氷を解かすように克服できれば一番いいんじゃないかな」
「でも、どうやって……」
「試しにランボくん、ぼくが今度作る『クラブ』に参加してみないか?一緒に」
「え、クラブですか? それってどんな……」
「君とあとはそうだね、あまり性格のきつくない女子生徒数人から始めていこうと思ってるし、無理やりランボ君にその女子生徒たちと話をしたりは強制はしないさ。自然と君の年齢にふさわしい友達付き合いができるようにぼくがフォローするから安心して任せてほしい」
「先生…… ありがとう、ありがとうございます…… よろしくお願いします。今日、先生と相談できて本当によかったです。もうどうにもならなかったんです……」
ああいい子じゃないか……ランボ君……
こんな男子もいたんだね。 おれもほっとしたよ。
目から汗を流しておれに頭を下げるランボ君は、おれの仲良くなった男子生徒第一号となりました。
さて、さっそく校長に談判して『クラブ』を立ち上げなきゃ……
クラブ…… ふふふ…… 前世でおれがやってた『空手』……
空手部の誕生だぜえ!
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