第8話 一年F組学級委員長、エメロードの場合

 

 わたしの名前はエメロード。カルム学園、一年F組の学級委員長やってます。


 そんなわたしですが、実は貴族に属する一族の末席を拝する一人娘。母親はこの国では中堅に属する貴族家の当主ですが、なんといってもこの国のテレビ局の社長でもあります。


 今は末席扱いでも、いい男、いえお婿さえ見つけてくれば一気に次期当主の座が転がりこんでくるという立場でもあるんです。


「そんなに世の中甘くないよねえ…… 男女共学なんて言ってもさ、ほとんど学園の男子生徒なんて顔も見たこともないし、それにあいつら性格悪いし…… 我慢しろって言われればそれもありかなとは思うけどさ…… そう思わない?ミカ」


「そうよねえ…… それでもお相手がいるだけでもこの世の中じゃあ勝ち組だもんね。そうそうそういえば噂で聞いたんだけど、今度新任の先生くるらしいよ?」


「ええ~…… どうせまた歳のいった女教師でしょ?」


「ううん、そうじゃないらしいよ。イ・ケ・メ・ン!」


「ふほっ!……げほっげほっ……」


「委員長、落ち着いて落ち着いて……」


 昼食を食べながらであったため一気に口の中の物を噴き出してしまいそうになった。


「ほ、ほんとなの?」


「これはある筋からの信ぴょう性の高い情報よ」


「で?で? 早く続きを!」


「うん、イケメンでスタイル抜群の算術担当の先生らしいよ」


「これは…… もし本当なら大騒動になりそうね……」


「うん。男性教師はこの国始まって以来初めてだし、おまけにイケメン!」


「くくく…… これって、わたしたちにもようやく春がやって来るのかも……」


「エム…… そんな舞い上がってたらこの競争に勝てないよ?」


「うっ、そ、そうだ。競争率半端ない……」


「そこはエム、委員長の特権とお母様の伝手で派手に言い寄るしかないんじゃない?既成事実も含めてさ……」


「な、なるほど……男…… イケメン……なんという甘美な響き……」


「委員長ならきっと接近しやすい理由はなんとかなりそうだし、本邦初のそんな男性、マスコミがいつまでもほっておかないでしょ? だったら早急に手をまわして取り込まなきゃ……」


「じゃあ、情報確定したらすぐにお母様にこのことを伝えないと……」


「一大プロジェクトチーム発足するかもね」


「お母様…… いえあの社長ならやりかね、いえなんとしてもやるでしょう」


「そうなったときはエムも次期当主に限りなく確定…… わたしもわたしの家族ももう一段階上へ登れる……」


(ふふふふ……)


 おぬしも悪(わる)よのお…… 越後屋……


 なまじ美少女ゆえの二人の悪代官のごとき薄ら笑いに、同じ教室内の他の女子生徒のドン引きを誘ったのは二人の預かり知らぬことである。


 翌日、当の新任教師の第一回目の授業が終わるや否や、学級委員長は即座に己の母親に緊急連絡、そして国営テレビ始まって以来の大プロジェクトチームが結成されることになったのである。


 ユウの知らぬ所で、様々な思惑を抱えた多くの人、いや女たちの戦いの火ぶたはとっくに切っておとされたのだった。


 そんな新任教師ユウは、一回目の授業が終わると再度校長に呼び出され、はやくも次の展開に直面することになる。


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