第7話 初授業…… 算術って……orz


 さて、この異世界での教師デビュー最初の授業である。

 一年F組は、成績順でクラス分けされているため実力では中堅クラスである。


 入口前で一旦止まって大きく深呼吸…… 静かにドアを……


「きゃあ~ 男よ、男の先生よ! 本物よ~」


 入口を開けたとたん教室は案の定大騒ぎである。


 一クラス約四十人、四十人が一斉に腰を浮かせて大絶叫である。


 そんなに男が珍しいのか? いやそんなはずはないだろ?

 だって少数とは言え男子生徒もいるはずだし……


「わ、わたし、この学校に入学してよかった…… ありがとう、お母さん……」


 今にもおれに詰め寄ろうとせんばかりの、女子生徒を制しておれは教壇に立った。


「静粛に! 他の教室の迷惑になります。騒ぎが大きくなると授業が中止になるかもしれません。ですから静かにね」


 おれは四十人全員に向かってにっこりと笑顔で挨拶です。


 まあ、わかってはいたが卒倒しそうな女子生徒続出……です。


「え~、では自己紹介しておきます。本日よりこの学園の教壇に立つことになったユウと言います。担当科目は『算術』ということになります。みんなよろしくね」


 おお~! とどよめき…… まあ慣れたよ……


「先生は、ど、どこにすんでるんですか?」


「ああ、近くの学園の宿舎」


「せ、先生、独身ですか?」


「結婚歴もないまっさらな独身です」


 さらに大きなどよめきが上がり、生徒たちのテンションは天井知らずである。


「恋人、いえ、愛人でも…… いますか?」


「う~ん…… 今のところ特定のお付き合いしている女性はいません」


「先生はひょっとしてボーイズラブ系?……」


「いえ、正常に『女性』が好きです。男色の趣味はありません」


 ここは大事なこと、はっきりしておかないとね。



「やばいよ、やばいよ…… あんな色男が独身、それも目下恋人なしのフリー! ああ、こんな幸運に当たるなんて…… 信じられない」


「な、なんとかこの幸運をもっとももっと引き寄せないと!」


 ちなみに四十人の女子生徒はおれ基準とはいえ、全員『美少女』である。この学校の制服はいわゆる『セーラー服』なんだが、またそれがよく似合う。


 見た目はとっても清楚な娘ばかりなんだが、それは今後お互い仲良くなるにつれて本性を知ることになるかもしれない。

 

 こんな美少女軍団に囲まれて、前世ならおれの理性はとっくにぶっ飛んでいただろう。


 教師と女子生徒の禁断の恋…… 手を出したら即刻『死刑』…… 理性の神様、よろしくお願いします。 そんなのいるかどうかわからんけど……


 ようやく教室内が落ち着きをとりもどし、授業を開始することにした。


 とはいえ、最初の授業である。雑談がてら、この国のこの年代の学生の数学レベルを知ることが第一だ。


 一応教科書なるものも存在する。


 おれはその教科書の内容をこの場で初めて知ったのだが、愕然としてしまった。


 前世で言うところの、小学校一年生のレベルだ、こりゃあ……


 四則演算の足し算と引き算の低レベルというか初期課程……


 教科書の最後の方でようやく二ケタの演算が紹介されていて、当然前世では暗算でいける程度のものばかりだ。


 教科書の内容に驚きつつも、一番前の席の生徒におれは聞いてみた。


「君たち、計算ってどうやってるの? 筆算とか暗算とか、あと掛け算、割り算とかは?」


 質問された女子生徒の表情は???である。


 筆算?暗算?掛け算?割り算? なにそれ? おいしいの?


「えっと…… 計算なんて手と足を使ってやってますけどみんな…… こんなふうに……」

(やった! 先生に話しかけてもらった~ わたしが最初! えへへ)


 手と足を使った計算だと~? はあ? 高校生だよ、君たち……


 この世界、数学が極端に発達しなかった世界であることを知ったおれの最初の仕事はたぶん、九九を覚えさせることかな…… それから掛け算、割り算、筆算……


 方程式教えるのに何年かかることやら……


 と思ってはいたが、後日この国にも『方程式』が存在することを知るのだが、それはまだ先の話だ。

 

 そういうわけで授業の残り時間は、掛け算の意味を教室内の楯列と横列を例にして教えることから始めたのだが、九九を紹介する前に本日の授業第一回目は終了した。


 終業のチャイムが鳴っておれは教務室へと向かおうとしたのだが、そうは問屋が……


 あっという間に四十人に囲まれてしまったのだ。



「先生! 今の授業のことで質問」

「今日の昼食はぜひこの教室で一緒にお願いします!」

「わ、わたしはこのクラスの委員長の……」

「ぜひ格闘部の顧問を……」

「放課後、補習をお願いします!」

「学校終わったらいい喫茶店へみんなで……」


 いや~際限がない…… 


 おまけに腕をとられ、柔らかな感触と背中にも妙な気持ち良さが……

 おれの理性が……

 若さにあふれたいい香りに囲まれ夢心地…… っていや待て、死刑にはなりたくない!


 こんな状態で何も手を出せないなんて『地獄』だろ?


 ハーレム…… 確かにある意味ハーレムではある…… だが別名地獄という名のハーレムもどき…… おれは神様にだまされただけなんじゃ……


 いやまて、生徒に手は出したらいかんけど、それ以外なら問題ないはず…… それに一線を越えなければ…… 一線ってそういえばどのラインだ? A?B? Cなら一線越えなのか?ひょっとしておれの方からお触りしただけで一線越え? それって無理ゲーじゃね?



 そんなことを考えながら生徒にもみくちゃにされそうなところを、またまた同僚教師の先生方に救出されましたです……


 最初の授業終了です……


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